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こちらギルドの保険屋です!  作者: 村山真悟
第1章 強欲神父と保険員
15/20

その15


 私は鞄から彼女、ニルバーナが契約した保険証書の写しを見えやすい位置で広げる。


 さてと、お仕事をしましょうかね。


「まず、貴女が契約した保険プランは中級冒険者向けの特約が含まれてる。特にダンジョン探索における単独活動に関してかなりの金額を割いてる」


 うん、かなり堅実な保険内容だわ。


 繊細はこんな感じねーー。


~~冒険者ギルド専属保険--中級冒険者特約+α~~

<保険契約者>ニルバーナ・カエス様

<被保険者>ニルバーナ・カエス様


ご契約内容

[特定状態保証定期保険特約]

 ギルド依頼におけるダンジョン探索時による

 状態異常治療にかかる費用

 全額負担(費用上限設定なし)


[特定状態保障定期保険特約]

 通常収入の六割保障

※ただし、ギルド依頼達成件数達成件数及び

 ランク別での最低収入を基準とする

[入院一時給付金]

 金貨三枚

[入院給付給付金]

 1日金貨一枚

[指定代理請求特約]

 ギルドでの依頼時における治療費等に対して

 当保険事務所に不当な請求が見受けられた場合、

 保険員を派遣し請求元である教会及び各治療院に

 正当な請求を求めることができる制度

※教会及び治療院の請求が不当と判断された場合、

 その処置は被保険者の代理人である保険員の判断

 に委ねるものとする


+α特約(単独冒険者向け)


[死亡/高度障害補償]

 単独によるダンジョン探索時における死亡もしくは

 身体障害状態となった場合の補償

 死亡時--遺族への生涯保障

 (年間-金貨二百四十枚/一括請求時-金貨二千五百枚)

※ただし、冒険者ギルドによる保障との併用不可

 身体障害状態--仕事の斡旋、ギルド職員登用制度含む


入院時特約(単独時限定)

 治療費全額保障

※担当保険員による査察・交渉等の雑務含む

[保険使用時の武器防具修繕費用補償]

 保険使用時の武器防具修繕費用全額保障

※ただし、レア装備・特殊素材を用いた装備に対しては修繕費のみ補償するものとする

[ギルドランク保証]

