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クロワ・クリームが暮らす街

俺の目の前にそびえ立つ大きな都市の門には、まだ朝だというのに多くの人間が都市を出入りしている。


これまでの長い生の中で初めて見るこの都市は、エルフやらドワーフやらの都市と同等か、それ以上の繁栄が有るようだ。


素晴らしいと思う。


王として領主やらに賛辞を贈ってもいい。が


「よし、滅ぼすか」


それは世界に王手を掛けたこの俺に、唯一刃向かった愚かな種族の都市では無かったらの話だ。


「いくのだ【魔王】よ、この都市に巣食う人間共を殲滅せよ!」


「……へ?」


俺のすぐ後ろから【魔王】にはふさわしくないなんともマヌケな声が聞こえた。


「へ? ではない。この都市に住まう人間を全てほふるのだ。……あぁ、そう言えばお前は攻撃魔法の呪文を一切知らんのだったな。いいかよく聞け。この都市を滅ぼすのに相応しい魔法の名は、ブラッ…」


「ちょっと待って‼ キラは街に着いていきなり何言ってんの⁉」


俺の膝下付近でアクルナがわたわたと騒ぎだした。


「む、俺は滅ぼすと言ったはずだが」


「はずだが、っていきなり滅ぼすの? 見た事もない都市に人間がいるだけで?」


何を寝ぼけたことを言っているんだこのうさぎは。


「当たり前だ。奴らとは戦争真っ只中なのだぞ? 目の前にいる敵を今叩かずしていつ叩く?」


「そうだけど……この街って本当に人間だけが住む街なの? ボクこんな街があるなんて聞いたことないよ」


俺は腕を組んでむむっと唸った。


「それは本当か? 人間以外の他種族が共存しているとなると魔族との同盟違反だ。そんな愚か者がいるとは信じられんが、人間の力だけでこの都市を作った、と言われる方が信じられんのも事実だ」


やはりおかしいな。絶滅危惧種の人間が魔族に気付かれず、新たな都市を作り上げるなど不可能だ。

しかし、ならこの都市はなんだ? まるで俺が城に不在中に突然建ったみたいではないか。しかも人間が生活までしているとは……


入れ替わってから度々続く不可解な場面に遭遇するとフッ、と思い出すのがレルガマの一言。


『陛下にはこの世界から消えてもらいます』


そしてそれから俺が考えることはいつも同じだ。「この世界から消える。まさか転移魔法で……? 」と。


これが深読みのし過ぎかどうかは、この都市を滅ぼす前に確かめなくてはならない。現状の魔族について、転移について、精神の入れ替わりについて……


「気が変わった。今からこの都市に潜入する。人間のかっては分からん。お前らが準備しろ」


「……わかった」


直ぐに聞こえた返事の後で、アクルナがホッと息を吐くのが見えた。


「昨日から引き続きのスプラッタじゃキラの精神が心配だからね。キミがいきなり滅ぼすと言った時はビックリしたよ」


「なんだ、精神の休息が必要か? ならば美しい物を見ると良い。あれは心が安らぐからな」


「普通に休めるだけで十分だよ。出来ればキラが横になるのに相応しい寝具とかで」


「……私、早くお肉く食べたい」


そう言った『魔王』がすんすんと匂いを嗅いでいる。なんの匂いを嗅いでいるかと思えば、都市から漂う食糧の匂いらしい。どうやら鼻は俺以上に使いこなしているようだ。


仕度を終えた俺とアクルナが色々と打ち合わせをした後、都市の門へ向かったのはそれから直ぐのことだ。


 †


 クロワの名前はクロワ・クリーム。


 今日は実家で経営しているパン屋のお手伝いの日。ラインナップは森の手前へ木の実を拾いに行くだけの簡単なお仕事よ。


 クロワのパン屋は、街の隅っこに構えたこじんまりとしたお店。森に1番近い門からはかなり離れた立地にあるの。


 森から門まで、門から家まで。

 行きはまだいいとして、帰りはアウト。木の実を籠に入れているから行きより億劫になるの。


 けど駄々をこねてサボってもいられない。だってサボタージュの罪は重いもの。お昼ご飯抜きという罰の元で断罪されるわ。


 あぁ誰か代わりにやってくれる人はいないかしら?


 なーんて、今の時間にそんな暇人はクロワくらいなものか。


 はぁ〜……


「おはようクロワちゃん」


「おはようございます。衛兵さん」


 門まで着いてしまった。

 今日もまた木の実拾いが始まってしまう。


「今日も木の実拾い? 最近森で狼が出たらしいから気を付けてね」


 やめて〜、そう言うマイナス要素を言われると本当に行く気がなくなっちゃうから。


「狼ですか? クロワ、狼怖いですぅ〜」


 チラッチラッ


「大丈夫! 森にさえ入らなければ襲われる心配は無いから、安心して木の実とってきたらいいさ!」


 違うよ衛兵さん。

 女の子が一人で森へ行くんだよ? 男性として空気を読んで欲しいな。ついでに荷物持ちもしてほしいな。


「どうしたの? クロワちゃん」


「……あぁ、すいません、ぼっーとしてました。衛兵さん。情報の提供ありがとうございます」


 ふっ、と一瞬だけクロワの顔に不満の影が刺したのかもしれない。けど今は一応仕事中だ。お礼は大事。クロワは衛兵さんにペコリと頭を下げた。


「君! 待ちなさい!」


 ん、どうしたんだろう?

 クロワが声のする方向を向くと、なにやら門の外側の方が騒がしいな……。


 ドン!


