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ソード・オブ・ベルゼビュート  作者: 篠崎芳
第二章 SOB シェルターズフィールド ネクストステージ
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3.超速の勇者VS不死なる白銀王


 放課後になると悠真は、オルガと一緒に図書館のライブラリスペースへ向かった。


 手続きは狩谷にしてもらった。

 

 閲覧室の椅子を並べて、二人隣り合って座る。迎えの者への連絡はもう取ったそうだ。着席時にスカートをおさえていた手を離し、オルガが眉を八の字にする。


「まさかキミがあの蘇芳先輩と特例戦だなんて……元を辿ればわたくしが原因なわけですし、なんだか申し訳ありませんわね……」

「気にするな。ランキング二位を倒せば、ますますおまえに特例戦を挑もうと考える生徒は少なくなる。むしろ、好都合だ」


 蘇芳十色の学内ランキングは二位。


 ただし不思議な点がある。聞けば、前回トーナメントの優勝者――現在の第一位は、決勝において蘇芳十色と一度も攻防を行っていない。さらにその決勝戦の翌日から今日までランキング一位はずっと欠席している。しかも学内で行われたその優勝者の試合は決勝後、すべて閲覧不可申請が出ていた。データを呼び出すと、申請者はその優勝者自身。


(一体、何があった……?)


「申し訳ありません、七崎くん。ご存じの通りわたくしは途中で体調を崩して保健室で寝ていたので、決勝を観ておりませんの。ただ……聞いた話ですと、試合が始まるなりなぜか蘇芳先輩が自ら負けを認めたとか」


 また決勝までの試合を観た限り、オルガからすると優勝した生徒は悪くない試合をしていたという。実力は確かな人物のようだ。


 悠真はあべこべさを感じる。


 敗北した側がネガティヴな感情から負けた試合をすべて閲覧不可にしたのならまだうなづける。しかし試合に勝利したはずの優勝者が、すべて閲覧不可とした上、翌日から今日までずっと欠席しているというのは……。


 今日も学園で堂々と生活しているのは、準優勝の蘇芳十色。これが何を意味しているのか、今のところはわからない。今からその件について調べ回ることも、できなくはないだろうが……特例戦が明日なのを考えると、どこに限りあるリソースを割くべきかはおのずと決まってくる。


 今集中すべきは、明日の蘇芳十色との特例戦だ。


(試合前の裏工作……あの会長の頭ならやろうと思えばできるだろう。もしそういう手を使ってくる相手なら、あえて一日伸ばした意味も理解できるが……)


 ギッ


 オルガが椅子の位置を近づけてきた。肩があたりそうな距離。彼女は申し訳なさそうに肩を縮めた。


「ち、近すぎますかしら……?」

「おまえの好きな距離でいいさ。近くにいて不快になる相手ではないしな」

「ぁ――は、はい……ぁぅ……そ、それにしても七崎くんはいつも通り強気ですわね。勝算はありますの?」

「それを今から、確認するのさ」


 ボタンを操作し、前回トーナメントの準決勝映像を呼び出す。


『てめぇと準決勝とはな、十色。できれば決勝であたりたかったが』

『悪いが手加減するつもりはないぞ、小平太』

『るせぇよ。手加減なんてしやがったら、ぶっ飛ばすかんな?』

『ああ、わかっている』


 二人が魂殻を展開。


 HALが試合開始を告げた。


 十色の魂殻は鎧型のデモニックタイプ。


 白銀王と名づけられたのは、鎧部分のフォルムが王のように荘厳だからであろう。色彩はまぶしいと言えるほどの純白。けれど反面、身を凍らせる極寒の地の雪の冷たさも持ち合わせている。


 試合開始のブザーが鳴ると二人は互いの武器の刃を軽くぶつけ合った。挨拶代わりの行為だろう。


『楽しみだな、十色』

『ああ』


(蘇芳十色の武器は、槍型……)


