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ソード・オブ・ベルゼビュート  作者: 篠崎芳
第三章 SOB アウトフィールド
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25.キリシマセンジンVS朱色の剣帝


「手に入れた情報の中に確かその名前があったが、あんたがそのキリシマセンジンってことか?」

「その通りだが、それが”キリシマセンジン”のすべてではない」


 曖昧な回答。


 剣の腹で肩を叩きながら、怪訝な顔をする鏡子郎。


「なんだそりゃあ? 意味がわからねぇな」

「”キリシマセンジン”とは、我こそは最強であると表明するための”旗”のようなものなのだ」


 要するに腕の立つ武芸者が、敵を求めて”天下無双ここにあり”と表明するようなものか。


「”キリシマセンジン”同士が死合いを繰り返せば、いずれ、頂点の直前で二人だけが残ることになる」


 骨介によると”キリシマセンジン”の思想は二年ほど前から広がり始めたのだという。


「そして今、おれたち斬組は全員が”キリシマセンジン”を名乗っている」

「だったら、さっさとテメェらで殺し合えばいいだろうがよ」


 どっしりとした芯の通った声で、骨介が言った。


「斬って、斬って、斬りまくる」


「あ?」


 狙い定めるかのように、骨介が片目をつむった。


「おれたち斬組以外の”キリシマセンジン”を、この世から消し去ったあと――おれたち斬組だけで、真の最強を決める。それが、おれたちの望みだ」


 両手の刀を左右へ広げる骨介。あれが構えのようだ。


「他人に理解を得られるかどうかは、また別の話だがな……そしてこの異質性は、おれたちもわかっているつもりだ」


 取り巻く空気が、不穏な戦闘色へと変わっていく。


「それでも最強を目指してしまうのは、戦人いくさびとゆえのサガなのかもしれん」


 そう骨介が口にすると、仲間たちが刀を構えた。構えは統一されていないが、どれも洗練を感じさせる。


 なるほど、と鏡子郎はつぶやいた。


「今まで襲ってきた連中とは質が違うらしい。”本隊”と名乗るにふさわしい腕を持った連中を、ようやくホワイトヴィレッジも投入してきたってわけか?」

「五識の申し子の噂は耳にしている……最強と呼ぶにふさわしい、魂殻使いたちだと」

「ああ、その通りだぜ」


 鏡子郎のそのふてぶてしい返しに、骨介の口端がかすかに吊り上がった。仲間の一人が「おい、あの副長が笑ってるぞ」と困惑の色を見せる。


「よい覇気だ、朱川鏡子郎」


 称賛を放つと同時に、骨介が鮮やかに滑り込んできた。半月なる軌跡の一刀。滑らかな殺の斬閃が、鏡子郎の頬すれすれを走り抜けた。


 そしてもう一刀による骨介の突きを、鏡子郎は剣の腹で鮮やかに受け流す。


 すると先ほど空を切った方の一刀が、すぐさま、カマイタチさながらの鋭さをもって襲いかかってきた。鏡子郎は身体を後方へ倒しながら、その刃を払いのける。


 その時、鋭い感覚が身体を駆け抜けた。


 背後に気配が、もう一つ。


 あの唯一の非二刀流の小柄な男が、刃を後ろへ流した構えの状態で、背後へ滑り込んできたのだ。


「このレベルの相手をひとり占めはずるいですよ、朽波さん」


 馬の蹄鉄ていてつにも似た軌跡。


 水平一閃。


 バランスを保ちながら身体を捻りつつ、鏡子郎はその斬閃を斬り払った。


 鏡子郎は眉間に皺を刻む。


 剣を握る手が、痺れを覚えたからだ。


 あの小柄な優男風の少年はどうやら骨介より腕力がある。


 見かけによらず、怪力。


「ボクは五泉羽円と言います」


 円と名乗った少年は、呼吸にまったく乱れがない。


「どうぞ、お見知りおきを」

「知るかよ。覚えるつもりもねぇ」

「では忘れられないよう、努力するとしますか」

「テメェらまさか、このオレに勝てると思ってんのか?」


 鏡子郎は手に痺れを覚えつつ、柄のを引いた。


 身体の周囲に、四本の剣が出現。


 骨介が唸る。


「ふむ、それが貴様の――五識の申し子の、魂殻か」


 四本の浮遊剣は、それぞれが意思を持つかのように、二本ずつ骨介と円へ突進を開始。


 骨介と円はそれを難なく打ち落とす。


 打ち落とされた浮遊剣が主のもとへと戻る。そしてつき従うようにして、主の背後で浮遊したまま待機状態に入った。


 鏡子郎は口もとに余裕を浮かべると、首を傾けながら、剣先を骨介と円の間へ向けた。


「なかなか、やるみてぇだが……怪我しねぇうちに、ここいらで引いといた方がいいんじゃねぇか?」


 骨介が淡々と答える。


「できることなら、おれたちはこのまま続けたいところだがな」

「まさかテメェら、オレと同格とか思ってるわけじゃあねぇよなぁ? いいか? テメェらとオレじゃあ、そもそも、毛並みが違ぇんだよ」


 円が苦笑する。


「毛並み、ときましたかぁ」

「いいか? 断言してやる。テメェらみてぇな雑種が、この朱川鏡子郎に勝てるわけがねぇ」


 骨介はどこか満足げだった。


「やってみなければわかるまいと、そう返したいところだが」

「やってみるまでもねぇさ。オレが負けるなんざ、ありえねぇんだよ」


 鏡子郎の吐く言葉に、骨介はゆったりとした笑みを浮かべた。


「その若さゆえの気骨には好意的な感情すら抱くぞ、朱川鏡子郎。誰もがそのような時期を経験するものだ。だが……若さとは、それでいいのかもしれん」

「その知った風な口を利くところも、気に入らねぇな……この朱川鏡子郎に勝つだと? はっ! 寝言なら、寝てから言うこったな!」

「では――」


 骨介が前傾姿勢を取る。


「寝言かどうかを、試させてもらうとしようか」

「無駄な努力だと、どうしてわからねぇ? テメェらじゃ、このオレには勝てっこねぇ……生まれ持ったモンが違いすぎるんだよ。朱川の血を持つこのオレが、そこいらの雑種に敗北するわけがねぇだろうが」

