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ヒロインの過去4

「アリス」

「カイン様」


 わたしが彼を王子だと知って態度を改めようとした時、彼はそれを止めた。だからこうして、今日も裏庭で時間を重ねている。


「ローゼ…………いや、ローゼマリンが、今日も定期試験でトップだった。俺は今回も3位だ」


 木陰に座り、彼はそう言っていた。声音からは彼の感情が測れなくて、覗き込む。


「アリス!?」


 失敗した。覗き込もうと近寄った途端、カイン様はばっと、それはそれは俊敏な動きで離れて行った。


「……ごめんなさい、嫌でしたか?」


 予想以上に声が小さくなったのは、距離感を縮めたことが不愉快だと思われたことが傷付いたからだろうか。


「いや、すまない。少し驚いただけだ」


 真面目な顔をしてわたしにそう謝罪したカイン様に安堵し、わたしは率直に気になったことを問い掛けた。


「カイン様は、その、ローゼマリン様がお嫌いではないのですか?」


 今度は、見るからに驚いていた。そして少し悲しそうに顔を歪め、訥々と語ってくれた。


「ローゼマリンは……天才だろう。斜め上の発想、それを組み上げる努力、そしてこんなにも売り出せる構想。確かに、母上や父上、弟もローゼマリンがお気に入りで俺のことなんて眼中に無い。何をやらせても俺より何倍も上手く、速くこなしていく。それが妬ましく無いのかといえば、嘘になるだろうな」


 ぽつぽつと耳に入ってくるローゼマリン様(婚約者)という人の情報。いくらわたしがカイン様を好いているとはいえ、とても勝てるはずも無いと、思い知らされる。家柄も、人柄も、その、才能も。


「でも、今はアリスがいる」

「え、」


 何故そこでわたしの名前が、と、自然と下に落ちていた視線をカイン様に向ければ、彼は優しい目で、わたしを見つめていた。


「アリス。俺は君が好きだ」


 優しい顔で、優しい声で。


 …………どこか、熱が籠る目で。


 カイン様は、わたしにそう言ったのだ。


「わたしもです、カイン様」


 婚約者がいたって、そこに感情が無いのなら、他に想う人がいたっていいだろう。求められたのなら、それに応えたっていいじゃないか。人を好きなった、それの何処か罪だというのだ。婚約者がいたって、その隙間を埋めるくらい、いいじゃないか。


 そんな、言い訳が一斉に頭を占めた。そしてそんな頭で導き出された答えは、彼に応えるだけだ。


 誰にも必要とされていない者同士、お似合いでしょう。


 俯瞰したわたしが、そうやって嘲った気がした。頬を伝った涙は、わたしの罪悪感を一緒に包み込んで、地面に落ちて、シミになっただけ。


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