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こちらギルドの保険屋です!  作者: 村山真悟
第1章 強欲神父と保険員
6/20

その6


 ズルズルと引き摺られる私。


 もう抵抗するのも、助けを求めるのも諦めたわ…だってさ、お姉ちゃんを見た瞬間にみんな視線を逸らすもの。


 ドナドナド~ナーーー。


 これで赤いリボンを付けてたら私ってば本当に売られていくんじゃないかしら?


 街の城壁が間近に迫ってくるとお姉ちゃんに気付いた門番さんがバタバタと飛び出してくる。


 騎士団用の白銀の鎧に身を包んでいるけどさぁ。あれって走りにくそうなんだけど大丈夫かな? 


 ガチャガチャガチャーーーバタンッ。


 あっ、コケた。うっわぁ~、顔からいったよ。あれって絶対痛いやつじゃない。そんなに慌てなくてもいいのに……。


 まぁ、ギルド本部のトップで渾名持ちがきたら慌てるのは分かるし走ってくるのも理解できるんだけど……鼻血でてるよ?


「ヴィオラ総長お疲れ様です。先程は急いでいたみたいですが何かあったんですか?」


 門番さん、鼻血垂らしながら笑顔を振りまいても恐いだけだよ?ほら、お姉ちゃんですらドン引きしてるし。


 そりゃあ、あんな鬼の形相で飛び出せば誰だって何かあったと思うけどそこまで慌てなくてもいいんじゃないの。


「あぁ、職務ご苦労様。う~ん、そうねぇできの悪い身内の不祥事の後始末?ってか、あなたの方こそ大丈夫?」


 疑問系で答えながら眉間に皺を寄せて門番さんを心配するお姉ちゃん。ってか、誰のこと?できの悪い身内って…あっ、私か。


 いや、私しかいないんだろうけど…実の姉から言われるとかなりショックよねーージャラジャラって鎖で私を引き摺って弄ばないでお姉ちゃん。


 地味にイタいからーー。


 そんな私の苦悩なんて知らずにお姉ちゃんの話にウンウン頷いてるんじゃないわよ、門番さん。


 私とあなたは、知らない仲じゃないでしょ!


 朝、門を出るときに挨拶するぐらいだけど。


 それよか、鼻血を拭きなさいよ。失血死するぐらいダラダラ流れてるわよ……。


「身内と言われるとギルド内での問題ですか?あぁ、その鎖の先に居るのが捕縛した輩のですね。全くヴィオラ総長のお膝元で不祥事なんてどんなふてぇ奴なんですか。ちょっと失礼、どれどれ…………えっ?」


 興味津々で鎖に縛られた不祥事を起こした奴の顔を見ようと覗き込んだ門番さんと私の目がバッチリと合ったわ。


「…ども」


 うん、しっかりと私は門番さんの目を見つめて挨拶したわよーーでもね。


 ーーーーツィ。


 速攻で視線を逸らしやがったわ。朝、あなたに挨拶したときは笑顔で返してくれたじゃない……この裏切り者。


「…あ…あんまりだ…」


 私はじいーっと視線を逸らす門番さんを見つめながら門を通り過ぎていく。


 最後まで目を逸らしてたわ、あの門番さん。


 無実になったら憶えてらっしゃい。


 鼻血だけじゃ済ませないんだから。


「ふふふっ…」


 私がまた不気味な笑い声を上げるとーー。


 ゴンッ!


 気持ちの良い衝撃が私の脳天を直撃した。


「その笑い方、恐いわっ!」


 手加減無しの鉄拳制裁…お姉ちゃん、私じゃなきゃ完全に死んでるよ……手加減しようよ。 


「…イタい」


 ズキズキ痛む頭を抑えながら涙目でお姉ちゃんを睨むとすっごく冷たい目で私を見下ろしてきたわ。


「…ケンカなら買うわよ?」


 なんだろ…多分、売ったら高値で買われそう。


「いえ、結構です…ごめんなさい…」


 勝てる気がしない。


 あれ、おかしいな。


 ランクは同じで私も渾名があるのに…なんだろう、この次元が全く違う感覚は?


 あっ、そっか!お姉ちゃん、人間じゃーーゴンッ!ーーイタい、まだ何も言ってないのに。


「なんだか…ケンカ売られた気がしたわ」


 そうですか……さすがですね。


 もう、心の声まで敬語だわ。


 市街地の街道でもお姉ちゃんは周囲を気にする様子もなくズルズルと私を引き摺って街の中央に聳え立つ赤煉瓦造りの建物の前で立ち止まった。


 うん、懐かしい。今朝ぶりだけど。


 ギルド本部だね。


 バンッ!


