表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらギルドの保険屋です!  作者: 村山真悟
第1章 強欲神父と保険員
2/20

其の2


 何時もと変わらない朝、私は依頼を受けるためにギルドの受付に向かったの。


 結構、早めに来たつもりだったけどギルドの受付カウンターはかなりの列が出来てて小さく溜息を付いてから先に依頼が張り出されてる掲示板に向かうことにしたわ。


 掲示板に張り出されてるのは各種依頼でランク事に難易度が一緒に張り出されてるんだけど……うん、完全に出遅れた。


 残ってるのは薬草採取や長期依頼の商隊護衛ばかりでダンジョン内討伐依頼はほとんど残っていなかったの。


「…護衛は面倒い…けど、今さら薬草採取はしたくない。どうしようか……今月かなりピンチ」


 ギルドカードを取り出し預金残高を確認する。


 ギルドに所属すると発行されるギルドカードは便利なものでギルドが運営している銀行や武具屋などはこのカードで決済が出来るの。


 勿論、残高も分かるし身分証明にもなるから冒険者じゃなくても所持している人は結構いるらしい。


 ただ、このギルドカードにはルールがあるの。


 通称『ギルド五ヶ条』


 ・ギルド内でのイザコザは厳禁


 ・ギルドによる指名 依頼は断ることが出来ない


 ・ギルドランクは厳格に審査を行う


 ・ダンジョン、魔物等の情報は共有すること


 ・ダンジョン内での救助は最優先事項とする


 上記のルールを厳守することによりギルドはそれを守る者を庇護するものとする


 まぁ、当たり前のことだからみんな守るよね。


 私も何も考えずに同意の契約したし……後で後悔するんなんて夢にも思わなかったけどね。


 取りあえず、今の私は切羽詰まってる。


 何せ……お金がない。


「…はぁ」


 預金残高をみて大きく溜息を付く。 


 どう切り詰めても三日がいいところだった。


「…ダンジョンで素材採取と下層エリアのマッピングしかないかなぁ……うぅ、マッピングは面倒い」


 素材採取は依頼がなくても大丈夫だけどその分、買い取り金額が死ぬほど安い。依頼討伐と比べても格段に安くなってしまう。


 さらに新たな階層に行く場合はマッピング作業もやらなければならない……ギルド五ヶ条その四ね。


 普通はパーティーを組んで攻略するから分担が出来るけど私の場合はソロプレイヤーだから全部一人でやらないといけない。


 うん、面倒い。


 でも、今更パーティー組む気もしない。


「…はぁ~」


 掲示板の前で深い溜息を付く私を他の冒険者達が苦笑いしながら通り過ぎていく。


「ソニアの奴、まぁた溜息ついてるよ」


 呆れたような声が聞こえた。


「しゃあねぇだろ?ソロは大変なんだって」


 どこかのパーティが私を横目に噂していた。


 死んだ魚のような目で振り返ると見知ったパーティーだった。【木漏れ日の旅団】名前だけ聞くと何だか爽やかな人たちを想像するけど実際はガチムチのおっさんパーティで木漏れ日の要素一つない。


「まぁ、『瞬姫』に付いていける奴はいないからなぁ。ソニアぁ~俺たちと一緒に行くかぁ?」


 パーティリーダーのジルさんが私に声をかけてくれたのでちょっと考えてみる。


 因みに『瞬姫』は私の二つ名だ。


 意味は……さあ?判らない。


 ガチムチのおっさんパーティとダンジョン攻略かぁ……ないな。悪い人たちじゃないけど…ねぇ。


「…う~ん、切羽詰まったらお願いする…」


 親切に声をかけてくれたから私はちゃんと頭を下げて謝る。冒険者としての礼儀だからね。


「そっかぁー、まぁ無理するなよ」


 ジルさんは別段、残念そうな様子もなくあっさりとした口調で離れていく。


「うん、ありがと」


 軽く手を振って別れるともう一度、掲示板に視点を向ける。うん、やっぱり変わらないよね。


 しばらく掲示板を眺めていたけど何も変わらないので取りあえず受付に行ってみることにした。


 私のランクだと直接ギルドからの依頼もあるかもしれないからだ。まぁ、望み薄なんだけどね。


 受付の列も一段落したみたいで、だいぶ空いてたから直ぐに私の順番が回ってきた。


「あらあら…今日は一段と死んだ目をしてるわねぇ。ソニアちゃんは可愛いんだから笑った方が良いわよぉ」


 かなり間延びした声で私の相手をしてくれた受付嬢はこのギルド名物受付三姉妹の長女のシフォンさんでウェーブがかったセミロングの銀髪で少し垂れ目のおっとり系のお姉さん。


