出れない彼女と諦めた僕
初めて小説を投稿しました。まだ何もわかっていない新参者ですが、宜しくお願い致します。
だいたい一ヶ月に一度、僕は彼女に会いに行く。
僕は彼女の部屋をコンコンとノックし、返事を待たずに入室する。
「こんにちは。調子はどう?」
「別に。いつも通りよ」
まだお昼時なのに深く窓から差し込む光に照らされながら彼女は答えた。
「それはなによりだね。やっぱり諦める予定はまだ先になりそうかい?」
「ええ。あなたこそもう頑張ったりはしないの?」
「ああ。もう諦めちゃったからね」
もう幾度となく交わした、わかりきったであろう言葉を互いに確認するように交し合う。
ここは病院の敷地内にあるが、一般の患者は……いや、患者だけでなく、病院のスタッフですら何かしらの用事でもないかぎり訪れる事がない病棟。
いわゆる特別管理病棟という場所である。
僕は生まれた頃から。彼女は三年ほど前からこの病棟と関わりがある。
昨年から僕は自身に巣食うものを治す事を諦めこの病棟を出た。
彼女は治る可能性を信じてまだ治療を続けている。
「そういえば、先月に新しい薬を試すとか言ってたけど効果はありそう?」
変わり映えのない彼女にあったであろう数少ない変化を口にする。
内心、前の薬も新しい薬もたいして変わらないだろうと知りながら。
「正直効果の実感はないわね。強いて言うなら副作用が変わって落ち着かなくなったぐらいかしら」
「やっぱり……実際、僕らのこれは治るものじゃないみたいだし。直ぐに発作とかが起こって死ぬものでもないのに……ショック症状にさえならなければ」
「そのショック症状が危ないんじゃない。確かにそんな直ぐに起こるものではないけれど、危ないことには変わりないわ」
「それでも、僕は君と一緒に少しでも外の世界を味わいたいよ」
まるで祈りような…それでいて、願いのような声色で口を開く。
「あら、そうストレートに言われると、少し照れくさいわね。じゃあ、私のこれが治ったら一緒に散歩とか行きましょうか」
「おお! それはいいこと聞いた。約束だよ」
彼女は「仕方ない」といった雰囲気で照れと嬉しさを覆い隠し。
僕は「嬉しさ」を前面に押し出すような声を出す。
「ええ。だからしっかり待っててね。忘れたりしたら後でヒドイわよ」
「ああ。君の事は絶対忘れないよ」
「ええ。お願いね」
そう言って僕らは、この残酷で心地のいい空間で微笑んだ。
「それじゃあ、少し早いかもだけど僕はもう行くよ」
僕は名残惜しいそうにそう言い放ち、彼女の部屋を出る準備をする。
「ええ、気を付けてね。あ、後、また来てね。待ってるから」
「ありがとう。また来るよ」
そして、お互いに最後の言葉を交し部屋には彼女だけが残った。
僕は彼女の病棟から出て更に別の病棟へ進んで行く。
治療薬物研究棟……そこは新しい薬が人体にどのような影響が出るか調べる場所。
僕は治療を諦めて、この命を彼女に使うと決めていた。
……彼女に内緒で。
前書にもある通り。何もかも初めてです。そんなものでも楽しんで頂けたら幸いです。
また、感想や評価。アドバイスなどありましたら教えていただけると助かります。
ありがとうございました。
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