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ソード・オブ・ベルゼビュート  作者: 篠崎芳
第一章 SOB シェルターズフィールド
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16.武器の墓場


「あの柘榴塀君と七崎君が、特例戦をっ!?」


 狩谷の声が職員室中に響き渡る。他の教師が何ごとかと視線を向けた。

 ハッと口にフタをしてから、狩谷は手元の端末を操作した。


「黄柳院さんと七崎君が連れ立って入って来たのにまず驚いたけど……あ、本当だ。明日の特例戦のリストに、七崎君と柘榴塀君の予定が入ってる」


 簡潔に事情を説明し、悠真はコモンウェポンを見たい旨を伝えた。


「コモンウェポンを? え? まさか七崎君、あの柘榴塀君とコモンウェポンで戦うのかい?」

「使えそうかどうかだけでも見ておきたいんです。俺の魂殻の能力は、先生もご存じの通りですし」


 狩谷が、しまった、という顔をする。今こうして言われて、ようやく悠真の魂殻に武器がないのを思い出したのだ。


「そ、そっか……うん、わかった。僕は君の担任だからね。できるだけ協力はさせてもらうよ」


 心なしか狩谷は嬉しそうである。


「うん……ランキング三位の柘榴塀君との試合は、きっといい経験になるよ」


 試合結果を予測済みの言葉だった。


「あれ? だけど特例戦じゃなくて模擬戦でよかったんじゃないかな? え? この学園に来たばかりだから、違いがわからず話を進めてしまった? あはは……そっか、それなら仕方ないね」


 オルガが隣で微妙な顔をしている。

 自主休学の件はあえて狩谷には伝えていない。悠真と小平太が特例戦に至った本当の経緯もだ。人のよさそうなこの教師に伝えたら話がこじれだすのは目に見えている。


「よし、じゃあさっそく行こうかっ」


 カードキーを手にした狩谷と共に、悠真とオルガは職員室を出た。

 職員室を出たところで、オルガが口を開いた。


「あの、七崎くん……申し訳ないのですが、実はもう迎えの者が来ておりまして。わたくしは、ここで失礼しなくてはなりません」


 狩谷に事情を説明している最中、彼女はしきりに時間を気にしていた。これが理由だったようだ。


「こっちこそ悪かったな、ここまでつき合ってもらって」


 さすがは黄柳院の娘と言うべきか、登下校には送迎車を使うらしい。


「本当に申し訳ありませんわ……何か、キミの力になれればと思ったのですが。その……本日は、もう下校時間を指定しておりまして……」


 黄柳院は厳しい家柄だったはずだ。門限にも厳しいのだろう。

 護衛時間は始業から終業まで。もう放課後なので護衛の時間は終わっている。迎えの者が来ているのなら、大丈夫だろう。


(もし途中で何かあれば久住が連絡してくるはずだし、何かあったなら……その時は、状況によっては俺も動くとするか)