 冒険者の間でも人気の受付嬢さんで噂によるとファンクラブがあるとかないとか、まぁどうでもいいんだけどね。


「…仕事がない…お金もない……何かない?」


 項垂れながら受付カウンターに顎をのせて愚痴る私を頬に手を当てながら困ったように首を傾げる。


「あらあら、そうねぇ~。ソニアちゃんのランクだとなかなか満足のいく仕事はないものねぇ。困ったわねぇ、今はギルド依頼もないし」


 最後の希望も玉砕、割に合わないけど素材採取とマッピングしかないのかなぁ……うぅ、面倒い。


 やる気ゼロ、でも仕事しないとお金がない。


「じゃあ、諦めてダンジョン行ってくる……」


 ガックリと肩を落としながら立ち上がった私をシフォンさんが間延びした声で呼び止めた。


「ソニアちゃん、最下層に行くならぁ~、マッピングを忘れないでねぇ。出来ればフロアボスを倒して弱点も見つけてきてくれるとスゴく助かるわぁ~」


 注文、多くない?


 しかも、あんな笑顔で……私、ソロなんですけど?フロアボスを倒して弱点も見つけてこいと?


 私は満面の笑みを浮かべてるシフォンさんに苦笑いで答えながらダンジョンに向かうことにした。


「気をつけてねぇ~」


 カウンターから身を乗り出して手を振ってくれるシフォンさん、悪気が一切ないから質が悪いのよ。


 重い足取りでギルド内を歩いていた私の傍を軽鎧を着たオッちゃんが足早に掲示板に向かっていき大きな溜息を付いているのが見えた。


「あちゃあ、完全に出遅れたなぁ」


 聞き覚えのある声に私はジト目で振り返る。


 軽鎧を着て背中に大剣を背負ったオッちゃん、ギルバート・シェルこの人も基本はソロでダンジョン攻略している。


 一番の特徴は頭……毛根?何それおいしいの?と言わんばかりに光り輝く禿げ頭である。


「ギルバートのおっちゃん…能天気…仕事は早い者勝ち……うん、今日も一段と光ってる」


 思わずグッと親指を向けると「がっははは!」と大きな笑い声を上げながら自分の額?をペシペシと盛大に叩いている。


「うんで?嬢ちゃんは仕事にありつけたのか?」


 陽気なおっちゃんが聞いてくる。


「……それは言わないで」


 ガックリと項垂れた私を見て、また盛大に笑うと私の背中をバシバシと叩いてきた。


「まぁ、頑張れや。おっちゃんは今日は休みにすっから、今から酒場に行ってたらふく飲んでくるとするわ!じゃあなぁ~」


 嵐のように現れて嵐のように去っていくおっちゃん、まだ朝方だよ………駄目人間の典型だ。


 しかも、地味に背中イタいし……。


 やる気ゼロの私は生活のために渋々、割に合わない仕事するためにダンジョンへと向かうのだった。


            *


 ドノワール聖帝国が管理しているダンジョンは三つ、どれも未だ最下層まで辿り着くことが出来ていないわ。


 一つは初見殺しの洞窟型ダンジョン【ミノルス】


 このダンジョンの特徴はとにかく初見殺しの魔物に特化してるの。上層階の魔物ですら意表を突いた攻撃してくるから新人冒険者の立ち入りが禁止されてるの。


 そのためにまだ2階層までしか進めていないわ。


 二つ目は強欲の塔型ダンジョン【エクリプス】


 このダンジョンは魔物はそれほどじゃないんだけど悪質な罠や仕掛けが多いのが特徴ね。目の前に宝箱があっても迂闊に近づけないから欲に溺れた冒険者は直ぐに命を落とすわ。


 このダンジョンは罠や仕掛けにだけ注意すればいいから比較的に攻略が進んでいて今は24階層まで攻略できているわね。


 そして最後は幻惑の迷宮ダンジョン【メビウス】


 このダンジョンは最初は洞窟型だと思われていたんだけど、一定期間が過ぎるとダンジョン自体が変質してしまうの。


