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ソード・オブ・ベルゼビュート  作者: 篠崎芳
第二章 SOB シェルターズフィールド ネクストステージ
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23.黒の聖騎士


(前回トーナメントの決勝戦、蘇芳十色は試合開始と同時に負けを認めた……要するに、蘇芳はこの娘との力量差を事前に見切ったからこそ、魂殻の展開すらせずに試合を降りたわけだ)


 戦っても無駄だと思えるほど、力量に差がありすぎた。


「去年度のトーナメント、私は相手に合わせて力をセーブしていましたが……決勝戦だけは、そのセーブを解くつもりでした。あの生徒会長はそこそこ楽しめる相手だと感じましたから。なのにあの男は、戦わずして私との試合から降りたのです」


『経験値という意味では、勝てぬ試合を行う意義もあるかもしれない。しかしここまでの差があれば、それはもはや”試合”とは呼べまい』


 それが試合を降りた時、蘇芳十色が口にした言葉だったそうだ。


 蔑みの目で地面を見つめるティア。


「さすがの私も腹が立ちましたので、もうこの学園にはトーナメント以外で登校しないと決めました。私以下の者しかいない学園生活など、価値はありませんから」

「……トーナメントには出るんだな」

「そういう決まりですので。それにこの殻識学園では、トーナメントで優勝し続ければ卒業はできます。テストも受けず、出席日数が基準を満たさなくとも、トーナメント優勝の実績が自動的に卒業へと押し上げてくれるのです。ただし在学中、二回は優勝しないといけませんが」

「不真面目な学生だ」

「この殻識では強さこそがすべてです。そこだけは、評価しています」

「おまえのようなシンプルな人間には、うってつけの場所か」


さえいれば、完璧です」


(敵、か……)


「ですから敵として私と戦いなさい、七崎悠真。もし断れば……仕方ありません、私が黄柳院オルガに特例戦を申し込むとしましょう」


 脅しを隠さぬ冷酷な物言い。


「特例戦が成立したあかつきには、二度と学園に復帰できないくらい、その試合で黄柳院オルガを叩き潰してしまうかもしれません」


 ティアは人さし指を刃に見立てると、悠真の身体を斜めに斬る仕草をした。


「たとえ特例戦と言えど、はありますから」


(やれやれ。仕方ないか……それに、この娘には少々聞いておきたいこともある。まさかとは、思うが――)


「いいだろう。受けてやる。特例戦の日取りはどうする?」


 ティアの身体が、発光を始めた。


「――――


(この娘、ここで魂殻を使うつもりか? なるほど……ホンモノのバトルマニアと見てよさそうだ。しかし、この明るさでも視認できるほどの霊素量か……さて、今の条件でどこまでやれるか――)


「待て」


 背後から制止の声。


「学園内とはいえ、HALの許可なしでの学内における魂殻使用は認められていない。罰を覚悟での使用か、ティア・アクロイド」


 声の人物――蘇芳十色が問いを投げ、悠真の隣まで歩いてくる。


 ティアの身体の発光が弱まる。


「……生徒会長ですか」

「こんなところで魂殻使用とはな……いいか? この学園で魂殻を使った私闘は原則認められていない。私闘がしたいのなら、特例戦を申し込めばいい。もしこのまま君が規則を破って、七崎悠真と戦おうとするなら――」


 十色が悠真の前へ出る。


「生徒会長として、見逃すわけにはいかない」


 おさまりかけていたティアの発光が、再び光量を増した。


「むしろ私は、望むところですが?」

「……何?」

「望むところだ、と言ったのです。むしろ、願ってもないことです。幻の決勝戦をやり直すことができるのなら――」


 ティアの瞳が霊素の光に煌めく。


「罰でもなんでも、この身で受けてさしあげますよ」


(瞳の発光現象まで起こすほどの霊素放出……この娘、他の殻識生とは比べものにならない次元の霊素量の持ち主か……)


 黄金の瞳の正体がわかった。


 あれは”霊素変異れいそへんい”。


 霊素の影響でごくまれに髪や肌、瞳の色が変異するケースがある。それを”霊素変異”と呼ぶ。そしてこの霊素変異が起こるのは、秘めている霊素量が基準値をはるかに上回る殻性者に限られるという。


