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ソード・オブ・ベルゼビュート  作者: 篠崎芳
第二章 SOB シェルターズフィールド ネクストステージ
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15.約束の日曜日


「それにしても、七崎くんって色んなことを考えていますのね」

「他愛ない思考遊びさ。大層なものじゃない。こうして理屈をつけたがるのは、若い時に読んでいたミステリ小説の影響かもな」

「若い時?」


(……疲労のせいか、口が滑ったな)


「くすっ、何を言っていますの七崎くん? キミが若くなかったら、この学園の生徒はみんな若者ではありませんわよ?」

「俺にとっては小学生くらいが”若い”のカテゴリーなんだ」


 さらっとごまかしておく。


「なら小学生は若いではなく、子どもと呼ぶべきですわ」

「最近の小学生は大人っぽいらしいがな」

「ふふ、それを学生らしくない物言いをするキミが口にしますの?」

「何かと背伸びをしたがる年頃なのさ」

「まったく……キミには、かないませんわね」


 そう言って腰を浮かせると、オルガはごみ箱へ空き缶を捨てに行った。


(さて、ああいったを用いてランキング二位の蘇芳十色を倒したことで、しびれを切らした敵が尻尾をみせるか、どうか……)


 そのあと悠真たちは、正門を出た。


「それで、七崎くん……明日の約束なのですが、予定通りでよろしいでしょうか? 今日の疲れを引きずりそうでしたら、また日を改めてでも――」

「疲労の方は問題ない。明日は、楽しみにしている」

「あっ――は、はい! わたくし、腕によりをかけて作りますわねっ」

「午後六時頃におまえの家へ行けばいいんだったか?」

「はい! 七崎くん用のクッションも買っておきましたので、その点もばっちりですわ!」

「そいつは、ありがたい」


 迎えの車が待っている場所の手前で、オルガと別れた。護衛任務の対象時間はここまでである。悠真は、真っ直ぐ帰途についた。


 家へ戻って雑事の処理を終えた頃、電話がかかってきた。


(久住から……?)


「はい、七崎――の方がいいか?」

『いや、真柄でいいさ。今、大丈夫か?』

「ああ」

『生徒会長の蘇芳十色に特例戦で勝ったそうだな。試合の録画を観たよ。まずは、さすがだなと言っておこう』

「今の俺にはあんな試合が限界だがな。あの戦い方、やはり殻識学園としては問題があったか?」

『いや、逆に色々と停滞していたものを進めるきっかけにできそうだ。まあ、武器や道具類の持ち込みに関する規則の追加はありそうだがね』


 あの特例戦が問題になって電話をかけてきたのかと思ったが、問題化はしなさそうで安心した。なるだけ、久住彩月に迷惑がかかるのだけは避けたいと思っている。


『ちなみに君はこれでランキング二位になるわけだが、また辞退するのか?』

「そのつもりだ」

『そうか、わかった――っと、いかんな、本題を忘れていた。前日の連絡になってしまって悪いんだが……例の食事の件、明日はどうだろうか?』


(明日か……)


『急に仕事の予定が変更になって、時間が空いてな。もしそっちの都合が合えば、と思って』


 明日はオルガの家で手料理をごちそうになる予定となっている。


「時間の予定は?」

『二十二時頃に指定した場所で、と考えているんだが……ああ、遠出はしないからそこは安心したまえ』


 オルガとの約束は午後六時。オルガの家に長くとも二時間ほどいるとして、そこから家へ戻り、真柄弦十郎として出かける支度をするのは可能だ。


「わかった。その時間で問題ない」

『よかった。久々に三人で食事ができそうで、わたしも嬉しいよ』


(三人……?)


「氷崎も誘ったのか」

『え? ああ、そうだが……ええっと、何かまずかっただろうか? 昔みたいに、また三人で楽しくやれたらと思って……』


 他意がないのはわかる。昔からそうなのだ。


(この独特の鈍さも、久住彩月の愛すべき個性か……)


「いや、俺も楽しみだ。再会してからのんびり三人で話せる機会が、まだなかったからな」

『ああ。こんな形ではあるが、またこういう機会ができて嬉しいよ』


 久住は店の名前と場所を告げると、まだ片づける仕事が残っているからと謝ってから、電話を切った。


 特例戦のせいで悠真も今日はひどく疲れていた。いよいよ眠気の波が押し寄せてきていたので、相手が久住とはいえ長電話をする気力がなかった。


 それに、どうせ明日になればたくさん話ができるのだ。今は明日のために休んで疲れをとるべきだろう。


 本来ならまだ眠りにつくような時間帯ではないが、このまま夜まで疲労を引きずって起きているのも厳しい。


(半端な時間に起きたら、調べものでもするか……やることは、たくさんある)


 そういえば、もしこのまま真柄弦十郎の身体に戻ったらこの疲労感はどこへ行くのだろうか。


(まあ、真柄弦十郎の身体に戻って仮に疲労が消えたとしても、七崎悠真の方が疲労が翌日まで残るのなら意味がないしな……そのあたりは、明日、氷崎にでも聞いてみるか……)


 そんなことを考えながら寝支度を済ませると、悠真は眠りについた。



     ◇



 日曜日の午後。


 部屋の掃除を終えた黄柳院オルガはピカピカになった自室を満足げに見渡した。


 額の汗をぬぐう。


「ふぅ、完璧ですわ!」


 普段から部屋は綺麗にしているつもりだが、今日はいつにも増して気合を入れたつもりだった。


(ですが、気合を入れ過ぎたせいか予定よりも時間がかかってしまいましたわね……)


 置き時計を確認してから、次は料理の下準備に取りかかった。


 そして下準備を終えたオルガは、大事なことに気づいた。


(あぁ、そういえばまだシャワーを浴びていませんでしたわ! 掃除をして汗もかいてしまったから、汗くさいかもしれませんわね……服にもホコリがついているかも……そ、それに――)


 いざゆかんと唾をのみ込んでから、オルガは衣類ボックスから新品の下着を取り出した。これは、昨日悠真と別れたあとで買ってきたものだった。


(うぅぅ……改めて見ると、わたくしには少し大胆すぎる気がしますわね……ですが、これも七崎くんに異性として振り向いてもらうためっ。インターネットにも、大胆な下着で迫れば気になる彼もイチコロ、と書いていましたし……ええ、せっかくですし、今日は試しにこれをつけてみましょう……)


 壊れものを扱うようにして下着をつまみながら、ハッとする。


(ててて――わたくし、なぜ七崎くんにこの下着を見せるのを前提で考えていますの!? わたくしったら、なな、なんとはしたない思考を……っ!)


 ボシュッ


 あまりの恥ずかしさに頭が沸騰し、蒸気が発生した気分だった。


(と、とにもかくにもまずはシャワーですわ! 急がないと、七崎くんが到着してしまうかもしれませんし!)


 シュルシュルッ


 脱衣所で服を脱ぎつつ、オルガは唇をとがらせた。首をわずかに傾ける。


(んん……? そういえば、朝の買い出しから帰ってきてから……何か、忘れているような気がしますわね……はて、なんでしたかしら? まあ、そのうち必ず気づくことだと感じた記憶だけはありますから、いずれ気づくことでしょう。それより今は、シャワーを浴びるのが先決ですわ……)


 カララッ


 風呂場に入り、蛇口をひねる。


 その時だった。


(あら……? 今、何か――)


 次話は明日(11/3)の21:00頃、投稿予定です。

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