 各階層ごとにマッピングしてるんだけど1階層に付き四十八種類の迷宮エリアが存在していて一定期間ごとに入れ替わるの。


 最近になって漸く入れ替わる周期が判ってきて攻略も徐々にだけど進んでるみたいね。


 10階層まで攻略しているわ。


 それで私がどれを選ぶかだけど先ず【メビウス】は却下……純粋にマッピングが面倒くさい。


 あとは【ミノルス】と【エクリプス】だけど、シフォンさんが頼んできたのは多分【ミノルス】だと思う。


【エクリプス】の方は新人冒険者でも油断さえしなければ攻略できるからね。


 というより私の性格上、選択肢は【ミノルス】しかない。後の二つは常にマッピングって地獄が待ってるから。


 初見殺しの魔物を倒してる方が楽って事で私が向かうのは初見殺しの洞窟型ダンジョン【ミノルス】に決定ね。


 ただ、ダンジョン前の詰め所まで来て私はイヤな人影を見つけて思わず溜息を付いてしまったの。


「あらぁ~、ソニアちゃんじゃなぁい?」


 ダンジョンの入り口にいる屈強(・・)な帝国騎士の人がオネェ言葉で話しかけてくる。


 ダンジョン管理はその重要性と国家事業のために帝国騎士が受け持ってるんだけど基本的に騎士も暇じゃない。


 必然的にあれ(・・)な人たちが回されることが多いわね。騎士道精神からちょっとだけ逸脱した人ね。


 …あくまでだけどね。


「今日、当番なんだ…」


 オネェ言葉はガン無視で会話する。


 関わると碌な事がない。


「そうよぉ~、今日はホントは非番だったのにぃ~無理やりシフトを代えられちゃってぇー。もう、嫌になるわぁ。でね、でね、ソニアちゃん聞いてよぉ~。もうね、私が嫌だって言ったのにぃ~、もう信じられないと思わない?」


 屈強な身体をくねらせながら愚痴る、愚痴る、愚痴る……うん、全く話が先に進まない。


「もういい?」


 ガン無視しても話を止めないオネェ騎士にちょっとイラッときた私はジト目を彼?に向ける。


「うん、もぅ冷たいわねぇ。まぁ、そんなクールビューティな所も可愛いわぁ~。あっ、そうそう」


 何かを思い出したかのように呟く。


単独冒険者(ソロプレイヤー)が入ったきり戻ってきてないから何かあったら宜しくね、ソ・ニ・アちゃん」


 最後にウィンクを噛ましやがったわ……。


「うん、気をつけてみる……じゃあね」


「はぁ~い、行ってらっしゃぁ~い」


 盛大に見送られながら私は溜息交じりにダンジョンへと足を踏む入れていく。一歩、足を踏み入れた瞬間に空気が独特なものへと変わる。


 全くの別空間に這入り込んだ実感がわき、私は気持ちを切り替えて周囲の警戒を行う。


「焰の精霊、火蜥蜴(サラマンダー)顕現」


ーキューイ!


 私が呟くと足下に炎に包まれた小ぶりの蜥蜴が可愛らしい声を出しながら現れて薄暗い洞窟を明るく照らし出してくれる。


 精霊術士の良いところは装備が少なくて済むってとこかしらね。ダンジョン内で必要不可欠なのは水と火よ。


 魔法が使えれば、そんなに不便は感じないんだけど魔法は魔力を使う。いざ戦闘になったときに魔力が少なければ死活問題になってしまう。


 その点、純粋にマナだけを使う精霊術士は戦闘時も単独で行動できるから便利なのよね。


 それにこの子(火蜥蜴)には自我があるの。


 十二種族の一族だからね。


 精霊族には精霊王を中心に四大精霊と呼ばれる属性種族がいるわ。


 それぞれに長がいて属性ごとに治めている。


 私みたいな精霊術士はその長と契約を交わして力を貸して貰ってるわけ。その中には意思疎通できる子もいれば、属性が顕現されただけの子もいる。


 私がさっき呼び出した子は後者の方ね。


ーキュイ?


