表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソード・オブ・ベルゼビュート  作者: 篠崎芳
第二章 SOB シェルターズフィールド ネクストステージ
33/133

4.不死の名の意味


 加速攻撃がヒットするかと思われるたび、蘇芳十色が”分身”し、小平太の攻撃はことごとく無力化されていく。


 観客席に巨大などよめきの波が広がった。


『なんだよ、あれっ!?』

『去年までのトーナメントだと会長にあんな能力、なかったよな!?』

『柘榴塀先輩の加速攻撃がまったく通用してねぇぞ!?』

『ただでさえ会長は強すぎるのに、あんな能力まであったのかよ!』


 どうやらあの分身は前回トーナメントが初お目見えだったらしい。


 防御に回る形となった時の小平太は、実質的に二対一の戦いを強いられていた。


 攻防の最中に目を光らせつつ起死回生の一撃を狙うも、小平太の加速攻撃がヒットする瞬間に十色は”白き影武者”と入れ替わる。どこかそれは、忍者が使う変わり身の術を連想させた。


 影の方へ攻撃がヒットしても十色本人にダメージはないようだ。ゲージすら一ミリも動かない。


 不死なる影。


 影にいくら攻撃を加えようとダメージと判定されない。


 その”影”は幻ではなかった。


 質量を持った”分身ダブル”。


(攻撃があたる直前に分身を出現させ、瞬間的な立ち位置の入れ替えが可能……攻撃にも回避にも使える能力か。一撃入魂型と言える小平太の戦闘スタイルとは、特に相性が悪い相手と言えるだろう……)


 それだけではない。十色自身の戦闘技量自体も遥かに小平太を上回っている。そこそこの運動量をこなしているはずだが、十色は汗一つかいていない。おそらくは動きが最小限だからであろう。


 隙となりそうなテレフォン攻撃もないに等しい。


 完全に応援団は勢いと声を失っている。


 小平太だけが一人諦めず、必死に攻撃を続けていた。


 しかし結局、最後まで小平太は十色のゲージを一ミリも削ることができず、逆にゲージをゼロにされて敗北した。


 試合終了のブザーが鳴る。


『く、そっ……! はぁ……はぁっ……! ちっ――やっぱてめぇはすげぇやつだよな、十色……っ!』


 魂殻をオフラインにした十色が小平太に手を差し伸べる。


『君もいちじるしく成長している。事実、初見の全力攻撃の速度にはひやりとさせられたよ』

『へへ……だろ? おれも、負けじと成長してんだよ』


 ぐいっ


 手を取った小平太が十色に引っぱられ、立ち上がる。


『ふぅ……おまえにはやっぱ、まだ勝てねぇか。ま、昔からおれが十色に勝てるもんなんざなかったけどよ……だがいつかは、必ずおまえに追いついてみせるぜ』


 十色の胸に、小平太が軽くこぶしを打ち込もうとした。


 パシッ


 胸を突こうとした小平太のこぶしを、十色がてのひらで掴んで受けとめる。


『追いつくではなく、そこは追い越すと言ってもらいたいところだったな』

『ははっ、そうだな! ったく、つくづく十色にはかなわねぇや!』


 小平太の大笑たいしょうが戦台を満たした。


 十色のダブルを使用したあの戦い方を見たら、萌を筆頭とした応援団なら卑怯だなんだと喚き立てそうなものである。


 しかし小平太の試合相手への態度が、十色への非難や罵声を躊躇させたのだろう。ましてや相手は、学園の生徒会長。咬みついて得のある相手ではない――そう多くの者が判断したようだ。ただし表情を見る限り、南野萌の胸中には十色への悪感情が渦巻いていそうだった。


 つまるところ柘榴塀小平太にとって蘇芳十色は”敵”ではないのだろう。”勇者”とは普通”敵”以外の者には気持ちのよい存在として描かれる。ゆえに”敵”を叩き潰した時、周囲は勇者へ惜しみない称賛を送るのだ。


 悠真は映像を消した。


(あのダブルの攻略は必須だが……その前に、蘇芳十色の槍と打ち合える武器が必要だな。分身能力と槍の威力に目が行きがちだが、槍さばきもかなり洗練されている……)


 真柄弦十郎の身体を使えるならばともかく、七崎悠真の身体と魂殻の補助であの十色の槍をすべて回避しきるのは困難であろう。


(先日の鎖鎌の分銅を用いたあの戦い方も無理だな。剣のリーチならまだしも、あの槍の長さと技量から考慮して……おそらくは、どこかでつかまる)


 あれは鎖や分銅が敵につかまらないという前提によって、初めて成立する戦い方である。


(ふむ……改めて感じるが、二位と三位との間にこれほどの開きがあったとはな。いや……一位の奇妙な欠席を考えると、実質、現在この学園の頂点は蘇芳十色と呼んでも差し支えないのか)


 小平太と違い、十色は魂殻性能を百パーセント引き出せている。


「このトーナメントの準決勝映像は初めて見ましたけど……あの分身の能力、恐ろしいものですわね」


 思案する悠真を邪魔すまいと黙っていたらしいオルガが、タイミングを見計らって口を開いた。


 この試合が行われていた時、彼女は保健室にいた。蘇芳十色の分身はいま閲覧した準決勝で初めて使用されたようだから、彼女にとっては初見の能力だったわけだ。


(蘇芳十色の魂殻に”不死”の名が冠されている理由はこれか……分身が攻撃されてもゲージは減らず、本体へダメージもいかない。加えて立ち位置の交代タイミングも自由自在……不死と呼ばれても、おかしくはない)


「厄介な能力ではあるな」

「柘榴塀先輩の時と同じ戦法は取れないのですか?」


 同じ戦法が使えない理由をオルガに説明した。さすがの理解力で彼女はすぐ状況を把握する。少し考え込んでから、オルガは言った。


「そうなりますと……まず蘇芳先輩の槍と打ち合える耐久力を備えた武器が必要となりますわね。あの分身攻撃とやり合うにしても、まずは攻防共に使える頑丈な武器がないと、どうにもなりませんし……」


 その武器の問題を今まさに悠真は話そうとしたところだった。話す前にオルガは自ら次の課題を導き出したらしい。


(そのあたりの洞察力はさすがだな。さて……勝率を上げるための準備は、可能な範囲でしておきたいところだ。意に適うコモンウェポンがあるといいが……)


 悠真たちはとりあえずライブラリスペースから出ると、倉庫のコモンウェポンを見せてもらうために、職員室にいる狩谷のもとへと足を運んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