「わかった。じゃあ、また明日だな」

「ええ、また明日」


 高貴な力強い瞳で、オルガが悠真を見た。


「キミの言葉を、わたくしは信じております」

「期待に沿えるよう、努力はする」

「キミを見ていると……なぜか、明日の特例戦への不安感が消えていきますわね」

「帰り道には一応、気をつけてな」

「はい、かしこまりました……それでは、失礼いたします」


 深々と頭を下げるオルガと別れると、悠真は狩谷と倉庫エリアへ向かった。



     ▽



「先生は、コモンウェポンには詳しいんですか?」


 廊下を歩きながら尋ねると、狩谷は苦笑を浮かべた。


「まあね。一応、魂殻マニアっていうのかな?」

「先生自身は魂殻を?」

「黄金世代じゃないけど、とりあえず装殻はできるよ」


 倉庫エリアに到着。


「ええっと、コモンウェポンの倉庫は……ああ、ここか。悪いね……コモンウェポンなんて滅多に引っ張り出さないもんだから、場所をしっかり覚えてなくて……」


 要するに狩谷は、武器なしの魂殻を持つ生徒は皆無に等しいと言っている。

 ただし、彼に悪意はないが。


 ピッ

 ガコンッ


 重厚な音と共に倉庫のドアが開く。


 パチッ


 狩谷がカードキーをパネルにかざすと白色はくしょくの照明が灯った。

 ずらりと並ぶ武器を収納した棚が姿を一斉に露わにする。

 様々なタイプの武器が置いてあった。武器の大半は弱色じゃくしょくとされるグレー。かろうじて他の色の武器もあるが、実に九割を|グレーウェポン(灰色の弱色)が占めていた。埃の色と似ているせいか、一層古びた印象を受ける。


「言ってくれれば、好きな武器を貸し出すよ。時間の方はまだ大丈夫だから、ゆっくり見学していってね」

「ありがとうございます、先生」

「はは……といっても、コモンウェポンじゃドングリの背比べみたいなものだけどね」


 狩谷がコモンウェポンの説明を始めた。

 コモンウェポンとは、抽出霊素を特殊技術によって既存の武器に定着させたもの、あるいは、抽出した霊素を素材化し武器に加工したものを言うらしい。


 オルガが言っていたように、本来、魂殻武器とは”紐づけ武器”である。魂殻武器の真骨頂は、使用者と魂殻武器との霊素共鳴により、その能力が倍加されることにある。魂殻武器の真髄たるその共鳴は、使用者と武器との霊素性質が一致することで成立する。要するに、魂殻武器は使用者の専用武器としての色合いが非常に濃い。


 一方のコモンウェポンは、その魂殻武器のである共鳴部分が備わっていない。そのため性能が極端に劣ってしまうのも仕方あるまい。


「僕が何か強力な武器を用意できたらいいんだけどね……さすがに、あの三賢人でもなければ強力なコモンウェポンを用意するのは無理だろうなぁ……」


 そのうちの二人と悠真は一応コンタクトを取れる立場にあるわけだが、特殊武器の調達用件でコンタクトを取るわけにはいかない。そんな規格外の武器をこの学園に持ち込むなど、極論、爆弾を持ち込むより危険な行為だと言えるからだ。使用すれば出どころについての捜査がすぐ始まるだろう。使用した悠真も穏便には済むまい。


 武器を物色していた悠真は倉庫の端に並ぶ木箱の列に目をとめた。フタが開いており、グレーウェポンが無造作に詰め込まれている。


「ああ、それはコモンウェポンの中でもさらに使い勝手の悪い武器の入っている箱で……他に収納スペースがないから、そこに放り込まれているんだ」


 木箱から飛び出していた鎖に気づき、悠真は引っ張り出してみた。


「これは……」

「その武器は……ああ、鎖鎌くさりがまってやつだね」


 鎌のついた柄底から伸びる鎖の先に、重量感のある灰色の分銅がついている。


「それは以前、工作部の生徒が、昔の剣豪小説に出てくる鎖鎌使いに影響を受けて作ったんだったかな……」


 狩谷が寄ってきて、別の鎖鎌を引っ張り出す。


「勢いに任せて作ったせいか、七本もある上、分銅の大きさもバラバラでね。本当は処分したいんだけど……コモンウェポンとはいえ、魂殻武器の処分は何かと面倒なんだ。だから、ここでほこりを被ってるってわけさ」


 ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ


 鎖を器用に操り、狩谷が分銅で小さな円を描く。


「まあ、優れた武器ではないね。ロマンはあるけど……」


 鎖鎌。


 確かに一般的にも武器としての評価はさほど高くはない。


「えっと……七崎君?」


 先ほどから悠真は、鎖鎌の分銅のサイズや鎖の長さを確かめていた。


「狩谷先生」

「う、うん」


 次のひと言で狩谷は、先ほどの職員室の時と同じくらいの驚きを見せた。


「明日の特例戦、俺はこれを使わせてもらいます」


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