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アクルナナックル

 報復だ。俺とあの人間、どちらが馬鹿者だったのか、その身を持って知らしめる必要がある。


 俺達が盗人に追いつくと、盗人は背後に貼られた結界を慌ててガンガンと叩く。だが、当然そんな事で壊れるような柔な結界ではない。


「ちっ、なんなんだよこれは! この壁を作ってんのはてめーらか⁉ 」


 そんな形相で睨もうが俺にYESと答える義理は無い。


「アクルナ」


 名を呼ばれたアクルナが俺の腕の中から飛び出し、盗人へ向かって路地を歩いて行く。


 アクルナは怒っている。聖女の事しか頭に無い聖天具は、聖女の為に動き、聖女の為に死ぬ。ゆえに、今は精神が入れ替わっているとは言え聖女の物を盗み、体を突き飛ばした盗人に無機質な怒りを向けている。そこに慈悲は無いのだ。


「な、なんだよこの人形。こっちくんじゃね! たたっ斬るぞ!」


 アクルナの異常性に怯えをなした盗人が腰の剣を抜剣する。それを見たアクルナはピクリと敏感に反応した。


「ねぇ、その剣でボクを斬った後はどうするの? それでまたキラを傷つけるつもりなの?」


 剣を見たアクルナが立ち止まるりながら問うと、盗人がそれを恐れと見なし、態度に少し余裕が現れた。


「はぁ? 傷つける? 寝ぼけてんじゃねーぞクソ人形が、もうてめーらは全員殺すんだよ!」


「そうかい。最初から許す気はなかったけど、キラをまだ傷つけるつもりならもうダメだよ。キラに良くなさすぎる。早くキラを守るらないと」


 そう言いながらアクルナが一直線にダッと駆け出した。それを見た盗人はニヤリと笑い、アクルナの動きに合わせて剣をふるう。


「ゴチャゴチャ抜かしてんじゃねぇぞ!」


 ガキンッ!


安っぽい展開だ。

アクルナは結界で一刀目を安々防ぐと、盗人の足元まで滑り込み、盗人の右足に力任せな拳を一発叩き込んだ。


 凶暴な狼を殴り飛ばす力に、人間の片足が保つ訳がない。ボキッ!とここまで聞こえそうなほど容易に盗人の足が折れ曲がった。


「ぎゃああああ!いってええええ!」


 涙を流し、悲痛の声をあげながら盗人が崩れ落ちると、アクルナが剣を持つ手を殴り抜け、その後はマウントを取って顔面を集中的に殴り続けた。


 1発……2発……3発。ふむ……もうそろそろか ─── 。


ヒール(ファイヤーボール)


 頃合いを見て、俺が攻撃魔法の呪文を唱える。すると、知っての通り、緑色の光が盗人に降り注ぎ、アクルナに殴られた打撲を癒していった。だが、まだ完全完治ではない。所々にはまだ傷が目立つ。


次はもう少し魔力を高めて見る事にしよう。


 盗人の傷がどんどん回復するのを見て、アクルナがこちらを振り返った。


「なんでキラがこの人間を癒すの?」


 「素朴な疑問なんだけどさ」そんな風にアクルナはキョトンとした顔で首を傾げた。


「魔法の実験だ。この体が回復魔法しか使えない以上必要であろう? 良い生身の実験台が有るのだ。試せる時に試したいではないか」


「あー、確かにそうだね。今なら練習の良い機会だし」


アクルナがポンと手を打つと、納得した表情でうんうん、と頷いた。


「おい、ガキ! お前教会の奴だろ! 回復よりもこの人形から俺を助けろよ! なにボケボケ見てんだ!」


 不躾に怒鳴った盗人に俺より早くアクルナがキッと睨みつけると、拳を大きく振り上げる。


「うるさい。キラに話しかけるな。キラが可哀想だろ」


「グフッ! ……このクソ人形がっ、離れやがれっ!くそっ!」


「ヒール」で回復した盗人が、必死にアクルナを引き剥がそうとするが、アクルナはビクともしない。クロワも持てなかった聖天具本来の重さで盗人を押さえつけ、盗人は殴られるたびに力が弱っていく。そうして俺は又、体の中の魔力を操る。


ヒール(エクスプロージョン)


「わかった、俺が悪かった! 謝るから、この通り! 頼む許してくれぇ!」


「もう遅いよ」


 アクルナが拳を盗人の顔面に打ち付ける。それを見た俺の中で、チロリ、と少しだけ心境の変化が訪れる。嗜虐的な意味でだ……。


「クックックッ、そうだな。もう遅いもう手遅れだな。クックックッ ─── 」


 なぜなら、少しだけだが俺は、これが楽しくなってきたからだ。


 クックックッ、また苦痛で顔が歪んだな。それとも絶望して歪んだのか。ククッ、それはこれからジックリと確かめれば良い事だ。さぁ、次は完全回復させてからどのタイミングで癒してやろう。それとも盗人が持っていた剣を使うのも良いかもしれない。今までに無い痛みは新たな極地を見出せるからな。クククッ。


