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体が縮んでいた(一部誤りあり)

 目を開けると、辺りには木漏れ日が降り注ぎ、木々が青々と生い茂った森だった。


 最後にある記憶はレルガマの配下であるエルフに魔法をかけられた所まで。


 「消える」などと言われたからには死ぬのかと思ったが、どうやら九死に一生を得たらしい。


 しょせん、あんな魔法しか取り柄のないザコ種族が束になっても俺に傷一つつけることは叶わなかったということか。


 ふむ、どうやら俺は転移魔法で飛ばされたようだ。

 まずは地理の把握といこう。

 ここがどこなのかが分からんからな。


 俺はこれからの事について思案しながら、いつものように立ち上がろうとするが……


 ドスン


 尻から転けた。

 今のを配下に見られでもしたら王としての沽券に関わるみっともなさだ。いててて。


 ……………ん? 痛み?


 どんな鎧よりも硬いはずの俺の身体に痛みが走る……。


 どういうことだ?


 恐らく地面に何かタネがあるはずだ。俺は痛みの発生源を探るために尻餅をついた地面を調べようとして ─── 俺の手がおかしなことに気がついた。


 細い。

 枝のように俺の腕が細い。


 小さい。

 葉のように俺の手が小さい。


 足、腰、胴体、頭、髪、顔、身長。

 身体中をくまなく調べる。


 結果、全体的にスケールが小さい。


 髪が腰まで伸びる白銀の長髪。


 胸が服の上から掴めるほどには盛り上がり、股間のあれは服の中からでも掴めない。


 ……………。


  ───クックックッ、そういうことか。


 王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない王ならば動揺しない。王ならば……


 ───今日、俺は王から姫になっていた。


「どう言うことなんだこれはぁーー!!!」


 †


 立つ事にすらままなら無い現状にかなり焦る。


 吸血鬼の時は静かだった精神が落ち着かない。


 吸血鬼の時は動くことのなかった鼓動が絶え間無く、うるさい位に動き続ける。


 吸血鬼の時は出なかった汗が滝のように吹き出る。


 身体だけで無く精神までもが恐らく少女に近くなっている。


 だから今は落ち着くべきだ。そうだ落ち着け……。落ち着け……。そう、落ち着べきよ……。


「……って、これが落ち着いていられるか!」


 なんだ「よ」ってなんなんだ!?


「 口調まで自然に少女のようになってるいではないかぁ!!」


 ハァ、ハァ……ふぅー、落ち着け。落ち着け……。

 くそぉ……落ち着け。落ち着けー……。


 ポロポロポロ。


 はァ……⁉ ぐすっ。今度はなんだ!? ぐすっ。

 ぐすっぐすっ 。

 今は泣いてる場合じゃないと言うのにぐすっ。


 ばかな、俺がこの状況に怯えているといのか……。

 いいや違う。

 そうではない。森に一人で放り出された状況。一般の少女なら怯える状況にあるということか。

 ぐすっ。クソ、涙が止まらん。

 ポロポロ


 ぐすっ、こんなみっとも無い状態では「テレパシー」もできん。


 こんな緊急時にもかかわらず、俺はいつまでも涙をポロポロと垂れ流すことしかできなかった。まさか人間の精神がここまで弱いとは……。


  ───よ、よし。

 涙は止まった。

 精神も落ち着いてきた。


 さて、まずは周りを見渡して見るか。


 フラフラとした足取りで辺りを歩き回ると、座っていた時は草で見えなかった物を見つけた。


 それにはすごく親近感がある。


 というのも


「これは、まさか……俺、なのか?」


 草に包まれて瞼を閉じているのは正真正銘俺の身体だったからだ。


 ……死んでいるのか?


 吸血鬼だから脈は無い。体温も低い。

 おまけに自分がいつもどんな風に寝てるかなんてわからない。


 俺の身体を何度も揺さぶる。起きない。


「おい、俺。生きているのか?おい」


 声を掛けながら揺さぶっても起きない。


 当然だが死んでいるだろう。

 俺がこうしてここにいるのだから。

 普通なら慌てるべきなのだが、心はまるで他人事だ。

 少女の体は俺の体を見ても何も思わないようだ。

 俺の精神と少女の脳がまだ上手くガッチしていないからか? 仕方無いと言えば仕方がない。

 まぁ、身体が見つかったのだ。早急に精神を戻せば問題ないだろう。


 それにしても、レルガマの言っていた「消える」とはこう言うことだったのか?


