表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらギルドの保険屋です!  作者: 村山真悟
第1章 強欲神父と保険員
13/20

その13

漸く、過去から現代に戻ってきました(苦笑)


保険屋稼業が本格的に始動します


では、お楽しみください


 全てを悟った私は成されるがままアリスに首根っこを掴まれた状態で項垂れたまま視点の定まらない瞳で進みゆく廊下を見つめていたの。


 私の逃避行で賭けをしていた冒険者達とアリスとの間で実に平和的な話し合い(あれはただの脅迫…)の末、大金をゲットした彼女は楽しげな表情を浮かべながら軽やかな足取りで歩みを進めてる。


「さて、着いたわよ」


 軽やかな足取りがピタリと止まり寂れた扉の前に辿り着いたアリスが声をかけてきたけどね……。


 私は両手で耳を塞ぎギュッと瞳を閉じる。


 聞こえない、分からない、知りたくない。


 うん、現実逃避よ。悪い?


 だってね、現実を受け入れたら間違いなく働かされる。そりゃあ、もう、お姉ちゃんが言ったとおりに馬車馬の如く働かされる予感しかないもの。


 それはイヤよ!


 私が冒険者になったのも全うに働きたくないからだもの!冒険者は危険と隣り合わせだけど自由よ?


 しかも、ちょっと魔物を倒してくれば一ヶ月は遊んで暮らせるお金が手に入るのよ?


 真面目に働くなんてバカらしいじゃない!


 それに私には精霊術って便利な力があるんだから真面目に働く気なんて失せるわよ?ねっ?ねっ?そう思うでしょ?


 ……なんで、誰も賛同してくれないのよ!


 ……誰よ、ダメ人間だって言ったの?


 いいじゃない、才能があるんだから!


「……どうしたの、ソニアちゃん。目と耳を閉じてブツブツと一人で呟いちゃって…キモいわよ?」


 チラリと瞳を開いて見上げると若干、引き気味に私を見つめる瞳にジンワリとイヤな汗が流れる。


「…な、何でもない」


 危ない、危ない。思わず心の声が出てたみたい。


「っで、ここどこ?」


 うん、分かってるけど聞いてみる。


 ほら、何かの間違いって事もあるじゃない?もしかしたら、好待遇な何かの可能性もあるじゃない?


 分かってるわよ…そんな妄想に浸らず現実を受け入れろって言いたいんでしょ?そりゃあ、さっきから視界の隅に『冒険者ギルド保険事務所』って看板がしっかりと入ってきてるけどさ。


 間違いって事も…「ここが今日からソニアちゃんの新しい職場よ」…ですよね。


 がっくりと項垂れる私を苦笑いで見つめてくるアリス、ははっ……終わった。さよなら堕落の日々、よろしくね…ぐっ、真っ当な日常。


 そして私は冒険者ギルド専属保険屋の従業員の道を歩くことになったってわけ。


 まぁ、それからはお察しの通り昔の文献(ドノワール創世記)何かを読まされてり、保険のノウハウを嫌と言うほど暗記させられて……もう、地獄だわよ。


 普段からやる気のないジト目の私が死んだ魚の目にクラスアップするのにそれほど時間は掛からなかったわよ。


 しかも今まで私が召喚できていた四大精霊達はものの見事に裏切ってくれちゃってお姉ちゃんにベッタリ従属してるし。


 私の傍には下級の微精霊達だけ…それも、アリスが居ると直ぐにそっちに従っちゃうし。


 …なんなのよ、この状況は?


 教会に向かいながら私は何時もの死んだ魚の目をしてブツブツと意味もなく呟く。


 端から見たら、異常者ね。


 街の片隅にある教会を前にしても愚痴が止まらない。うん、決めたわ。


 この鬱憤は依頼者に全力でぶつけよう!


 何だかんだ言って私が保険屋なんて意味の分からない仕事に就く羽目になったのは今から会う予定の依頼者が原因なんだから少しぐらい憂さ晴らししても罰は当たらないはずよ。


 教会だから私の境遇に神様もきっと頷いてくれるはずよ。うん、きっとそうよ!


 私の中で不憫な境遇を演出……ゴホンッ、可哀想な私をきっと神様も見てくれているはず。


 グッと拳を握りしめながら私は陽光に輝く教会を決意に満ちた瞳で見上げる。


 そんな私の姿を周囲の参拝者が訝しげに見つめて離れていくけどーー気にしないわ!


 だって、私の心は怒りに満ちているもの!


