幕が上がる
誕生
「やっと会えたわ私の赤ちゃん」
生まれながらに焦点が定まった視界に、母親の疲れながらも満ち足りた表情が映り込む。
感情でもいい母に恵まれたのだと感謝した。
食べたい。
軽い衝動。
自分は正しく生まれたのだという確証。
呪いの自覚。
身体が命ずるままに寝返りをうち、腹ばいになる。頭を持ち上げようとしたけれど少し上がって直ぐに柔らかな毛布に頬がくっついた。
諦めようとしたいのに、身体は起き上がる事を命じ続ける。
違う大人がいかんいかんと、首筋に冷たいものを当てがい、そのまま何かが身体に染み込んできた。
「大丈夫よ。大丈夫」
母に縦抱きにされて、頭をそっと撫でられる。何度生まれ直しても、母親とは心地が良いものだと思う。
この子は通常より食欲が強いようだ。
今は薬で落ち着かせることができるが、無理であれば……
はい
「大丈夫。ここにいられないとわかっても、私はあなたをひとりにしないわ。あなたが私を必要としなくなるまで、ずっとずっとあなたといるわ」
母の指が手に触れる。不随意に握り込まれた自分の手を見ると、ヒトの形をしていた。
この人になら全てを任せていい。
今だけは、使命を放棄してもいいだろう。
根拠もないのにただ安堵していた。
果てのない心地よさに微睡んだ。
敵襲!!敵襲!!
祓魔師どもだ
母との別れが近い事を悟った。
できる事であれば、オレを捨ててでも逃げて生き延びて欲しかった。
母が、オレを抱えて屋外へ逃げ出す。今すぐ放り出してしまえ。絶対オレならば生き残る。
「大丈夫。大丈夫。何があってもあなたを護るわ」
違う、違う。オレがいたら貴女が生き残れない。
嫌だ、そんなことは違う。間違いだ、あってはならない。嫌だ、嫌だ、嫌だ……
肉を貫く音と、浮遊感、弾む衝撃。
母の苦痛に歪められた顔が目に入る。
母がオレに手を伸ばす。
その場で横たわって亡骸のフリでもしていて欲しい。少しでも自分が生き残る方法を考えてほしかった。
母オレを抱えながら蹲り、追ってきた奴らに背を向ける。全身でオレを護ろうとする。
「どうか、どうかこの子だけは」
ドスッ
肉を突き刺す音が聞こえる。
「どうか」
ドスッ
痛みのあまり母がオレを落とす。少しでもオレに危害が及ばない様に身体を離す。
「どうか」
ドスッ
母が懇願する度に母が貫かれる音がする。
「どうか」
ドスッ
お願いだから
「どうか」
ドスッ
もう楽に
ドスッ
ああ
ドスッ
ポタポタポタポタ
ダブァ
ダバダバダバダダバダダバダ
お腹がすいた