 不思議そうに小首を傾げる姿(火蜥蜴)に思わず笑みが漏れる。ダンジョン内での癒やしは必要。


 それに火蜥蜴は自分で判断して守ってくれるから私はパーティを組む必要がない。彼らは術者を命懸けで守るし何より倒されてもマナに還るだけで死ぬわけじゃない。


 だから初見殺しの魔物でも安心って訳ね。


 私は火蜥蜴の明かりを頼りにさらに奥へと進む。このダンジョンの嫌らしいのは直ぐに魔物が現れないことだ。


 けれど、そこら中に気配は立ちこめている。


 神経を磨り減らしながら薄暗い通路を警戒し続けるのはかなりしんどい。


 しかも、ちょっとでも気を抜けば一癖も二癖もある魔物が直ぐに襲ってくるのだ。


 堪ったもんじゃない。


 でも、何もしないとお金にならない。


 だから私はワザと気を抜いた。


 その瞬間。


 ブシューー。


 勢いよく壁から毒々しい紫色の液体が私を目掛けて吹き付けられてきた。しかも全方位からだから避ける術がない。


 だけど、私にはこの子(火蜥蜴)がいる。


「火蜥蜴!」


ーキュイ!


 私の呼ぶ声に即座に反応し身体の焰で周囲に焰の壁を作り出し毒液から私を守る。


 焰の壁に焼かれジューっと蒸発して霧になる毒液の背後からカチカチと不愉快な音を立てながら魔物が姿を現す。


 ポイズンスパイダーの群れだった。


 ガサガサと素早い動きで周囲を取り囲み初見殺しが効かなかったためか牙をカチカチと重ね合わせながら威嚇してくる。


「うわぁ……気持ち悪い」


 恐怖より気持ち悪さが勝る。


 何せ子供ぐらいの大きさの蜘蛛が群れているのだ。生理的に受け付けない。けれど、私はニンマリと笑みを浮かべた。


 この魔物はお金になる。


 しかも、最初の毒液さえ対処できれば新人冒険者ですら一撃で倒せるほどの弱さだからね。


 それに弱い割に素材が高く売れる。


 牙と毒袋、そして蜘蛛糸…しかも嵩張らない。


「ふふふっ、幸先が良い。付与お願い」


 腰から両刃の長剣を取り出して火蜥蜴に声をかけると、顕現した姿を解いて刃先に纏わり付き刃が赤く燃え上がる。


 これで火属性の魔剣の出来上がり。


 ホント、便利よね。


 精霊術士で良かったわ。


 軽く剣を周囲に振ると刃から焰が溢れだし、ポイズンスパイダーを焼き尽くし素材だけが綺麗に残される。


「…うん、上手くいった」


 私は笑みを浮かべながら素材をどんどん回収していく。普通の冒険者と精霊術士の決定的な違いがこれね。


 他の冒険者は倒す時も素材を傷つけないよう注意しながら戦って倒したした後がまた大変なの。


 解体が待ってる。周囲を警戒しながら魔物を解体するのは非常に面倒い。熟練冒険者でも油断してたら魔物にやられる。


 でも、精霊術士はそれ(解体作業)がない!


 精霊は純粋なマナで存在している。


 そして魔物も似たような存在なの。だから攻撃する際に素材以外の場所(マナ)を選んで攻撃するから倒した後、素材だけが残るってわけ。 


 私が精霊術士を選んだ理由がこれよ。だって倒した後に解体なんてしたくない……だって面倒い。


 なら、全冒険者が精霊術士になれば良いように見えるけど生憎と術士になるにはかなりの制約が課せられる。


 精霊術士は皆、死んだら精霊になる。


 身体中のマナが離散して自然界に混じり、自我を失い精霊王の臣下となってしまう。ただし、それはダンジョン外での話。


 もし、ダンジョン内で死んだら離散したマナはダンジョンの一部になってしまうの。そして、永遠に彷徨ってしまう。


 だから冒険者は精霊術士になりたがらないし、術士もパーティーを組むこともしないの。


 だって何気に便利屋扱いされるんだもの。


 取りあえずリュックに素材を乱雑にぶち込んで先に進み始めて直ぐに私は悲惨な光景を見ることになった。

読んでいただきありがとうございます

(o_ _)o

ブクマ、評価や感想などお待ちしております


では、失礼いたします

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