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真っ赤な双眼

 現在、【魔王】の身体の名は "ウルド・パートリー" だ。聖女に精神を取られている仮の【魔王】だがな。


 逆に今の俺の精神は聖女 "キラ" と呼ばれる小娘の身体に閉じ込められている。勿論嫌々ながらな。


 そんな俺の身体に居座る聖女の精神はと言うと、俺の身体がかなり気に入ったようだ。色々とできるようになったと好き勝手に話していた。だが、それでも聖女の気弱な精神が治るわけでは無い

 狼を見ただけで気絶したり、「フライ」で高所恐怖症となり、その後に又気絶したり。


「初めて見た物が敵意剥き出しの狼や、上空何百mなら誰でも驚くだろ!」とアクルナが言っていたが、それでも俺の身体でみっともないことを色々としているのだ。これは早急に気弱な精神を叩き直す必要があるようだ。


 聖女がこんな気弱で脆弱でも今まで生きてこられたのは、アクルナの存在が大きい。


 晴天具アクルナ。

 神によって創られた武具。

 いわゆる神器だ。


 だがまぁ、これは神話の類であって本当のところは定かではない。

「いつも祈ってあげてた神より【魔王】様の方が、よっぽど救いの神様」と豪語する2人(1人と1匹)を見れば、聖天具の神話は偽りの可能性の方が高い。


 聖女の剣と盾であり、身の回りの世話もするアクルナ。

 そんな聖天具の性能は今の所3つ。


 一つは見た目通り、武具のくせに動き回り、確固たる意思を持っている。俺から定期的に魔力が供給される限り、アクルナの体力は無尽蔵だ。


 二つ目、聖女(今の俺)や、アクルナ自身の手で、いつでも【対魔の結界】を発動できる。


 対魔。それは魔族に対して有利に働く厄介極まりない力のことだ。

 聖女の結界が俺の「エクスプロージョン」に耐えたのも対魔の影響が大きい。


 勿論、普通の結界としても万全に機能する。

 この街にくる前、夜盗が襲って来た際は問題なく防げたようにな。

 形も自由自在だ。

 狼に襲われた時は壁、夜盗に襲われた時は半球、恐らく空気中や水中では完全な球にもできるはずだ。


 三つ目、これは言ってなかったか?

 アクルナの口の中には際限無く何でも入る(食う)。と、思われる。


 若干曖昧なのは、アクルナの性能を発揮できるのが聖女の身体しかないからな。聖女とアクルナが持てない物は必然的に入れられ(食え)ないのだ。


 そして、アクルナの口に入れた物はなんでも取り(吐き)出せる。


 かなり珍しい効果だが、アイテムとして俺も見たことはある。それを結界と両立してこその聖天具と言った所か。


 実は、聖女とアクルナはこの力を使って、色々とこっちの世界に持って来ていた。

 アクルナは聖女の服や日用品が大量と自身が使う日用品が少々。

 聖女は教会関連の物、後は何に使うか分からんガラクタも入っていた。

 本人曰く「……思い出」だそうだ。


 まぁ、なんでも(食って)入れられて、それをいつでも(吐き)出せるのだ。

 無駄な物をいれるなと言わんが、俺の身体でガラクタ拾いはやめて欲しい。


 これが、今引き出せるアクルナの全性能だ。しかしアクルナも俺に言っていたが、「まだボクは未熟」らしい。

 故にこれから先、アクルナの性能になんらかの変化が有るかもしれんな。


 これから俺は、アクルナの身体能力と俺の回復魔法の回復力、吸血鬼としての能力を試そうと考えている。狼や夜盗達など、前にも試すチャンスはあったのだがな、俺はあの時を十分に生かしきれなかった。


