想定内の答え
「シリウス」
「姉上」
ノックの後、珍しくシリウスの部屋に訪れた私にシリウスは予想通りと言わんばかりに私を迎え入れた。
自室とほぼ同じ間取りの部屋で、色合いや配置だけ異なるその部屋のソファに促されるまま腰掛ける。
「シリウス、なんで今日はお城にいたの?」
きょとん、と王妃仕込みの無垢な表情を向け、あどけない少女の顔を偽る。
「セルターに誘われたんですよ」
予想通りである。そう簡単には教えてくれないのは、やっぱりセルターと打ち合わせ済みなのだろう。
「セルターは何故お城に?」
「ジルベルト王子に誘われたと」
そこでジルベルト王子なのかっ!とツッコミを入れたくなって、それを我慢した私を自画自賛したい。
「ふぅん、そうなの」
なんてない顔をきちんと作ってシリウスをじっと見つめる。目も反らさず、ただ私と視線を交わすシリウスに嘘を吐いてる様子は無い。
「……昔はおねえちゃんおねえちゃんって着いてきてくれたのに 」
「んなっ!?」
ミヤが用意したハーブティーを堪能していたシリウスへ、ついそんなことを言ってしまった。
「おねえちゃん、かなしい」
「あ、あねうえ?」
何故か急に、シリウスが遠くに感じた。除け者にされているような気がして、それは喜ばしいことであるのに、素直に喜べない自分がいる。
「シリウス」
いかん、と首を振って頭を空っぽにさせ、そんな自分勝手な感情に蓋をした。
「そのうち、話してよね」
「はい」
シリウスも、セルターも、私に関わることなのに物を隠し過ぎじゃないだろうか。私に危害を加えようとしている、というよりは、どちらかというと守ろうとしようとしているような感じはするとはいえ。
「戻るわ」
「はい」
その後、適当な近況報告と雑談でカップを空にし、私はそれ程の収穫も無く自室へ戻った。
「……セルター、やっぱり無理じゃないかなぁ」
部屋の主は、溜め息を吐く。
「姉上に隠し事なんて、そもそも出来る訳無いんだよ」
非凡な才能、奇想な発想、我が姉ながら横に誰が立とうが霞むような美貌と配下への気安い心遣い。そんな貴族らしからぬ姿にたまに忘れがちだが、姉上は昔から誰よりも鋭く、聡い。と、シリウスはローゼマリンが聞いたら笑って誤魔化しそうな評価をしている。
「あーあ、折角カイン王子との婚約が破棄されたと思ってたのに」
猫の皮ならぬ羊の皮を二枚くらい剥いだ弟は、先程までの丁寧さをかなぐり捨ててソファに凭れた。
「……おねえちゃん」
目を瞑る。自分の欲しい物は手に入らない。それならいっそ、いっそ、誰の手にも渡らせず籠に閉じ込めておきたかった。
「我が姉ながら罪深い」
そんなつもり無いのだから、もっとタチが悪い、と弟は眉をしかめて口元を緩めた。