「いたっ」

「……っ!」


 クロワはなにかにぶつかった拍子に2、3歩たたらを踏んだ。なんとか倒れずに立ちとどまれたのは、ぶつかって来た子が軽かったからだ。


 けれどクロワにぶつかって来た本人の方は盛大に尻餅を着いた。その挙句にクロワをキッ、とスゴイ形相で睨んでる。


 あなたからぶつかってきたんでしょ! 被害者はこっちよ!


 なんて言えるわけないない。


「わっ!」


 けどその変わりに出て来たのはクロワの素っ頓狂な声。


 だってブツかってきた女の子が物凄く現実離れしてたから。


 とっても白い女の子だ。髪も白いし、素肌も白い。身体のあちこちが雪のように真っ白だ。


 けど瞳だけは異様に赤い。

 血のように真っ赤な色なのだ。けどドロッとした嫌な色じゃなくて、寧ろ鮮やかなルビーにも見える。


 身に付けている服は教会の「修道服」。女の子が抱っこしてるのはウサギのぬいぐるみかな? 両手で抱きかかえられてるうさぎはなんとも微笑ましく思えた。


「……この身体では長く走るのも不可能か。まさか門を通るだけで、通行料なるものが必要とはな」


なにかぶつぶつ言ってるけどクロワの恨み言じゃないよね? 大丈夫だよね?


「えっと、大丈夫?」


 クロワは尻餅をついた女の子に手を差し伸べる。それを女の子はジッ、と見るだけで中々掴もうとはしてくれない。


「……もしやこの女、俺を見下しているのか?」


おっと、クロワにとって不穏な発言が聞こえた気がする。実は超の付くお偉いさんだったとか? それってかなりヤバイよね。クロワは思わずゴクリ、と喉ならした。


「違うよ転んだキミを助けようとしてるんだ。良い子じゃないか。とりあえず手を取って」


「そういうことか。悪いな娘よ」


 ……この子、態度がすごい偉そうだな。クロワは始終圧倒されっぱなしで言葉もないよ。けどウサギの腹話術? は可愛いかも。


 女の子はクロワの手を掴んで立ち上がった。

 身長はクロワと同じか、少し年下くらいかな? クロワよりは低そうだ。


 ジロジロと突然現れた女の子を観察していると、女の子の肩越しからこちらにむかって走って来る人影が見えた。


「君! いきなり走り出したらダメだろ。まずは身分証明書を見せてくれないと」


 女の子を追い掛けて来たのは門の外側の門兵さんだ。


「この俺に身分を示すか、金を払うかしろだと? 社会というものは面倒くさいものだ」


「キラどうする?」


「金を調達する必要があるな。

 人間ならこの場合どうするのだ?」


 どうやらこの子お金がない見たいだ。腹話人形に話しかけてるから自問自答になるのかな? を繰り返している。


「ネックレスを売ってみたら? 」


「あれか。あれを売るのは少々惜しいな」


 すごくわかるよ。自分身につける物って少し売りにくいよね。


「じゃあ、どこかで働く?」


「この俺が誰かの下について働く? ハッ、愚かな」


 人生舐めすぎ。これはお嬢様で確定かな? だけどさっき「俺」って言ってた気が……


「なら奪うしかないね」


「それが妥当か」


 妥当じゃないよ! ん〜、この子危なかっしいなぁ。


 けど、このまま放置するのも気が引けるな……


 仕方ない。ここはクロワが一肌脱ぎましょう。


「門兵さん門兵さん。この子クロワの友達なんですけど、ここを通すことってできますか?」


「え? クロワちゃんの友達なの?」


 ふんふん、以外に好感触。


「はい。遠くの村からわざわざ会いに来てくれて、世間知らずですが悪い子じゃないんですよ」


「そうだったのか。

 じゃあ、あのお兄さんもクロワちゃんの知り合い?」


 え? お兄さん?

 そう言った門兵さんの後ろにいたのは長身の男の人だ。身体は筋肉質でもヒョロくもない。普通の男性に見えるけど……


 あの目深に被っているのは麦わら帽子? なぜに、麦わら帽子?

 せっかくのシックな感じのお洋服には完全にミスマッチだ。それから、髪は黒いようだけど女の子同様素肌は白い。少しオドオドとした印象だけど。見た感じ危ない人ではなさそうだ。


「彼は彼女の兄ですよ。見てください目元の部分やお肌の白さなんてそっくりでしょ?」


「目元は見えなけど確かにな」


「街に入ったら何か身分を証明させる物を必ず発行させますので、どうか通して上げてください!」


「まぁ〜、クロワちゃんが言うなら〜。ん〜ま、いっか」


「ありがとうございます! 門兵さん」


 ふふ〜ん、クロワの日頃の行いが成せる技ですね。

 チョロいぜ。


 通行の許可を出してくれた門兵さんが自分の持ち場に戻って行った。

 クロワは手を降ってそれを見送っていると、警戒しながらジーっとクロワを見つめる視線に気がついた。

 それが誰かは分かってるよ。衛兵さんの視線だ。

 彼は門兵さんと違って全て見ていたからクロワの嘘に確実に気づいている。さて、どうごまかしたものか。とクロワが考えあぐねていると。


 衛兵さんが無言でクロワの前に握った右手を突き出して、グッと親指を立てて来た。

 ……ハッ、としてその意味を理解したクロワも、立てた親指を突き返します。


 グッ

 グッ


 どうやら衛兵さんは空気の読める方でした!


「子娘よ、なにを盛り上がってるのかは知らんが、俺は貴様と友では無いぞ」


「「……え?」」


 突き出した親指同志が逆さまにされた気分でした。


 これだから世間知らずは、少しは空気を読め‼

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