「雑種にも雑種なりの強みというものがある……それと、これは余計なおせっかいかもしれないが……行き過ぎた自負はいずれ驕りと化す。覚えておくといい」


 不快さを隠さず、鏡子郎は返した。


「ほぅ? 雑種風情が、このオレに説教かよ?」

「いいや、今のは説教ではなく忠告だ。おまえはもっと強くなる……だが、まだ乗り越えるべきしんの壁があるのも、事実のようだ」

「チッ……仕方ねぇな。口で言ってもわからねぇなら、その身に叩き込んでやるしかねぇか」


 鏡子郎は柄のトリガーに指をかけ、歩き出した。


「このオレが、いかに優れた人間なのかをなぁ!」


 この時、鏡子郎は頭に血がのぼっていた。一方、骨介と円は平静さを一切失っていない。彼らは、ほぼ一定の感情値を維持していた。


「油断は禁物ですよ、朽波さん。彼は、あの五識の申し子なんですから」

「わかっているさ、円。まだ若さゆえの傲慢さこそ残っているが、実力の方は確かだ。しかし、惜しいな……謙虚ささえ身に着けたなら、アレは大化けするぞ」

「なら、見逃してあげますか?」

「いや、そのつもりはない」

「ですよねー」


 魂殻の剣を手に、大股で一直線にズカズカと歩み寄る鏡子郎。


 そんな五識の申し子を見据えながら、迷いない顔で、骨介は両手の刀を握り込んだ。


「時として人は、敗北を知ることで強くなる……それもまた、悪くはあるまい」

 

「あぁ? 敗北で強くなるだぁ? はっ! 到底オレには信じられねぇなぁ! ったく、雑魚がほざいてんじゃねぇぞ! このオレに敗北の二文字なんざ、あるわけがねぇだろうが!」


 刹那――円が、鏡子郎の視界から消失。


 一足で間合いを詰めてきた円。その神速の初刃を、鏡子郎は剣で受けとめた。浮遊剣が骨介を襲う。しかし浮遊剣は、すべて払い落とされた。


「あなたの剣は、魂殻に頼りすぎているきらいがありますね」


 激しい鍔迫り合いの最中であるにもかかわらず、円の表情は笑顔のままだ。


「あ? 知るかよ! いずれにせよ、テメェらはオレに勝てねぇ! なぜならオレの魂殻は、最強の名にふさわしい魂殻だからだ!」


 円は鏡子郎の言葉をあっさり受け流して、続けた。


「しかしボクたち斬組は魂殻に軸を置いていません。魂殻の能力の優劣だけがすべてではないと考えているからです」


 その怪力ゆえか、円の刀がジリジリと鏡子郎の剣を押していく。


「ボクたちは自らの心技体を中心に鍛えて、魂殻をあくまで補助だと考えるんです。魂殻に頼らずとも名をあげている傭兵や殺し屋がいる時点で……魂殻が絶対でないのは、あなたにもわかるでしょう?」

「はっ! 悪ぃがさっぱりわからねぇなぁ! 少なくともオレにとっては、魂殻の優劣ほど重要なものはねぇからよ! テメェらこそ覚えておけ! 魂殻が最強なら、そいつこそが最強にふさわしいってことをな!」

「その凝り固まった考えゆえに、朱川鏡子郎――」


 今度は骨介が、攻撃態勢に入ったまま、鏡子郎の背後へ滑り込んできた。









 柄のトリガーを、鏡子郎は引いた。




「最強にふさわしい選ばれし魂殻は、




 ――カチッ――




 どうしようもなくデキが違うと思えてしまう、現実。


 選ばれてしまったのだから仕方ない。


 朱川という血に。


 最強格の、魂殻に。



 典外魂殻――”四特秘装フォーストリガー



 浮遊剣が手もとの魂殻剣に吸収され、その形が変形していく。


 吸収前の魂殻剣の柄の色調は、黒い柄に白のトリガーだった。しかし今、トリガーは朱に染まっている。


 朱色の 円 フィールドが、出現。


 すべての斬組の足もとが朱色に光っている。


 荒ぶる霊素。


 朱の粒子が無数の小さな虫のごとく、フィールドを飛びかっている。


「悪ぃが――」


 警戒したのか、骨介と円は鏡子郎から一時的に距離を取った。


オレには、テメェらの考えを認めることはできねぇ」


『おまえの場合は驕りでないから、少し反応に困るな』


 先ほど別れる前、宗彦が鏡子郎にかけた言葉。


 ともすれば、鏡子郎の発した言葉は驕りと受け取られるものが多かったかもしれない。しかし鏡子郎にしてみれば、ただあくまで”事実”を述べているに過ぎなかったのだ。


 瞳が熱を持っている感覚。


 この力を使う時、自分の瞳はあかくく光っていると聞いた。


「もう一度、言う」


 鏡子郎は見下すようにあごを上げると、荒ぶる朱の粒子の中、斬組の者すべてに対し、改めて問うた。



「テメェらまさか、このオレに勝てると思ってんのか?」



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