その1
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『悠久の神々の時代、二つの勢力が対立していた。
一方は智を信としもう片方は武を信としていた。
互いに譲り合うことなく鬩ぎ合いが続く中で、
ある一神が互いに代理人を立て勝敗を決めては
どうかと提案した。
両陣営はそれぞれの代理人を立てることにした。
智を信とする神々は十二の種族を生み出し武を信
とする神々は魔の者とダンジョンを生み出した。
そして、時は流れ現在の世界へと発展した』
ドノワール創世記記述より
*
表紙に書かれた定型文を目にして私は
バタン。
背表紙だけは立派なカビ臭い本を閉じ、そのままテーブルに放り投げ頬杖を付く。
「はぁ…」
私は堪らず大きな溜息をついた。
神々の時代など遙か昔の出来事、そんなことは誰でも…それこそ、道端で無邪気に遊ぶ子供でも知っている話でしかない。
なら何で今更、こんな本を読まされているかというと……正直、思い出したくもないけれど、あの小さな親切が原因だったのよ。
私の名前はソニア・ブライスト、ドノワール聖帝国の冒険者ギルドで単独でフロアマスターを倒すことの出来るS級冒険者……だったわ。
過去形なのはもう冒険者を名乗れないからで、今の私はギルド直営の……保険屋に所属してるの。
ギルド直営の保険屋って何なのかって?……私が知りたいわよ。私だってなりたくてなったわけじゃないんだから。
まぁ、ただ一言で表現すると…騙された?
その言葉が脳裏を過ぎって私は……。
「うっ……うわぁ~!?分かってた…分かってたけどさ…あんまりじゃない?私って不憫じゃない?」
自分の髪を掻きむしりながら吠えた…。
ポカッ。
発狂していた私の頭を誰かが小突く。
「う~ぅ、イタい…誰よ?」
私に気配を感じさせずに近付くなんて相当な手練れ、警戒しながら…ただし、けっこうイタかったからちょい涙目だけど。
振り返ると奴が居た。
「お前、本当にうるさいよ?いい加減諦めたら?」
ジト目で拳をプルプル震わせているのは保険屋稼業の第一人者にして元最高ランクSS級冒険者アリス・クラフト、紅蓮の長い赤髪に瑠璃色の瞳で【炎姫】の二つ名を持つ冒険者、あくまで元ね。
ここは強調させて貰うわ。
現冒険者最高ランク保持者は私なんだから!
ポカッ。
また小突かれてしまった…解せない。
「だ・か・ら、ウルサいわ!」
声に出してたつもりはないんだけど……うん?
そんな疑問は直ぐに解決した。
私は無意識の内に精霊を集めていたらしい。
何で集まるのかって?
私が単独でダンジョンに潜ることが出来るのは実は精霊術士だからなのね。
精霊術士を説明するには先ず、精霊使いと魔術師の違いを説明しないといけない。
自然界にはマナと呼ばれる魔力の源が存在しているんだけど魔術師の人はマナを取り込んで自分の魔力を混ぜ込むことで魔法を使うことが出来るの。
逆に私みたいな精霊術士はマナを体内に取り込むことはしないで純粋にマナだけを使用してるわ。
そのマナが意思を持ったのが精霊なわけで、かなり便利はいいのよ。魔法みたいに詠唱もいらないし、頭の中で存在を具現化すればいいだけだからね……まぁ、センスはいるけど。
っで、さっきの疑問なんだけどなぜ私の心の叫びが相手に知られたかって言うと…彼奴らがものの見事に私を裏切りやがったからなの。
契約者が複数いる場合、精霊達はより上位の存在に集まる傾向があるの。つまりはあの元冒険者は精霊達からすれば私よりも上位の存在らしいわね……不愉快だけど。
自然界は厳しいのよ。
だから私の心の不平不満が彼奴の所に精霊達が逐一、報告しに行ってるってわけ。
「んで、なんのよう?」
ふて腐れながら尋ねる私にアリスは頬を引き攣らせながら手に持っていた書類を私の目の前にポンッと投げ出した。
「仕事よ。この間のアンタの知り合いが教会の治療費を保険で払いたいんだと。んで、その場にいたアンタに事況見分をして貰おうかと思ってね……はぁ、全く…やる気出しなよ」
テーブルに頬杖を付きながら書類の束を面倒臭そうにペラペラめくる私に深い溜息をつく。
「…でない、面倒くさい、払わなくていいんじゃない?どうせ、教会がふっかけてきたんでしょ?」
そうなのだ。
ギルドが直営の保険屋を創設した際に諸手を挙げて喜んだのが教会だ。
なにせ、治療費を踏み倒される心配が無い。
冒険者って職種は有り体に言えば日雇い労働者、その日暮らしの……まぁ、駄目人間の集まりね。
治療費を払ってくれるか分からない人間に善意で治療(当たり前なんだけど…)してくれる善良な人なんて教会でもいるわけがない。
でも、国家間で運営してくれているギルドが保証してくれるとなったら?