(つまりあの娘は、霊素変異を起こすほどの霊素量を秘めているわけだ)


 十色に狼狽はない。落ち着いている。


「引く気はないんだな、ティア・アクロイド?」

「愚問ですね」

「わかった、いいだろう」

「蘇芳――」

「君は黙っていろ、七崎悠真。今この場で起きていることは、学園の秩序を守る生徒会長である僕と、その秩序を乱すティア・アクロイドとの問題となった。今、君の出る幕はない」

「…………」

「おとなしくしていろ。でなければ僕は、君もこの場で罰しなくてはならなくなる。生徒会長としてな」


(この男……)


 悠真はしばし考え込むと、おとなしく引き下がった。


「「――装殻――」」


 十色は”不死なる白銀王イモータルガバナー”を展開。


 ティアが展開したのは――黒のレオタード型のスーツに、白の装甲。背部では、翼を連想させる細長い黒のビットが浮遊している。


 レオタードによって身体のラインがよりくっきりとわかった。胸以外は、余分な肉のついていない引き締まった肉体と言えるだろう。


 武器は、白と黒の両刃剣が一本ずつ。


 さながら騎士のような出で立ちだが、騎士にしては軽装とも思える装い。


(エンゼルタイプか)



「”黒の聖騎士イレギュラーパラディン”」



 ティアの魂殻の名を口にし、十色が槍を構える。


「その魂殻の全貌を目にした者は、まだいないと聞くが」


「全貌を明らかにするに足る相手が、この学園にいなかっただけです」


「僕は、前回トーナメントの決勝で試合を降りたが……今の僕には、あの頃と比べて格段に進化しているという自負がある。あれから学園をサボタージュしていた君と、果たしてどれくらい力量差が縮まったかには興味がある」


「私としては願ってもない状況です。他のトーナメントに出場していた者は、誰一人として私の気を惹きませんでしたが――あなただけは、戦う価値があると感じました」


「いずれにせよ――」


 十色が、動いた。槍を構えながら駆け出す。


 速い。悠真と戦った時と比べて、踏み込みのキレが増している。


「この場で君は魂殻を出した。僕は生徒会長として、特例戦以外での魂殻を使用した私闘を、見過ごすわけにはいかない」


 ズバッ!


 下からの切り上げ。


 ティアの黒剣の刃が、


 言うなれば、霊素の刃。


 しかも振り上げの速度は、常人では追えぬスピード。


「だがその攻撃は、僕へのダメージとはならない」


 霊素刃れいそじんが斬ったのは、蘇芳十色の分身ダブル。ティアの背後に、分身と入れ替わった十色が立っていた。


 ティアが視線を背後へ滑らせる。


「|”不死なる白銀王”の能力……分身を斬っても、あなた自身へはダメージがいかないのでしたね」

「今の攻撃程度なら、僕の分身を消滅させることもできそうにないな」

「それほどの自負を持てる能力がありながら、なぜ決勝戦を降りたのですか?」

「あの時点では、まだ分身を使いこなせていなかったからな」

「では、今なら――」


 ティアが向きを変え、一歩下がる。十色は彼女の言葉を引き継ぎ、分身と共に攻撃態勢へ移行した。


「僕は君に勝てるかもしれない、ということだ」

「愚かです」

「どうかな」

「いえ――」


 スゥ……。


 ティアの目が細まる。彼女の背部に浮かぶビットから、漆黒に変異した霊素が放出され始めた。


 悠真はこの時一瞬だけ動くべきかどうかを、迷った。


「愚かです」


 ザシュ――――ッ!


「ぐっ、は……っ!」


 ティアが両手の剣を左右同時に振った瞬間、襲いかかった霊素の斬撃が、十色とその分身を切り刻んだ。


 魂殻が解除され、十色が膝をつく。


 分身は高位力の霊素刃によって消滅していた。


「あなたの意図したタイミングで分身と入れ替わる能力は、優秀と呼べる代物です。ですが、そんなものは――」


 両手の剣を腰の後ろの鞘に戻しながら、ティアは言った。


いいだけのことです」


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