「あー……キミが楽しそうにしてるのは良いんだけどさ、キラの体であんまり嗜虐的な事を楽しまないでよ。キラは絶対にそんなことしないから」


「ならばお前が早くトドメを刺してやれ。そうしたらこの茶番も早く終わるだろ? ククッ」


 俺がそう言うとアクルナはヒクッと頬を引きつらせて「それじゃあ、ますますキミを楽しませるだけじゃないか!」と言いながらも、盗人を殴る事をやめることはなかった。


 †


 チューチュー。


「ねぇ、キラ。血って美味しい?」


 力尽きた盗人の血を吸う俺にアクルナが怪訝な目を向けてきた。


「この人間の血は水と変わらんな。魔力が全く感じられん」


「へー、魔力で血って変わるの?」


「大違いだな。魔力が高ければ高いほど美味だ。最高位天使レベルの血はまさに最高レベルの味であった」


 俺が過去に吸った血の話をしている間に、盗人の吸血が終わった。吸殻は今まで同様に燃やしてしまいたいが、今の俺にはそれすらする力も無い。


「ウルドよ、この人間の吸殻を燃やせ。燃やし方は「燃えろ」と吸殻に念じるだけで良い」


「……ん、少し……待って」


 返事をしたウルドは路地の端の方で、しゃがんで小さくなっていた。


「そんな所でしゃがんで何をしているんだお前は? 」


「……怖い、から……その……心の、準備」


「怖い?」


 俺にはウルドの言う事が理解できなかった。


「そういえば、この子は痛い話や、グロい話が昔から苦手でね。ボク達が少しやり過ぎて過激だっかも」


 なるほど。アクルナの言う通り、ウルドは麦わら帽子で完全に視界を遮り、耳を手で抑えて小刻みに震えていた。


 確かに、ぬいぐるみが人間を撲殺し、回復魔法の影響でいつまでも絶叫が続き、顔が二倍以上に膨れ上がった人間が、最後にはペラペラの死体になるさまは、多少過激だっかもしれないな。


 だがそれがどうしたと言うのか。


 俺は盗人の吸殻をズンズン、とウルドへと近づける。


「お前はいつまでみっともない格好をしている。早く顔を上げてこれを燃やせ! 人間社会でも同族殺しは罪に問われるのであろう?」


「……ひっ、近い! ちょっと! まだ無理!」


  ─── 命令の拒否……

 これが1番頭に来る。


「なに?……貴様、俺の命令に逆らう気か?」


 俺はウルドを睨みつける。


「ぴっ!……うっ、違くて……」


 少女に上から物を言われて怯えるとは本当に肝の小さい奴だ。


「違うなら早くしろ。燃やし方は先程の通りだ。魔力を特別コントロールする必要もないぞ」


「……ん、うん」


 ウルドがチロリと吸殻を一瞥すると顔から炎が着火し、火は静かに体中に広がっていった。


「……グロッ」


「うわー、人間って結構あっさりと燃えるもんだね」


「ふん、俺の魔力で燃えてるだけだ。普通ならこれほど綺麗には燃えん。それよりも、こんな陰湿な場所からとっと出るぞ」


 盗られたネックレスも回収したのだ。もうここに用は無い。


「……うん」


「ねぇ、あれはどうするの?」


 俺の腕の中にいるアクルナがみずぼらしい革袋を指差した。


「これは確か人間が小脇に抱えていた革袋だったか?」


「……大事そうに、持ってた」


「中には何が入っているんだ?」


 外からは革袋の中に何かがパンパンに入っているのがわかる。みずぼらしいが「まさかまた宝石の類か?」と思うと次第に胸が高鳴った。


 そして、革袋を開けたウルドが「……うわっ」と驚いた声をあげた。見ると、革袋の中身は全て金のコインのようだ。


「……全部お金、かな?……それも、沢山」


「金か」


「」


 中に入っていたのは金のメダルがザッと100枚。これが凄いのかどうか魔族の俺には少し価値が分からん。ウルドも金自体初めて見た様で価値が良く分からんらしい。


「……どうするの?」


「ふむ、これを持ち帰れば人間社会で言う。窃盗の扱いになるのか? 厄介ごとはまだごめんだぞ」


「……」


「む、どうしたアクルナ」


 アクルナが無言で俺の腕から飛び降りると革袋をさくっと自分の口の中に入れた。


 革袋を口に入れるのはまぁ、良いのだが始終無言なのが気になった。俺がアクルナを回収してから訳を聞くが。


「とりあえずこっち。

 こっちが大通りだから」


 俺とウルドは顔を見合わせて首を傾げる。ただ、アクルナから感じるのはただならぬ雰囲気。それは有無も言わせず俺たちの歩を先導通り進めさせた。


 俺の腕の中でアクルナがピコピコとウサ耳を動かしていたのは大通りの音を聞き取るためなのかもしれない。


それにしても前よりも振り幅が激しい気がするが、気のせいか?



