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こちらギルドの保険屋です!  作者: 村山真悟
第1章 強欲神父と保険員
17/20

その17


 神父様は悔しげな表情を浮かべているけど私の放つ殺気のせいでなにも言えずに悔しそうに唸ってる。


 まぁ、神父様も元冒険者の私に反抗したらどうなるかぐらいの分別はあるみたいね。


「じゃ、この請求金額で間違いないなら書類にサインして。そしたら保険事務所から支払いされるから…あぁ、言い忘れてたけど」


 震える指先でペンを持つ神父様に更に殺気を強めた瞳で見つめながら私は優しく警告する。


「依頼者に何かあったら保険事務所が冒険者ギルド専属(・・)の意味を知ることになるから、そこら辺はしっかりと考えた方が良いよ?」


 色んな含みを込めてジト目で神父様を見つめると震えていた指先が更に激しく震え始めた。


 自分の置かれた状況を理解できたみたいね。


 まぁ、保険屋に仇なす存在に対して冒険者ギルド専属って言葉が保険事務所の先についてるからね。


 私なら一人でも対処できるんだけど、ある意味の保険ね。大体は冒険者ギルドがバックに付いてるってだけで素直に応じてくれるからね。


 さてさて、この強欲神父様はどうかしらね?


 表情を変えずにジト目で見つめてると--。


「ぐっ、脅しおってからに忌々しい…サインすればいいのだろう。これで良かろうが!」


 半ば、やけくそになってサインする神父様の指先は口調とは裏腹にブルブルと震えてるわよ?


 なんだか、私ってば悪者みたいね。


 掲示された金額に歯軋りしながら神父様は乱暴に書き殴るかのようにサインをすると私に忌々しげに手渡してきたわ。


 その書類を受け取った私は満面の笑みで神父様を見つめる。やっぱり、最後くらいは愛想よくしておかないと--まぁ一応、接客業だからね。


「あんたは私より達が悪い…」


 悔しげな表情を浮かべながら精一杯の虚勢を張って私を睨み付けてるけど震えてるわよ?まぁ、見なかったことにしてあげる。


 何だかんだで聖職者だからね。


「元冒険者だから当然…。じゃあ、失礼するね」


 ソファのふっかふかの感触が名残惜しいけど仕事も終わったから帰らないとね。


 ってことで私はソファから立ち上がり神父様に深々とお辞儀をすると壊れた扉へとトコトコと向かう。


 足元の壊れた扉をチラ見する。


 う~ん、ちょっと罪悪感を覚えるわね。それよりも、本当に請求は来ないわよね…。


 私の脳裏にあの人(アリス)の姿が満面の笑みを浮かべてる姿が浮かんで思わず身体がブルッと震えた。


 あっ、そうそう忘れてたわ。


 扉の縁に手を掛けながら振り返る。


「あぁ、伝え忘れてた」


 振り返った私に神父様はビクッと体を震わせた。


「ま、まだ何かあるのか?」


 警戒心に満ちた不安げな瞳で見つめてくる神父様に私は瞳を細めて口許に微かな笑みを浮かべて--。


「ソファをありがとう。大切にする」


 笑みを浮かべて感謝のお辞儀をする。


 私ってば良くできた人間でしょ?


 けどね、神父様は身体中をプルプルと震わせて顔なんて真っ赤にしてさ。額には十文字の血管を浮かべてるわね?あれっ?俯いたわね…どうしたのかしら?


「とっとと帰れぇぇぇぇぇぇ~!!」


 堪忍袋の緒が完全に切れたのね。


 そして、絶叫が教会内に響き渡るのでした----。



 何だかんだで依頼を終えた私は意気揚々と事務所まで気分も晴れやか、ルンルン気分でもうスキップしたい気分よ。えっ、何でかって?そりゃあ~、ねっ。


 仕事はきっちりと終わらせたし。それ以上にあの極上ソファを手に入れることが出来たのよ?私ってば完璧で優秀な保険員じゃない?


 もうね、自画自賛で自分を誉めてあげたい気分よ。私の頭の中ではあのソファで寝転びながら微睡みに浸るわ・た・し。もう、楽しみで仕方ないわよ。


 あの神父様って自分の利になることに対しては尋常じゃないぐらい行動力があるみたいで多分、もう私の部屋に届けられているはず…むふふっ、楽しみだわ。


 うん、もしかしたらもう届いているかも!


 急いで帰らなきゃ!


 シュダッ、ダダダダダダダダダダダダダッ。


 普段はやる気なんて微塵もないけど私利私欲に関しては私は機敏に動くのよ。


 何だかんだでダラダラと歩いていた行きの時間の半分で事務所に戻ってきた私は事務員さんに神父様にサインしてもらった書類の確認と支払い手続きしてもらって上司であるアリスの元へと持っていく。


 頭の中はソファで優雅に休日を楽しむ自分の姿を想像してソワソワとしながら所長室の扉をノックする。


 コンコン、コンコン、コンコン。


 連打のノックに反応がない…えっ、いないの?


 嘘でしょ?


 遠退いていく私の優雅な日常…いや、もしかしたら気づいていない可能性もあるはず!


 諦めたらそこで試合は終了、私は諦めない。


 コンコン、コンコン、コンコン----。


 超連打のノックを敢行する私。


 私の優雅な日常、ソファが私を待っている。諦めるものですか!まだ、返事がないわね…それじゃあ。


 超々連打慣行よ!