 勢いよく扉を開いて、お姉ちゃんと鎖で引き摺られた私が中へと入るとーーー


 ザワザワザワザワ。


 冒険者の人達が私達を見てざわつき始める。


「あれってヴィオラさんじゃねぇ?」


「…ってか、引き摺られているのソニアだろ?」


「なにやらかしたんだ……」


 うん、注目の的ね。


 皆の頭の中で色んな疑問が渦巻いているのが手に取るように判るわ。


「姉妹喧嘩か?」


 冒険者の一人がボソリと呟いた。


 違うわよ!なに?姉妹喧嘩で妹が縛られて引き摺られるってどんだけ仲が悪いってのよ。


 私は従順よ……だって勝てる気しないから。


 周囲の憶測にギルド内がざわついていると何事だろうかとカウンターから顔を覗かせるシフォンさんの姿が私には聖母様に見えたわ。


 だって助けてもらえるかも。


 そんな淡い期待を胸に涙目でシフォンさんを見つめたんだけど……。


ーごめんねぇ~。


 手を顔の前で合わせてそのままカウンター奥へと消えていきました。


 ですよね、ギルド職員さんですもんね。


 お姉ちゃんは上司ですもんねぇ…。


 最後の希望も潰えた私は諦めた…うん、完全にね。もうね、無実でも有罪でもどっちでもいいや。


 引きずられてギルドの奥の部屋へと連れて行かれる。この部屋は通称『尋問室』まぁ、人によっては『拷問部屋』なんて言う冒険者もいるわね。


 ギルド五ヶ条を破った人が、その真意を確かめるためにちょ~っとギルド職員に質問を受けるだけなんだけど…。


「すいません!すいません!ごめんなさい!」


 あらっ、先客が居るみたいね。


 いい歳したおっさんの涙声が聞こえてる。


 しかも何だか聞き覚えがあるような?


 まぁ、使用中ならしばらくは使えないわね。その間に逃げ出すチャンスがあるかも知れないし。


「ちっ、使ってるのね」


 苛立たしげな表情を浮かべるお姉ちゃん。


 女の子がそんな恐い顔して舌打ちなんてしてると旦那から愛想を尽かされるよ?ってか、尽かされれば良いーーーゴンッーーーなんで心の声が分かるのよ、ホントに。


「まぁギルドの総長は私、ということは私がギルドでギルドは私のもの」


 えっとぉ、お姉ちゃん?


 それってアレだよね。傍若無人なガキ大将の理論だよね?お姉ちゃん、いい大人だよね?なんで扉の前で足を上げてるの?


 ドカッーーーバキッ。


 はい、扉が室内へと吹っ飛んでいきました。


 しかも、中で尋問していたギルド職員と冒険者の間をすり抜けて壁に突き刺さったよ……二人とも当たらなくて良かったね。


 そんな私の心配を余所にお姉ちゃんってば足を上げたままドヤ顔で「私が正義」ってキメ台詞を吐いてるけど。


 ……それって器物損壊だよ?


 それに始末書を書かされるのお姉ちゃんだよ……だって、壊された『尋問室』の扉の先で冒険者の尋問をしていたギルド職員の人が頬を引き攣らせてるから。


「…これはどう言う事だ、ヴィオラ総長?」


 銀髪に黒縁眼鏡でギルドの制服を着た男の人が頬をヒクヒクさせながら睨みつけている。


「えっとねぇ………ノック?」


 扉が吹っ飛ぶノックなんてあるわけないでしょ?


「そんなノックがあって堪るか!」


 ほら、突っ込まれた。


「えっとね、えっとね」


 その人に怒られて汐らしくなりながら目線を彷徨わせ始めるお姉ちゃん。


 ……うん、気持ち悪いーーはっ!そんなことない!可愛らしい……セーフ。ふぅ、また鉄拳制裁食らうとこだったわよ。


「…ったく、考え無しに行動する癖はどうにかならないのか?お前は大切な奧さんなんだから心配するだろ?」


 そう言いながらお姉ちゃんの頭を優しく撫でる銀髪黒メガネのギルド職員、言い忘れてたけどこの人がお姉ちゃんの旦那さんでオルガー・デュエル。


 因みに今は事務と副総長を兼任してるの。


 んで、お姉ちゃんと結婚して付いた渾名が『調教師』うん、この渾名付けた人きっとお姉ちゃんに抹殺されたね……ご愁傷さま。


 まぁ、それは良いんだけどさぁ……。


「うん、気をつける…ごめんね、あなた」


 そっと旦那に寄り添うお姉ちゃん。


「お前さえ居れば俺は幸せなんだから」


 お姉ちゃんをギュッと抱きしめる旦那さん。


 目と目で見つめ合って


「うん、大好きよあなた」


「俺もだよ、ヴィオラ」


 …………………………言葉も無いわよ。


 さっきまで拷問もとい尋問を受けていた涙目のオッちゃんと私はジト目で自分達の世界に這入り込んでいる二人を見つめる。


「おっちゃん何したの?」


 半泣きのオッちゃんに声をかけてみる。


「マッピング面倒くさくてサボったのがバレた…っで、お前さんは何で連行されたんだ?」


「…無実」


「そっか…頑張れよ。おっちゃん、しばらく冒険者稼業を休んでゆっくりするわ」


 何だか現実逃避をするように遠い目をするオッちゃん…ホントに何されたのよ?

 

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