 それからしばらくして、俺たちが足を止めたのはアクルナが泊まりたいと懇願した宿屋だった。


「……ここ?」


「ここは人間の金銭的にも高いのだろう。メダルが100枚しか無いのなら出費を抑えて寝床など無くても良いのではないか?」


 俺がそう言うと、アクルナはふるふると顔を振って「大丈夫」と言い切った。


「とう、ホワイト・ナイト亭へようこそいらっしゃいました」


 宿屋の中は俺から見ても豪華の部類に入り、店内の品位の高さは格式の高さを思わせた。


「……うわ〜、キラキラ〜」


 ウルドが感嘆の声を上げる。俺も内心で感心しながら飾られた美術品を見ていた。


「キラ。早く受け付けまで行くよ」


「まぁ、待て。俺はこれを見てから行く。おい、ウルド、アクルナを頼んだ」


 アクルナをウルドに渡す。

 相当の重量のはずだが、俺の身体なら問題無く持てるのだ。


そういば、アクルナが一人で歩くとかなり目立つ。ゆえに俺が腹話術師で……とかそんな設定があった気がするが、まぁ、今はどうでもいいだろう。俺はこれを見るのに忙しいからな。


 アクルナが手早くチェックインを済ませたようだ。


 ちっ、もう少し見ていたかったが仕方ない。


 案内された部屋は思っていた通り高級感が有る部屋だった。元無一文から拾った金で泊まれるとは、相当に運が良いと言うべきだろう。


 部屋に入り扉を閉めると、今まで静かだったアクルナがムズムズと俺の腕で動きだし、ウサ耳も激しく揺れ動きだした。


「なんだアクルナ? なにかあったのか?」


「い……」


「い?」


「ぃやったああぁぁ‼」


「「!?」」


 突然アクルナが吠えた。


「キラ! 金貨! 金貨がこんなに! スゴイよ! スゴイくない!? 」


「???」


 金貨の1枚1枚に豪奢な飾りが付いてる訳でもあるまいし、俺にはあんなメダルの何がスゴイのかが良く分からなかった。


 俺がイマイチ場に乗り切れていない内に、アクルナが口から取り出した先程の革袋をポーンと投げて、ウサ耳でキャッチ! と器用な事をしだした。


 どうやら、その革袋の中身はまだ健在。と言うか全く減っていなかった。


 キャイキャイと喜ぶアクルナに俺とウルドは???顔だ。


「……どうしたの、アクルナ?」


「キラ! 金貨が100枚だよ100枚!」


「……私は、キラじゃない。ウルド」


 ウルドが「No」と頭を左右に降り終わっても依然???顔のままだ。


「あぁ、そうだけど。

 今はそうじゃなくて……

 あっ。……まさか2人共金貨の価値がわからないとか?」


 アクルナがまさか、と言う顔で恐る恐る聞いてきた。そして答えはもちろん。


「わからん」


「……知らない」


 俺もウルドも同意見だ。それを見たアクルナが大仰にため息をついた。


「なるどね。

 じゃあ、簡単に相場を説明すると、この宿屋が1泊で金貨1枚」


「ふむ、思っていたよりも安いな」


 俺の城ほどではないが。それなりの宿のはずだが。


「宝石なら金貨100枚で10個は買えるよ」


「なにぃ!?」


 ま、まさか金のメダルにそれ程の価値があるとは……


「因みに、教会にいた頃なら毎日お肉とスープにサラダそれが三食で20年は余裕で暮らせるね」


「……ふぇ!!!」


 ウルドを目玉を見開いてかなり驚いている。とは言え俺も同じ心境だ。


 それから、アクルナに金貨、銀貨、銅貨の貨幣価値を説明してもった。


 せれでようやくわかったが、金貨100枚はかなりの大金だ。


 アクルナの説明が終えると、ウルドがウズウズとしながら金貨1枚を持って街に繰り出し、フードエリアで暴食を始めた。


 とは言え、俺も近くの宝石商まで喜び勇んで駆け出したがアクルナに「それはダメだよ」と金貨を1枚以上をもらえることはなかった。


 解せん。

いっしゅうかんとうこうできません

ごりょーしょーください7/3

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