逃亡劇2
「アリス様……」
なんで、どうして、どうやって。
「お嬢様?」
ふらり、とミヤの手も借りぬまま馬車から降りた。
何度聞いてもやはり入れてはくれないようで、このまま大人しく帰ろうか、と考えくるりと御者台にいるミヤを見上げた頃。
「ローゼマリン・フォン=ヴェスター!!」
鋭い声に呼び止められ、振り返れば。
締め切られた門の透ける鉄格子の奥。近衛兵に連れられたカイン王子と目が合う。相手は近衛兵に抑えられているのにも関わらず、吠えるように私に食って掛かった。
「貴様のせいだ!!貴様の!!!」
鉄格子越しの剣幕に、意味がわからない言い掛かりに、私はじっと見つめ返し、流れるように一言落ちた。
「はあ?」
「お嬢様」
「ごほん、そもそもアリス様がこんなことになっていたのは誰のせいだとお思いで?」
つい、出てきた、この間も咎められた口調を咳で誤魔化し、嘲弄する。
「そ、れは、」
「わたくしに非がありますか?毒を盛られたとされる被害者のわたくしに?」
「それは、」
アリス様が逃走したということは一度置いておいて、このカイン王子に一言二言三言くらい言いたい私は詰る。
「勅命を勝手に放棄すると仰り、アリス様が毒を盛ろうとしてたなどと妄言を吐いたり、あまつさえ自室謹慎を破り地下牢へ来たカイン王子より?わたくしに非があると?
わたくしが、アリス様を地下牢へ閉じ込め、わたくしが、アリス様の逃走を手引きしたと?」
かつん、と、最後にヒールを鳴らすことも忘れない。
近衛兵、騎士団、門前で待機している商人や業者の前で、全てをぶちまけた私はすっきり。晴れやかな表情でカイン王子に微笑む。
「わたくしが何の為に全てを黙っていたと思うのですか?」
一利の得にもならない沈黙を貫いていたのは、他でもないカイン王子の名を守る為だというのに。王にも、王妃にも止められた訳でも無い。むしろ、私の名声を護る為に公表するべきだとも言われた事柄をずっと黙っていたのに。
なんでこのバカ王子は、そんなこともわからないのだろう。
この際、アリス様を救う為にバカ王子には犠牲になってもらうしかない。
「…………お嬢様」
「なぁに、ミヤ?」
新たに出来たアリス様救済プロットに私はにこにこ。
一方、唖然とするミヤ、呆然とする観衆。恥辱で唇を震わせ、ぷっつりと黙り込んだカイン王子も同じ空間に存在する。喜劇のようなシーンに、私は踵を返して馬車に乗り込んだ。
「入れないなら仕方がないわ。戻るわよ、ミヤ」
「はい、お嬢様」
「し、失礼します!!」
正気を取り戻した近衛兵がずるずるとカイン王子を引き摺って、中門へと消えていった。
「本当に戻るおつもりですか?」
「まさか」
「そうですよね」
数刻も経たないうちに反対側の景色を見ることになったけど、ミヤは勿論わかっていた。
「どちらへ?」
「そうね…………あそこへ」
「かしこまりました」
具体的名称を言わなくても、聡く、付き合いの長いミヤは私の意図を汲んでくれた、と、思う。
何か訳ありで、ご実家と縁がなく寮住まいであった彼女の行く先はそこしかないと。