 拳を握りしめて扉を睨み付ける。


「よしっ!それじゃあ---」


 コンコンコンコンコンコンコンコンーードカッ。


 一陣の風が頬を撫でて背後へと通り過ぎていく。


 えっ?ドカッ?ってか何よ…うん、扉にでっかい穴が開いてるわ。えっと………壁に刺さってるこの鈍器。


 私の視線の先には壁に突き刺さった小振りのナイフ、普通この手のナイフってここまで威力はないわよね……根元まで壁に突き刺さってるわ。


 誰がやったかなんて一目瞭然--うん、部屋の主よね。


 部屋の主--それはもちろん、決まってる。


 ギルド専属保険事務所所長殿、アリス・ブライスト最凶冒険者のお姉ちゃんとタメを張る元冒険者にして私の現在の上司。決して怒らせてはいけない存在。


 そんな存在には逆らえない。ううん、逆らったらいけない。マジで死ぬから--いや、ホントに。


 ルンルン気分が一瞬で青ざめた私は嫌な予感を感じながら破壊された扉を恐る恐る覗き込むと。


 シュッ-----ドカッ。


 覗き込んだ瞳めがけて銀色に光るナイフが寸分たがわず破壊された隙間から飛び出してくる。


「ほわぁ~!?」


 間一髪で避けた私は仰け反りながら最初に刺さったナイフの柄の部分に突き刺さったナイフが瞳に飛び込んできた。


 有り得ないでしょうがぁ~!


 なにピンポイントに同じ場所にナイフが刺さってるのよ!?しかも、避けなかったら刺さってたわよ?


 しかも、ピンポイントに…って、殺す気?


 私って部下よね?殺されそうだったんだけど?


 扉から離れながら恐る恐る部屋の主に声をかける。


 いるなら返事をすればいいんじゃないかしら。返事がわりにナイフ投げるってどんだけなのよ。


 とりあえず、居ることだけは分かったけどさ。


 うん、理不尽だわ。


「仕事の報告に来た…えっ?」


 ビクビク、オドオド、挙動不審全開で部屋の主の様子を破壊された扉の隙間を伺ってみて唖然としたわ。


 何故かって?


 それはね--私の瞳に映った光景、私の頭の中で想像した優雅な情景が広がってたの。


 あのバカ神父様、何を間違ったのか()の極上ソファを保険事務所に運び込んだらしいのよ。


 そして、そのソファがこれまた何故かアリスの部屋に運び込まれて私の愛しいソファがアリス先生に独占されていたの。


 バキバキ--バタンッ。


 思わず部屋の扉をぶち壊して目の前の光景を呆然と見つめる私、言葉が出てこないわ。


 ダラ~ンとソファに寝転がりながら惚けた表情を浮かべる姿、その光景に私の優雅な休日がものの見事に瓦解したわ。


「うん?なんだソニアだったのねぇ。あまりにも煩いから殺す気で投げちゃったじゃない。避けれた?」


 満面の笑みを浮かべるアリス先生ってか、殺す気って……鬼だわ。私じゃなかったら完全に死んでるわよ。


 それ以前に何で()のソファがここに…。


「そ、それ私の…」


 涙目で訴える私の声なんてソファの誘惑の虜になったアリスには届くはずもなく、自分宛のソファだと主張するには地雷を踏みしめてる。


「あぁ、これ?何だか知らないけど教会の神父様が保険事務所宛に届けてくれたのよぉ。良い神父様よねぇ。それに、このソファすっごいわよぉ。もう、働く気が失せるわぁ---」


 ソファに身体を沈み込ませながら堕落していくアリス先生、あれは私の仕事なのに、私のソファのはずなのに---。


 あの神父様…やるわね。私の心をここまで落とし込めるなんてなかなか出来ることじゃないわよ。


 脳裏に高笑いする神父様のどや顔が浮かんできて涙目の私は怒りにプルプルと身体を震わせる。


 ぐぐぐっ、覚えてらっしゃいよ。


 想像の中の神父様を取りあえずボコボコにしながらアリスに提出する書類をグイッと突きだす。


「依頼された書類、ここに置いておく…ぐすっ、とりあえず今日はやる気がないから帰る。ぐすっ」


 涙目の私をチラ見して不思議そうに小首を傾げながら手渡された書類に目を通したアリスは横になったまま気だるそうにサインする。


「うん?あんた何で泣いてるのよ?まぁ、いいわ。あとは帰っていいわよ。おつかれさん」


 サインした書類を私の目の前でヒラヒラとさせながらもソファの誘惑に抗う気がないみたいで--ぐすんっ。


「じゃあ、帰る」


「あぁ、そうそう…ソニア」


 書類を受け取ってトボトボと部屋を出ていく後ろ姿にアリスが思い出したかのように私を引き留めた。


「なに?」


 ジト目を悪化させた瞳で振り返る私。


「扉の修理代は給料から引いておくわね」


 壊れた扉を指差しながらにんまりと笑うアリスの言葉に私は口をポカーンと開けて唖然とした。


 だって、そうでしょ?


「えっ、最初に壊したのは私じゃ…」


 扉に空いた穴とアリスを交互に見ながら何度も瞳を瞬かせながら無実を訴えようとして口を閉じた。


 殺気がね…アリスの瞳から発せられる殺気がね、事実をねじ曲げようとしてるのよ。理不尽よね?


「な、に、か?」


 威圧感のある低い声が私の耳に届いて、その声に逆らえるわけもなく項垂れるしかなくて--。


「何でもない…もう、それでいい。帰る」


 書類片手にガックリと肩を落として私は来月の給料のやりくりを考えながら今度こそ部屋をあとにすることにしたの。


 世の中って本当に理不尽よね…。


 けど、貪欲神父様の高額請求騒ぎは無事?解決できたから私の保険員としての仕事は無事完了。


 さぁ、次はどんな依頼者が待ってるかしらね。


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