 ………まぁ、私怨だけどね。


 分かってるけどさ……いいじゃない、少しぐらい憂さ晴らしをしようって考えてもさ。


 ………………………………はぁ。


「……アホらしいわね。とっと、仕事を終わらせて帰ろ……んで、ふて寝しよ」


 何だかアホらしくなった私は無駄に装飾されたアーチを潜り抜けて修道士さんや神父さんの居る移住区に向かうことにしたの。


 教会って場所はね、敬虔な信者さんが参拝する場所と一般市民や冒険者のための診療所の二つの側面を持っている場所なの。


 それで私が今、向かっている場所は勿論だけ診療所をかねている場所なのね。


 冒険者ギルドが後ろ盾にある保険事務所が出来る前は市民や冒険者はお金払いが悪いって理由で、いつもお座なりな対応しかしてくれなかったの。


 でも、冒険者ギルドが始めてからね……その態度が物凄ぉ~~い掌返しで、いつもニコニコと対応してくれるようになったのよ。


 もう、そりゃあドン引きするぐらいにね。


 やっばり、世の中…お金ね。


 いつも不機嫌な表情を浮かべていた協会の神父様なんて冒険者時代に会ったときより二割増しにふくよかになってるし。


 しかも、私に満面の笑みを向けてくるのよ?


 全く、キモいったらありゃしない。


 私が冒険者だった頃にちょっとしたミスで大けがを負ったときに何て言われたと思う?


「そんな傷、唾を付けていれば直りますよ?なんで貴女は教会を利用と思われたのですか?まったく…冒険者風情が身の程を弁えてもらえませんかね?やれやれ……」ーーーよ?


 あり得なくない?


 それが今じゃーーー。


「これは、これは!冒険者ギルド専属保険事務所のソニア様じゃありませんか!はるばる、ご足労いただいて誠にありがとうございます。ささっ、こちらへどうぞ。冷たい飲む物をご用意しておりますから」ーーーよ、どう思う?


 掌返しにもほどがあると思わない?


 そんな内心あきれた表情(表面上は無表情ね)を浮かべながら見つめるジト目なんて気にしない厚顔無恥な神父様に私の無表情も思わず引き攣っちゃたわよ。


「…これ」


 とりあえずアリスから受け取った依頼書をなんとか無表情を維持して神父様に差し出す。


「うん?なんですか……あぁ、これはあの冒険者の方の保険使用依頼書ですねーーむふふふ」


 神妙な顔つきで書類に目を通しているけどーー瞳がお金マークに輝いてるわよ?しかも、口元をニヤけさせながら微かに笑い声が漏れてるわよ?


 まったく、敬虔な信者に見せられない姿ね。


 …一回、シバキ倒してあげようかしら?


 すこぉ~~しだけ殺気を込めて神父様を見つめてみたら面白いぐらいに青ざめて身体を震わせながら私から視線を逸らしたんだけど…スゴいわね。


 それでも、瞳のお金マークが消えないわ…神父様、あんたどんだけ貪欲なのよ?


「依頼者と話がしたい。どこに居る?案内して…」


 なんだか興を削がれたから殺気を解いて神父様を見つめる。


「は、は、は、はいっ!こちらになります!」


 殺気を解いた瞬間に我に返った神父様が頬を伝う大量の汗を拭いながら、いそいそと私の前に進み出て依頼者の居る部屋へと案内を始める。


 教会が管理する診療所って昔と違って何だか清潔感に溢れてるわね…たしか、昔はこんなに衛生面に気を使っていたイメージなんてなかったんだけど…偉大だわ、お金って。


 まぁ、そんなことよりも何なのこの高級感溢れる通路は?まるで、高級旅館みたいじゃない。


 ゴテゴテした装飾品が無意味に飾られて成金趣味を通り越して悪趣味丸出しの通路をキョロキョロと眺めていた私に気付いた神父様は飾られた装飾品の言い訳じみた意義を語り出したの。


「これらはですね、病気や怪我をされた金づ…ごほんっ、冒険者や保険加入(・・・・)の市民の方々に心からリラックスをしていただくために教会の責務としてこのような内装と装飾を施しているのですよ」


 いま、金づるって言いかけたわよね?


 それ以前に保険加入の市民って…じゃあ、保険加入していない市民は?


 うわぁ~、思ってた以上にこの人(神父様)クズだわ。


 ようは保険加入していない市民は門前払いされているかもしれないってことでしょ?


 事実は分からないからあまり深くは追求しないであげるけど流石にアリス(上司)には報告しとかなきゃね…だって、知ってることが後でバレたら怖いもの。

読んでいただきありがとうございます(o_ _)o

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