その12
今日、三話目の投稿です
お間違えのないようお読みください(o_ _)o
何だかんだで私の逃避行は終わりを告げた。
というよりも他に選択肢がなかったって説明する方が今の状況的に正しいと思う。
だってね……。
今の私ってば赤髪に首根っこを掴まれて、親猫が仔猫を運ぶように宙ぶらりんの状態で、さっき全力で逃げ出したギルド総長室に運ばれてきたから。
ドサッ。
総長室のソファに無造作に座らされて赤髪が逃がさないとばかりに私の身体を片手で押さえつける。
私は隙を見て逃げだそうと画策していたんだけど…その目論見は一瞬で瓦解することになったの。
なんなのよ、この強さは?
私を押さえつけているのは赤髪の細腕なのにまるでビクともしないなんて……どんだけよ。
しかも、全力で押さえつけてるってわけじゃなくて空いた手でお姉ちゃんから手渡された数枚の書類に目を通す片手間みたいに私を押さえつけているのよ?……やっぱり、化け物だわ。
「S級冒険者ソニア・ブライスト、え~っと渾名は『瞬姫』かぁ。あぁ、さっきの精霊術が由来ね。うん、まぁ辛うじて合格ラインかしらね。あとは実績を積めば使い物になるか…」
赤髪がペラペラと書類を捲りながら書かれている内容を吟味しながら、なにやら不吉なことを言ってる。もう、嫌な予感しか思い浮かばないわね…。
選択肢のない現実にせめて楽な未来が待っていないかなと現実逃避をしていると、それを引き戻すかのように頬杖を付いているお姉ちゃんの深いーーそれは物凄ぉ~く深い溜息を吐く姿が私の視界に這入り込んできたの。
「はぁ~~~~ぁ、この馬鹿の面倒をよろしくね」
お姉ちゃんの言葉にキョトンとする私。
なになに?
どういうこと?
さっぱり意味が分かんないんだけど?
私の知らないところで私の将来が決められていく感じがするのは気のせい?気のせいよね?
それはともかく、この赤髪って本当にスゴいわね…さっきからなんとか逃げ出そうと藻掻いているんだけど全く微動だにしないわ。
恨めしげな瞳で赤髪を見上げる。
「じゃあ、ソニアちゃんは私預かりでいいのね?」
確認するかのように赤髪が書類から目を離し執務机で頬杖を付くお姉ちゃんに視線を向ける。
「えぇ、馬車馬の如くこき使っていいわよ」
さらりと私を売り飛ばすお姉ちゃん。
なに、なに、なに、なんなの?私の知らないところで一体なにを取り決めているのよ!
もうね、嫌な予感しかしないわ。
「………ソニア」
冷たい視線を私に向けるお姉ちゃん。
「……………」
声が出てこない。返事をしたら負けな気がする。
黙っている私をお姉ちゃんはジイーッと見つめながら有無を言わせない雰囲気を作り出してーー。
「あんた、冒険者から保険屋になりなさい……ってか、これは命令ね。あんたに拒否権はないわよ」
冷たい瞳で見つめるお姉ちゃんの言葉に私は意味が分からず思考が完全に停止したわ。
え~っと、何て言ったの?確か……保険屋になれって言ったのよね?
えっと…さっぱり、意味が分からないんだけど?
事情が飲み込めず困惑する私に赤髪は苦笑いを浮かべていたけど、私を押さえつけている手が緩むことはない。
「……えっと、意味が分からない」
とりあえず、今の状況を理解するために赤髪とお姉ちゃんを交互に見つめてみる。
「ギルド五ヶ条を確認してみなさい。拒否権がないことがハッキリと書かれているから」
私の胸元を指差すお姉ちゃんに言われたとおりにギルドカードを取り出しマジマジと五ヶ条を見つめてみる。でも、そんな文面は書かれていない。
「拒否権に関しては書かれてない…」
ボソリと呟いた私にお姉ちゃんはニヤリと不敵な笑みを浮かべて赤髪は何時もの苦笑いでギルド五ヶ条の一つを指差したの。
「ほら、ここをよく見て」
指差したのはギルド五ヶ条の二番目ねーーえっと、『ギルドの指名依頼は断ることが出来ない』よね。でも、指名依頼じゃないから違うわよ?
小首を傾げる私にお姉ちゃんは不気味に目元を細めながら、まるで狂乱モードの再来?みたいな表情をしたの。
「よく見てみなさい。その文面の指名と依頼の間に空白があるでしょ?」
そう言われてマジマジと見つめるとーー。
……あっ、ホントだ。
『ギルドの指名 依頼は断ることが出来ない』だわ。えっ、これって詐欺じゃない?
