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初対面の訪問者

「ローゼマリン様?」


 正面から聞こえて来たその声に、ここがアリス様の地下牢だったことを思い出した。


 セルターとの話し合い?から数日経って、私はずっとアリス様の元へ通っている。初日は困惑していたアリス様も、私が何もせずただ茶菓子を携えて雑談をしに来ると分かったからか、大分態度が軟化してくれて嬉しい。


「調子が優れませんか?」


 当初では考えられない程こちらの身を案じてくれるその言葉に首を振り、心配させたことに謝罪する。それでも尚窺うように私を見るアリス様を見て、こっそり笑った。


 (公爵令嬢) の権力故に今までより格段に良い待遇を受けているアリス様は、もっと綺麗になった。

 元々目立つような華やかさよりは慎ましやかな美しさを持っていたけれど、更にそこへ儚さが加わって、地下牢という場所も相俟って、囚われの姫君みたいに見える。


「ローゼマリン様、やはり何処か優れないのでは?」


 朝から晩までここに居続け、毎日通った甲斐があると、今のアリス様を見て思う。一見冷たそうなその口調にだって端々に憂慮が含まれているし、透けるような赤い眼差しだって私を案じているのが分かる。


「大丈夫よ」


 まるで懐かなかった黒猫にやっと懐いてもらったみたいだと、また笑う。


 が、そんな楽しい気分は、次にここへ現れた人物の存在によって掻き消された。




「アリス!」

「………………え」


 かちゃんっ、と、軽やかな音と共にカップが割れた。彼女の手から滑り落ちて行ったカップからは先程まで飲んでいた紅茶が円を描いて地面に広がる。


「かいん、さま」


 呆然とその名を呼び、私が入ってきたことで開きっぱなしの地下牢の格子から第一王子が現れた。


「アリス、よかった、無事なんだな?」


 私には見向きもせず、テーブルを挟んで対面に座るアリス様に駆け寄り、その白い手を取る。誰のせいでここにいると思ってるんだ、そう声を上げようとした時、彼女の顔が目に入った。


 唇を震わせ、赤い大きな目が潤んで、ぶっ倒れるんじゃないかと思う程に血の気の引いた顔で、何処かを見ている。


 その視線を自然と追えば、そこにはジルベルト王子がいる。そしてセルターも、シリウスも、第二王子であるルノーウィル王子も。


 ふるふると震えるアリス様を背後に隠すようにして立ち、そもそも何故こんなところにいるのかとその人を睨む。


「カイン王子、ご自身の立場を弁えてくださいませ」


 被害者にされている私が言うことでは無いが彼は加害者候補で、あまつさえ勝手に勅命である婚約に楯突いた方だ。アリス様への接触は勿論、自室から出ることさえも禁じられているはず。


「申し訳ありません、ローゼマリン様。兄が魔術を使ってここへ……」


 隠れるアリス様へ一瞬視線を向けた後、第二王子であるルノーウィル王子は低い腰で経緯を語る。曰く、突如兄である第一王子のカインが自室で魔術を使おうとしていた。


 そこへたまたま通り掛かり気付いた第二王子が急いで止めようと自室へ入った所、既に第一王子は消えた後だった。探そうとし始めた時、見張りをしていた近衛兵がアリス様の所へ行ったのでは無いかという意見を元にここへ来た、と、そういうことらしい。


「アリス……」

「あっ……」


 ルノーウィル王子が説明している間、ずっとアリス様を見ていたカイン王子が彼女の名前を呼ぶ。


「アリス様!?」

「アリス!」


 未だに顔色悪く、本当に倒れてしまうのではないかと心配した矢先、アリス様は何処かを見つめた後に倒れ込んだ。


「アリス様……」


 うるさい外野は無視して、華奢なアリス様を抱え上げてベッドへ寝かせる。何故かさりげなく用意されている水の入った盥と布は気にしないことにして使用し、アリス様の頭へ固く絞った冷たい布を置いてから振り返った。


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