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こちらギルドの保険屋です!  作者: 村山真悟
第1章 強欲神父と保険員
9/20

その9


 お姉ちゃんに引き摺られて連れてこられた場所。


 そこはギルド本部の最上階。


 ギルド総長室に私はいる。


 もちろん、両手足に枷を付けられてね。


「……はぁ」


 執務机で溜息をつくお姉ちゃん。


 どうしたのよ?


 溜息つくと幸せが逃げていくって言うのにお姉ちゃんってば何度も溜息ついちゃってさ。


 ジト目の私を見て漏れる溜息。


「…あんた自分がしたこと理解してる?」


 項垂れながら私に問いかけてくるお姉ちゃんってば、そんなの決まってるじゃない。


「うん、人助け…」


 自信満々に答えたわよ。


 だって、本当のことだもの。


「はぁ…まぁ、確かに助けてるけどさ…あんた、人命より先に素材回収を優先してたじゃない」


 深い溜息をついて呆れた表情で私を見つめてくるけど冒険者にとって素材は大事よ。だってねーー。


「素材は…生きる糧」


 うん、我ながら名言だわ。


 冒険者の矜持って言っても良いんじゃない?


 胸を反らして堂々とする私にキッと睨むように殺気を放つお姉ちゃんにビクリと身体が震えた。


「…ばか、時と場合によるでしょ?」


 お姉ちゃんの瞳が据わったわ。


 マジなやつだ。


 少しビビってるけど引き下がるわけにはいかない。だって引き下がった時点で私の負けだから。


 つまり開き直るしか私に生きる術がない。


 だから、冒険者心に訴えることにしたの。


「…大量のお宝…素材が…わたしを呼んでた」


 お姉ちゃんも元冒険者なら分かるはず…もなく。


 私の言葉に頭を抱えながら何かを書き始めたわ。


 うんっ?アレって確かギルドの誓約書よね?


 滑らかな羊皮紙に刻み込まれた術式が淡い光を放っているから間違いない。


 うん?何かしら…嫌な予感がするわね。


 引き出しから取り出したギルド総長を示す紋章の印鑑を羊皮紙に押しつけて私にみせる。


 なんか書いてるわね。


 手に取りたくないし見たくないな。


 視線を逸らして羊皮紙を見ないようにする私に深い溜息をつきながら内容を読み上げる。


「はぁー、全く…ソニア、あなたを総長権限により冒険者ギルドから除名するわ。理由はギルド五ヶ条を破った事によるもので冒険者不適応と認定、その権限を剥奪するものとする」


 お姉ちゃんの言葉に反応するように羊皮紙の術式が反応して、私が首から提げていたギルドカードの色合いが変化していく。


「………っ!?」


 ジャラジャラと音を立てながら震える指先でギルドカードを手に取った私は動揺を隠せなかったわ。


 だってね、私のランクと職業欄が消えてて冒険者じゃなくなってたの。


 それだけじゃなくて、消えた職業欄に『無職』って文字が浮かび上がったのよ。


 なによ、職業欄に無職って?


 無職って仕事なの?


「む、む、無職………」


 いくら私でも受け入れられないわ。


 まって……冒険者じゃなくなったら。


「私のバッグの素材は?」


 ふいにオネェ騎士が持っていったバッグを思いだした私は縋るような瞳でお姉ちゃんに聞いてみた。


「うん?冒険者じゃないから没収ね。あれだけの素材だとギルドの運営費が増えるから助かるわね」


 にやりと口元を歪ませるお姉ちゃん。


 当たり前のように没収って……。


「あんまりだ……」


 もうね、涙目よ。


 あの素材を売れてたら私はしばらくは遊んで暮らせたのに…没収ってなによ?あり得ない!