だってね、これって必然的にギルドが指名したことを私達は断れないって事じゃない?えっ、拒否権ないの?おぉ……独裁政権だ。
しかも、ギルドに入るときに契約書と説明を受けてるから今さら駄々を捏ねても無駄だし…これはガッツリ嵌められた感が否めないわね。
現実を突きつけられてどんよりと落ち込む私に赤髪は不憫そうに頭をポンポンと撫でてくる。
やめて……さらに落ち込むわ。
「まぁ、そういう事よ。じゃあ、行きましょうか」
さっきまで頭を撫でていた手が私の首根っこに伸びてヒシッと掴み私の身体は無情にもソファから浮かび上がる。
はいっ、強制連行の始まりです。
恨めしげな瞳をお姉ちゃんに向けてみるけど……直ぐに視線を逸らしたわ。だって、瞳が『かかっておいでぇ~、まぁ、きたら殺すけど?ひゃっはぁ~』な感じの深い闇に満ちていたもの。
うん、詰みました……私、どうなるのかしら?
宙づりにされながら無我の境地に達しながら赤髪に身を委ねることにしたの。
だって、逆らえる気なんてしないしね……。
「じゃあ、人員補給ありがとぉ~ねぇ」
満面の笑みで片手でへらへらと手を振りながらギルド長室を退出する赤髪と宙ぶらりんの私。
当事者の筈の私は二人がどんな闇取引をしたのかすら分からないし正直に言って知りたくもない。
だって、明らかに碌でもない現実しか思い浮かばないから……はぁ、私ってば一体どうなるのよ?
私は呟くことすら出来ずに無言のまま、宙づり状態で流れていく廊下をジト目で眺めていたの。
そんな絶望オーラ全開の私の意識に離れて位置から私達を見つめる冒険者達のひそひそ話が飛び込んできた。
「あぁ~、とうとう捕まったかぁ。もうちょっと粘ると踏んでいたんだけどなぁ……っで、結局どうなったんだ?」
うん?
「残念だな、お前の予想は外れだな。まぁ、まさか取っ捕まって保険屋に売り飛ばされるなんて大穴は誰も予想しないからなぁ」
うんっ?うんっ?大穴?
「でも、当たっている奴いただろ?」
冒険者の一人が取り出した紙切れを覗き込みながら傍に居た冒険者達も驚きと呆れた表情を浮かべながら私達と紙切れを交互に見つめていた。
「「………そりゃあ、当たるわ」」
深い溜息と共に冒険者達が声を揃えて盛大に肩を落としてる……ってか、何だか気になるんだけど?
それはなんの賭けをしていたのかしらね?
……私にも教えときなさいよ!
そしたら死ぬ気で逃げてあげたのに…しかも、一番倍率の高いオッズの結果に自分にかけてね。
そんな事を考えていた私の身体が何故か冒険者達へと近づいていくのでチラリと赤髪に視線を向けるとものすごぉ~くニコニコした表情が飛び込んできたの。まさかね……。
私の脳裏に冒険者達の溜息が思い出される。
「ふふふっ、私の一人勝ちみたいね。配当金はいつも通り指定口座に振り込んでおいてね」
赤髪の言葉に冒険者達は苦笑いを浮かべてる。
これは、あれだね…私と同類。
案の定、冒険者の一人が頬を引き攣らせてる。
「はははっ、アリス姉さん…当事者が賭けちゃあ賭けにならないんだけど?」
全く同感です。
ってか、うん?アリス姉さん?うんっう~ん?この赤髪ってアリスって言うんだぁ…………赤髪のアリス?どこかで聞いたことがあるわね。
他人に全く興味のない私は拙い記憶を総動員して赤髪のアリスって人を手繰り寄せてーーーー思い出した。あぁ、そういう事ね。合点がいったわ。
赤髪のアリス、伝説のS級冒険者アリス・クラフトーー赤髪の女冒険者でお姉ちゃんとタイマン張れる唯一の存在【炎姫】の渾名を持つ元冒険者。
今は確か……自ら立ち上げた冒険者ギルド専属保険屋のマスターをしている人だわ。
そして、私は理解した……実の姉に売られた。
全てを理解した私のどんよりと項垂れる姿に赤髪、もといアリスが私を見てニヤリと笑みを浮かべたの。その表情ってばお姉ちゃんにそっくりよ。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
なかなか更新できずにいましたので一気に投稿してみました。
なかなか、思うようにはいきませんが見捨てずに頂けると幸いです(o_ _)o
ではでは、失礼いたします(o_ _)o(o_ _)o