わたしの罪状
「アリス・セントレナ。罪状、ローゼマリン・フォン=ヴェスター公爵令嬢への殺人未遂として斬首、だそうだ。卒業パーティーでフォン=ヴェスター公爵令嬢へ毒を盛ったんだって?よくやるよなぁ」
鉄格子の前、気持ち悪いカオをした看守がそう告げた。どうやらわたしの罪状は殺人未遂らしい、と初めて知った事実に感嘆する。大方、あのひとがわたしに上手く罪を擦り付けられるように手筈を整えたのだろう。
「一月後だってさ、精々怯えて余生を暮らしな」
くくっ、と何が楽しいのか分からないが楽しそうな看守が鉄格子の前から去り、代わりに黒いパンが中へ投げられた。
「今日のメシだってよ」
何も言う気にすらならない、そんなわたしを大層面白くなさそうに見てから看守は立ち去る。
一日二食、朝はわたしのてのひらサイズの黒くて硬いパン、夜は具の入ってない味のしないスープ。そんな生活を始めて五日目、もう慣れた。
断頭台に立つわたしへご飯が出るだけいいし、二日に一回は女性の看守が来て身体を拭く為の水と布を持ってくる。立場から考えれば充分贅沢というものだろう。
「……ローゼマリン・フォン=ヴェスター公爵令嬢」
ぽつり、と、その名前が滑り落ちた。そういえば、彼女がまた来ると言ってからも五日経つ。やはり、あれはわたしへの同情からの慰めの言葉だったのだろう。自分を殺そうとした相手に態々会いに来るなんて、相当な物好きだけ。
けれど少しだけ、期待している自分がいた。
彼女がやって来て、わたしをここから出してくれるような未来を見てしまっていた。そんな訳無いのに、唯一会いに来てくれた人で、わたしを見る目が他の人と違ったから、少しだけ期待してしまったのだ。
「思いの外、堪えてるのかな」
自覚は無いけれど、こうやって希望に縋りたくなって、ひとりごとが多くなってる。寂しいのか、王子に切り捨てられたことが悲しいのか。
それとも、信じてたあのひとに裏切られたことが、原因か。
いや、そもそも、フォン=ヴェスター公爵令嬢のことを突き放して置いて処刑が決まったから縋るだなんて、そんなムシの良い話、無いだろう。
王子の、傍にいれればそれでいいなんて願いすらも、庶民の、魔力が少し多い程度のわたしでは、過ぎた願いだった。
きつく目を瞑って、もう諦めろ、って言い聞かせればきっと、断頭台に立ったって笑っていられるはずだ。
やってないなんて言ったって、フォン=ヴェスター公爵令嬢へ黒幕を話したって、仲の良い相手を差し置いてわたしなんかを信じないだろう。
ああ、でも、ローゼマリン・フォン=ヴェスター公爵令嬢。
信じてもらえないとしてもわたしは、貴女に話したいことがある。




