ヒロインの過去
思えばわたしは、いつだって自分から何かをしたいと伝えたことが無かった気がする。
平民生まれで、虚弱だったわたしは家事も仕事も手伝えず、ただベッドの上で過ごすことが多かった。例え一日気分が優れて母の手伝いをしようとしたって、二つ下の妹にさえ出来ることが出来ない始末。
穀潰し、要らない子、どうして生まれてきたのだと。
そんな言葉を直接吐かれたことは無い。けれど、父と母がわたしを見る目が、他の兄妹とは違うのは明らかだった。
そんなある日の、わたしが15才になったときのこと。
王都から来た教会の人間が、わたしを引き取りたいと申し出た。なんとも、わたしが平民では類い稀な魔力を持っているから。
父と母は喜んでわたしを金貨と交換したこと。聞いたことの無いような声でわたしを持て囃す両親を、その時初めてきちんと目が合ったことを、今でも覚えている。
悪意を向けられるのも良いものでは無かった。けれど、ここまであからさまに醜い感情を向けられては、何も言えなかったことも。
神父様に手を引かれ、揺れない馬車に乗って、一週間くらい掛けて王都に向かった。その間、わたしが覚えなければならぬ教養を神父様からひたすら叩き込まれた。
不思議なことに、神父様が持っていた杖に教えてもらった魔力の存在を流してみると、ずっと不調だった身体が軽くなったのだ。曰く、本来なら放出しなければならないものを貯め続けていたから、体調が悪くなる一方なのだと。
代わりに、ずっとずっと貯め込んでいたお陰で魔力の質が良くなり、量もそれなりだからこそ王都で使えると判断したのだが、それを知るのはもっと先だった。このときはまだ、赤の他人の悪意に晒されたことの無いわたしが抱いた感想は、いいひと、だ。
「いいかい、アリス。君はこれから学園に通うんだ」
「学園、ですか?」
「そう、魔力を持つモノはみんな通わねばならぬ所だよ」
よく学びなさい。そう言った神父様の顔を見て、やっと神父様がわたしをあの家族から買い取った理由がわかった。
高値で売れるのだ、魔力持ちの娘は。しかも生娘で、みてくれもそれなりに良い。魔力持ちの貴族が他国へ流れ国から減っている今、教会や孤児院は寄贈する形で学園に魔力持ちを送る。
その仕組みに気付いたわたしがどうこう出来る訳も無く、付け焼き刃の教養と知識だけを持って学園に送られる。後は適当な爵位持ちの貴族の妾として子を孕み、魔力持ちを生むだけの人生になる。
予定、だった。
暫くサボっててすみません、またちまちま更新します。