 だが今は良い遊び道具を見つけたからな。

 俺が満足するまで存分に試してやるか。

 クックックッ。


 †


「へへっ、ラッキーだぜ」


 男の手の中にあるのは一つのネックレス。

 これはただのネックレスでは無い。

 業界の連中なら喉から手が出るほどに欲するアイテム。魔法石と呼ばれる石が嵌め込まれた希少なネックレスだ。


 そしてこれは余談だが。最近、この男は本当にラッキーだった。


 男の幸運の始まりは1週間前。

 男が所属する裏ギルドに、あるクエストが舞い込んだ。

 クエスト内容は、この街に向かって夜道を馬車でやって来る貴族の暗殺。護衛も数名いる為に失敗のない様、人数は考えて事に当たる様に、との事だ。


 報酬は100万ゴールド。


 男は直ぐにこのクエストに飛び付いた。

 このクエストは希望者全員参加型のクエストで、報酬は山分けする事になっていた。


 そうして作戦当日に集められたメンバーは20人。


 男は少し多いい気もしたが、失敗が許されないのであれば妥当だとも考えた。


 深夜、情報通り貴族の馬車を見つけ、作戦を決行。護衛は4人いたが、こちらのに人数は5倍。事前に打ち合わせた通りに逃げ場の無いように囲んでから一気に攻めた。


 結果、作戦は成功。


 殺害対象の貴族をリーダー格の男が殺した。

 だが、こちらにも少なくない被害がでた。

 護衛の傭兵の必死の抵抗により、4名が死亡してしまったのだ。


 暗殺クエストの成功に、周りは声を殺して喜んでいたが、男はあまり喜べる気分ではなかった。

 死亡した4名の内1人が友であったからだ。

 周りとの温度差を感じながらも男は1人、肩を沈めていた。


 それからもう1つ男には気に入らないことがあった。


 クエスト中に受注者が手にいれた物は、基本的に手に入れた者が貰い受ける。


 リーダー格の男が最後にとどめを刺した貴族。その貴族が持っていたのは、魔法石の嵌め込まれたネックレス。

 当然それはドロップアイテムと同等の物であり、リーダー格の男がそのネックレスを貰う流れになったが、男はそれが気に入らなかった。


 それから男が1人で夜道を帰る形になったのは、偵察係が偶然通りかかったシスターを発見し、皆がそれに目をつけたからだ。


 遠目で見ても上玉である事は間違いなかった。まだ幼さは残るが、成長期の点を加味すれば良く育っている娘だ。


 勝利の余韻に浸って浮き足立ったメンバーが、シスターを襲う方向に話が転がったのは必然だった。だが、むしゃくしゃしていた男だけがこの話を断った。


 だからその後なにがあったか男は知らない。


 夜明け前に1人で街に帰った男は1眠りした後、約束の時間に裏ギルドへクエストの報酬をもらいに行った。


 それから受付カウンターでドン、と渡された報酬の額は100万ゴールド。


 クエスト報酬が丸々男の物になったのだ。


 裏ギルドに聞いても事の総裁は不明と返された。男は突然いなくなったメンバーに疑問を浮かべながらも、目の前の100万ゴールドに目を輝かせていた。


 そして、そんな帰り道。

 男はネックレスを手に持った。幼いシスターを見つけた。


 それから男の判断は一瞬だった。


「このバカが! 危ねぇだろうが!」


 男にスリの技術はない。

 だから、わざとぶつかり、強引にネックレスを奪った。シスターの握力は驚くほど弱く、男は簡単にネックレスの強奪に成功した。


「へへっ、馬鹿なガキだぜ」


 余談終了。


 男は今ネックレスをどこに売りつけようか考えながら、人目の無い裏路地をクネクネと走っているところだ。


 目的地は裏商売ギルド。俗に言う闇市と呼ばれる店で非合法にネックレスを売るのだ。


 先の100万と合わせて、今日はいくら儲けられるのか。ニマニマと笑いながら走って、曲がり角を曲がった。


 そこで男の破顔した顔は一変し、怪訝な表情でその先にいるシスターに目を奪われた。


 見覚えがあった。と言うか、さっき置き去りにしたはずのシスターだった。そのシスターは血よりも真っ赤な瞳で男を見据えていた。


 こいつヤバイッ


 そう思った男は踵を返し走り去ろうとして


 ゴツンッ


 見えない壁にぶつかった。まるで、男を逃がさないための鳥かごのような、決して壊れることの無い、巨悪な壁に……



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