 小平太の一つ前の試合相手――あの東在宮という上級生だ――の武器はハルバード型だった。そして十色の武器は同じ柄の長い武器だが、スタンダードな矛型である。剣型の小平太に対し、リーチでは確実に分がある。


 しかし問題は、あの加速攻撃にどう対処するかであろう。あの加速を捉えきれず懐に入られたなら、リーチのアドバンテージは一瞬で消え去る。むしろ超近接戦の形となれば、逆に槍の取り回しの悪さはデメリットとなる。


『いっけぇぇ、小平太ぁぁーっ!』


 定番の萌の声援が飛んだ。しかし相手を委縮させるあの応援団が放つ独特の空気は薄い。


『いくぜ、十色――』


 ヒュッ


 小平太の周囲を舞う赤色粒子が、急速収縮。


 ドシュッ! 


 いきなりの超速撃アクセルアタック


 ガキィンッ!


 勢いよく下方から片手で振り上げた白銀の槍が、突進からの刺突を試みた小平太の剣を激しく上へ弾いた。十色は流麗に槍を両手で握り直すと、体勢を立て直そうとしている小平太へ風切る突きを放った。


 小平太は身体をよじりながら回避。


 そして回避行動を取りつつそのまま相手の懐へ飛び込む算段。超近接戦を仕掛ける。槍使いとの戦い方は、心得ているようだ。戦意に満ちた笑みをたたえ、小平太が、湧き上がる霊素を内燃させる。


『この加速アクセルについてこれるか、十色!? はぁぁああああ――――っ!』


  爆速超撃 エクスプロードアクセル


 爆縮ばくしゅく的な粒子収縮の直後、超加速した小平太が十色の懐へと疾走。


 十色の目に想定外を感じた光が走った。小平太のフルパワーアタックが想定を超えたスピードだったのだろう。


 ザシュッ!


 小平太のフルパワーアタックがヒット。勇者の超速剣が、白銀王のみぞおちへと突き込まれた。これ以上ないと言っていい、会心撃。



『確かに君の攻撃はさらに加速しているようだ、小平太』



 その時、白銀王の朗々たる声が小平太のからかけられた。


 しかしである。


 小平太の前方には、フルパワーアタックの直撃を受けた白銀王が立っている。


 要するに、前方と後方に”二人の蘇芳十色”がいるのだ。


 ブンッ!


 背後から振るわれた白銀王の槍が、勇者の鎧を激しく打ち鳴らした。


 ガンッ!


『ぐっ!』


 槍の威力で吹き飛ぶ小平太。直撃を受けたはずの”もう一人の前方の蘇芳十色”が、吹き飛んできた小平太に回し蹴りを叩き込んだ。まるで、サッカーのボレーシュートのように。


『ぐあぁっ!?』


 今の攻撃で小平太のゲージが五割ほど減少。


 蹴りを受ける前の時点で約三割のゲージが減っていたのを、悠真は確認していた。つまり、最初の槍の一撃だけであの小平太の魂殻のゲージは三割も削られたのだ。


 凄まじい槍の威力。


 戦台の上を転がる小平太は、転がりながら強引に体勢を立て直し、すかさず腰を落とした構えを取った。あごへ伝ってきた汗を手でぬぐうと、超然と佇む白銀の王へ、彼は戦意のこもった笑みをむけた。


『ちっ、さすがは十色だな……つくづく恐ろしい魂殻だぜ、そいつは』

『君の魂殻とは特に相性がいいかもな。逆に君にとっては、最悪の相性かもしれないが』

『くく……だからこそ――』


 再びの、 爆速超撃 エクスプロードアクセル


 ヒュゥッ!


『おまえは越えがいのある相手だぜ、十色っ! はぁぁああああ――っ!』


 ドシュッ!


 爆速なる弾丸と化した勇者が、王の喉笛に咬みつかんと迫る。十色は澄ました顔を変化させぬまま、半ばひとりごとのように言った。


『そういうところだけは、今も変わらないな……小平太』


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