 私の豪遊生活を返して。


 よし決めたーー暴れよう。


「理不尽だ…権力に屈しない」


 そう呟いて私は腕に力を込める。


 バキッ。


 手足の鎖を力任せに引きちぎって、身体中に力を込めて身体強化を行うと藍色をした気配が私を包み込んでいく。


「…へぇ、やる気?」


 その姿にお姉ちゃんの瞳に狂喜が宿って、私と違った真っ赤な気配が背後で立ち上り始めた。


 私の暴走に【狂乱戦姫】の闘争本能に火を付けたみたい。ヤバい、けど、引っ込みが付かない。


「ふふっ、良い度胸じゃない。じゃあ、私に負けを認めさせたら超法的措置で冒険者稼業に復帰させてあげるわよ」


 お姉ちゃんの言葉に私の口元が微かに歪む。


 勝たなくても言いわけね……。


 なら、何とかなるかもしれない。


「…顕現せよ、四大精霊の眷属達よ」


 その言葉に反応するように藍色の気配が色合いを変えて四体の精霊達を形作り始める。


「ふぅ~ん、いきなり全開で来るのね?」


 壁に立てかけてた大剣を肩に担ぎながらお姉ちゃんは楽しげな笑みで私を見つめている。


「……当然」


 内心、ビクビクしながらも気丈に振る舞う。


 だって、隙を見せたら殺される。 


 私の周囲に火蜥蜴、水魚、風鳥、土蜘蛛が姿を現す。もうね、全開で一気に押し切るしかないから。


「…さぁ、いくわ…よ?なにしてるの?」


 気合いを入れてビシッとお姉ちゃんを指差す私に顕現した四大精霊の眷属達は……速攻で土下座してた。しかも、涙目で私に向かって首を横に振っているし。


 しかもねーー。


「…えっ?」


 みんなお姉ちゃんの影に隠れちゃったんだけど?えっ、ちょっと、意味が理解できないんだけど?


 顕現したの私よね…。


 なに、戦闘態勢とって私に呻ってるのよ?


「まぁ、精霊は強いものに惹かれるからね……アンタが弱すぎるんじゃない?」


 大剣で、肩をポンポン叩きながら苦笑いを浮かべるお姉ちゃんと青ざめる私、いまの私は剣一つ持っていない完全な丸腰、体格差もあるから腕力では勝てる気もしない。


 はいっ……積んだ。下克上終了です。


 早すぎない?


 ものの1分で結果の出る勝負って何なのよ?


 だいたい、なんで…裏切るのよ。


 絶望を感じながら精霊達を睨みつけるとみんな、視線を逸らして目を合わせようとしない。


「……はぁ」


 そんな姿に溜息しか出てこない。


「っで?」


 項垂れる私にお姉ちゃんが聞いてくる。


「……うん?」


 意味が分からない。


 けど、お姉ちゃんってばーー。


 ガシャン!


 肩に担いでいた大剣を床に突き刺して柄の部分に顎を乗せながら私を見つめてくる。


「喧嘩をふっかけておいて、まさかこれで終わりなんて言わないわよねぇ~」


 狂喜を含んだ瞳が細まり、口角があり得ないぐらい吊り上がったお姉ちゃんの表情ーーーオワッタ。


 顔面蒼白になって身体が無意識に震え出す。

 

 戦闘狂のお姉ちゃんに火を付けたんだから満足しなきゃ納まるわけがない……。


 さて、どうすれば生き残れる?


 最悪なことに副総長の旦那さんは保険屋さんに会いに行ってるからいないし。


「さあ、さあ、さあ、さあ!私を満足させてくれるんでしょ?抗いなさい、私の狂喜から、死のダンスを一緒に踊ろうじゃなぁい。ヒャアハァ~」


 妙な奇声まで出ちゃって、完全に瞳も逝っちゃってるし、きっと脳内麻薬がドバドバ出ちゃってるんだろうね。なによ、死のダンスって?


 謹んでご遠慮、申し上げます…。


 まぁ、ああなったら満足しなきゃ止まらないだろうけど、いまの私が対抗できる手段は素早さだけ。


 これだけはお姉ちゃんに負けない自信がある。


 よしっ、逃げるっきゃない。


 とことん、逃げ切ってやる。


 誰が犠牲になろうが知ったこっちゃない。


 我が身が大事、それで逃げながらギルドの保管庫から金品強奪して逃亡生活よ。


 ふふふっ、逃げ延びてやる。


 先ずは目線だけを動かして脱出路を探す。


「ふぅ~ん、逃げの一手ねぇ…」


 私の目の動きに次の行動を易々と読まれてしまう。まぁ、そんなこと分かってるけどね。


 さてさて、どう逃げようかなーー。


 

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