当然、治療してくれるわよね…。
案の定、今まで冒険者の治療をするのを嫌がっていた教会が掌返しで治療を率先してやってくれたわ。まぁ、かなり暴利を貪ってるけどね。
「まぁ、そうだけどねぇ。それでも、ギルド登録の際に保険加入を義務づけてから死亡率も極端に減ったんだし新米冒険者も治療費を考えないで済んでるんだから悪いことばかりじゃないんだよ」
確かに死亡率は減ったけど……。
解せない。
冒険者稼業なんて生きるか死ぬかだ。自分の命を賭けて一攫千金を夢見る仕事の筈だ。
私はそう思ってる。
「…やっぱり怪我する奴が悪い、未熟…自分の技量が分からない奴は死んでも文句は言えない」
ポカッ!
アリスは私の頭を今度は強めに叩いた。
「そんな言葉を冗談でも言うもんじゃないよ。冒険者は家族なんだ、ギルドって大家族のね。それを支えるのが私達の仕事なんだよ」
腰に手を当てながら怒ってはいるけど、どこか哀しげな表情を浮かべているように見えて私は何だか罪悪感に駆られてしまった。
「…ごめん」
呟くような声で謝る私に表情が今度は少し困ったものへと変わるアリスの姿にぼんやりと忙しいなぁと思ってしまった。
「まぁ、いいわ。それより任せて大丈夫ね?」
ニヤリと笑みを浮かべる姿に何だか騙されたような感じがして釈然としないけど……仕方ない。
「うん、分かった……行ってくる」
面倒くさそうに立ち上がる私を苦笑しながら見つめるアリスに軽く手を振ってトボトボと歩き始めたけど…あぁ、面倒くさい………。
*
この世界は奇妙な法則によって成り立ってる。
神々の代理人という立場で世界に生み出された私達、十二種族は大きく分けて人族、唖人族、精霊族の三種族が存在しているわ。
その三種族をさらに細かく分けた十二の種族がこの世界の住人なの。っで、それとは別の神々の代理人として生み出されたのが魔の者、平たく言うと魔族や魔物ね。
ダンジョン自体も魔の者に含まれるって言う人もいるみたいだけど正直、どうでもいいわ。
まぁ難しい話は無視して、分かりやすく説明するとそれぞれの種族が神々の代理人として勢力を削り合ってるのがこの世界なの。
その世界で十二種族の中心なのが人族が建国したドノワール聖帝国で、この国を囲むようにして他の種族の国が存在しているのが今の世界というわけ。
神々に選ばれた私たち十二種族の目的はただ一つ、この国を存続させること…つまりは十二種族が生き残ること。
まぁ、チェスで例えるならドノワール聖帝国はキングと言ったとこかしら?この国が滅亡すると魔の者を生み出した神々の勝利ってとこね。
そのために各国に点在するダンジョン攻略は国家政策として国を挙げて取り組んでるわ。
中枢を担うのは私も所属している冒険者ギルドって言う組織なんだけど、私はその本部に所属していた一流の冒険者……元ね。
まぁ、さっきも言ったけど私はギルド所属の保険屋で何で私が保険屋になったかって言うと……。
いま、会いに行こうとしている今回の依頼主が最大の元凶なのよ!
あまりの理不尽さにフツフツと怒りがこみ上げてくるけど……虚しい。何だか情けなくなってくる。
思い出すのもバカらしい。
私は深い溜息と一緒にガックリと肩を落としてトボトボと歩きながら教会に向かってる。依頼主から状況を聞くためにね。
まぁ、依頼主ってのはこの間たまたまダンジョンで出会った知り合いなんだけど私が見つけたときは、まぁ悲惨な状態だったのよねぇ……よく生きてたなぁってつくづく思うわ……。
私は教会に向かいながら依頼主の話を聞く前に、記憶を整理する意味も込めて、その時の状況を思い出すことにしてみた。
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