 治療期間時の冒険者ギルドによるランク保障

※ただし、治療中による死亡時は保証対象外とする

~~~~~・・・・~~~~~~・・・・~~~~~~・・・・~~~~


 ざっと確認してみたけど、まぁ堅実なプランね。


 っんで、私が依頼者に会いに来た理由って言うのが特約にある指定代理請求特約と単独冒険者向け特約の治療費全額保障特約によるものなの。


 まぁ、呼ばれた以上は仕事をするわよ。


 保険屋稼業の真髄をお見せするとしましょうかね。なんで、冒険者ギルド専属の保険員が元高ランク冒険者なのか今から教えてあげるわ。


 ふふふっ、腕が鳴るわね。


「とりあえず交渉は私が受け持つ。今回は明らかにやり過ぎてる…ふふふっ、目にもの見せてくる」


 私の不適な笑みにドン引きの表情を浮かべる彼女は辛うじて私に向かって頭を下げてくる。


「お願いね」


「まかせて…あの神父様を成敗してくる」


 肩をグルングルン回しながら扉へと向かう私は振り向かずに依頼者にグッと親指を立てて部屋を出たの。


「なんだか、嫌な予感がするのは気のせい…?」


 背後でそんな不安げな声が聞こえたけど気にしない。だって今の私は使命感に燃えているもの!


 悪は成敗するに限る。


 しかも、合法的に痛め…粛清…あれっ?こういう場合って何て表現すればよかったかしら?


 まぁ、いいわ。細かいことは気にせず徹底的に懲らしめてあげましょう。それが、依頼者のためだものね


 不適な笑みを浮かべながら神父様のいる部屋へと歩く私の姿を教会関係者が青ざめた表情を浮かべて遠巻きに見てるわね。


 教会側からしたら神父様の強欲具合なんて周知の事実だから保険員の私が不適な笑みを浮かべながら歩いていれば、これから何が起きるかなんて容易に想像がつくのでしょうね。


 けど…関係ないわ!


 今日は請求する側とされる側、仁義なき戦いよ。


 食うか、食われるかは保険員の技量に全てがかかってる。伊達にあの地獄(詰め込み教育)は味わってないわ。


 うん、本当に地獄だったわ…今、思い出しても涙が止まらなくなりそう、いやホントに…アリスは鬼だったわ。えっ、何がって?


 私は冒険者であって保険屋じゃなかったわ。


 でもね、冒険者資格を実のお姉ちゃん(ギルド総長)に剥奪されて挙げ句の果てには強制的に保険員に職業変更(ジョブチェンジ)よ?


 しかも、保険に関して何にも知識のない私に上司であるアリスが何をしたと思う?


 ふふふっ…それはね、保険稼業を理解するまで徹底的に体で覚えさせられたのよ。


 つまり、強制ね…えっ?拒否権?あなたは何を言ってるの?在るわけないでしょ!


 保険に関する規約を覚えるために私がどこに連れていかれたと思うの?ダンジョンよ、ダンジョン!


 あり得なくない?


 しかも、私の装備はナイフ1本と保険の規約が書かれた分厚いマニュアル本だけよ?


 しかも、魔物を相手にしながらアリスの問いに延々と答え続けるのよ?間違ったら魔物を更に追加されるスパルタ具合…正直、よく生き延びたと思うわよ。


 だ・か・ら、その鬱憤を今から晴らすのだけど悪い?いいでしょ?少しぐらい私怨を込めたって…。


 なにせ冒険者ギルド専属の保険事務所に所属する保険員にはある特権が認められているからね。


 その特権って言うのが冒険者ギルド専属の保険員は職務に対して時と場合によっては実力行使も認められるって事。


 だってね、冒険者稼業なんて言わば個人事業主と変わらないわけだから儲けが出る時もあれば勿論、大損する時だってある。そうなってくると蓄えのない冒険者はギリギリの生活になるわけね。


 なら、生活を維持するために何を削るかってなると冒険者ギルドに登録すると同時に加入が義務付けられている専属保険--毎月、個人事に契約した保険料の支払いを削るわよねぇ。


 冒険者時代の無知な私だったら間違いなく踏み倒してしらばっくれるわね。まぁ、保険員の今の私は間違ってもそんな愚を犯さないわ。


 だって、死んじゃうもの。


 でもね、保険事務所にこわぁ~い元S級冒険者がいるなんて知らないバカな冒険者は…躊躇なく踏み倒すのよ。まぁ、たちが悪いのは冒険者でご飯を食べている人って何だかんだで実力があるからね。


 なにせ、凶悪な魔物相手に戦う仕事だから一般の人が滞納した保険料を徴収に行っても腕力や魔法にものを言わせて追い返されるのが関の山。


 あまりに悪質なときは事務所の所長アリス大先生がにこやかな笑顔できっちりと回収していたみたいよ。


 その犠牲者の人…まぁ、自業自得ね。


 ちなみに回収率は勿論100%…怖い、怖い。


 だけど保険の有用性が認知され始めると必然的に細かい雑務が増えてくるわけね。


 そうなってくると所長自ら滞納分の回収に出張る暇がなくなってきて困っていたところ--私に白羽の矢が刺さったのよ。


 今回の依頼主が所持していた【救済の指輪】の記録映像を見て大爆笑したアリス所長がお姉ちゃんに声をかけたらしいわ…うん、身から出たさびって、こんなときに使う言葉ね。


 そんなわけで滞納金回収や今回みたいな悪質な不当請求に対しては冒険者ギルドから暫定的に冒険者資格を与えられて能力を行使することが出来るのね。


 私の場合だと精霊術になるわね。


 保険員の時は資格がないから微精霊ぐらいしか扱えないけど、暫定的に冒険者資格を与えられると--使えるのよ!そう、全ての精霊術が!


 つまり、今はお姉ちゃんにベッタリの裏切者達(四大精霊)を酷使することが出きるってわけ。


 むふふ、あのときの裏切りは忘れてないわよ。


 目にもの見せてやるんだから!


 そんなわけで早速、呼び出してやるからね。


 早速、通路のど真ん中で立ち止まった私は瞳を閉じて身体中に廻る魔力に意識を向けて彼らを呼ぶための言霊を紡ぎだす。


「汝らの契約者であるソニア・ブライストの名において命ずる、我が声に答え顕現せよ四大精霊達よ」


 私の体を包み込むように白い光が足元から沸き上がり幾難学的な模様の魔方陣が形成されていく。


 身体から溢れる魔力が魔方陣に流れ込み次第に光を失って四大精霊達が顕現されて……こないわね。


 あれ?なんで?


 何か間違えたかしら……うん?何かしら、あれ?


 一枚の紙切れがヒラヒラと目の前に落ちてくる。


 なんだか、嫌な予感がするわね…。


 四大精霊達が顕現されず一枚の紙切れだけが私の前に現れる。しかも、ご丁寧に見覚えのある(四大精霊達の)魔力が込められてるし。見たくはないけど見なきゃいけない。


 嫌々、その紙切れを拾い上げて---。


「あ、あいつら~ぁ!」


 プルプルと身体中を震わせながら私は紙切れに書かれていた文字に言い様のない怒りを覚えたわ。


 ちなみに何て書いていたと思う?


 それはね……。


『『行きたくない、断固拒否!! by四大精霊』』


 …だったのよ。




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