 仮に違うとして、迂闊に「テレパシー」を使えばどこかで俺の生存が漏れて厄介なことになるのは目に見えている。


 ……よし、ここは俺の忠実なる配下のチャッキーにでもかけてみるか。


「テレパシー」


 目を閉じてチャッキーの脳内に繋がるまで待つが……繋がらない。


 テレパシーを拒否された?

 いやいやそんなはずが無い。

 なにか事情が有るはずだ。


 だが、他の部下に繋げるのはいくらか気が引けるな……。


 ええい! とりあえず現在地だ! 上空から見れば何か分かるだろう。


「フライ」


 空を飛ぶ呪文を唱える。

 それから変わった事と言えば、上空を睨みつけた姿勢で背伸びをする俺だけだ。


 ……飛ばない? なぜだ?


 まさか……魔法が……。


 ガサガサガサッ


「うっ!」


 ビ、ビ、ビビッテナイ。ビ、ビビッテナドイナイ。


 ガサガサガサッ


 …………!!


 音のする方を恐る恐る見ると、草陰から出て来たの一匹の狼だった。


「なんだ狼か……」


 レルガマの奴かとひやひやしたぞ。


 俺は前よりも明らかに膨らんだ胸を撫で押した。途中モミッとした感触があったが、これにもなに一つ感じない。しいて言えば感触は感じた。


 レルガマの奴では無かったと俺は安心したが、まだ安心はできないと少女の身体が警戒している。

 この身の程知らずな狼が俺を狙っているからだ。

 少女()の周りを狼がうろうろ徘徊し始めた。


「狙う相手を間違えているぞ。バカな獣め。ファイアーボール」


 獣なら簡単な初級魔法で十分。

 少女()は狼に向かって手の平を向けて呪文を唱えるが……何も起こらない。先程のデジャヴだ。

 いつもなら俺の手から山火事レベルの初級魔法が飛び出るはずなんだが……?


「……どういうことだ? ファイアーボール! ファイアーボール! エクスプロージョン! ブラックホール!」


 ……マズイぞ……少女()は現状、歩くのがやっとで戦う力が無い脆弱な少女のようだ。

 狼がドンドンと近づいて来る。し、仕方ない。こうなったら……。


「おい! 起きろ俺! おい!」


 他人に身を守れと命令するのは気が引けるが、どうせこいつも同じ俺だ!


「……ん」


「おお?! 起きたか! 俺よ、今すぐあの狼を殺せ! 俺ならばその手でなですれば直ぐにすむ!」


「……ん、ここは……」


 なんとも俺にしては呑気な寝起きだが、目が覚めたのならもう大丈夫だろう。

 しかし、俺の精神がここにあるのに俺の身体が起きるとはどう言うことだ?

 そもそもこれは元に戻るのか?


 まぁ、それはひとまず獣を処理してからか……。


「……ひぃっ! あれが、狼……」


 バタン。


 ……は?


 狼を見た俺の身体は気絶した。


「ウソだろ、おい! 起きろ!」


「ガルルッ、ガウッ! ガウッ!」


「……っ!」


 狼は俺の身体が起きるのを危惧したのだろう。

 とうとう少女()に襲いかかって来た。


 この時、頭の中には弱肉強食の四文字が踊り、俺を嵌めた弱者(レルガマ)には良くぞ強者()を下したと褒めてやりたくなった。

 俗に言う走馬灯だ。


 まさか俺がこれを体験することになるとは思ってもみなかった。

 脳内がスローになり、俺が生に執着するのに反して、少女の身体が生を簡単に諦めたような気がした。


「ガウガウッ!」


 しかし、どうやら真の強者は少女()を見放さなかったようだ。


 ゴンッ


「ギャイイン!?」


 目の前で狼が透明の壁にぶつかり、驚いた鳴き声をあげた。


 後方から新手の気配がして振り返ると、そこにいたのは見知った人物。いや、動物か。


「危ない、危ない。ボクがもう少し遅かったら危うくキラが野良犬の晩ご飯になる所だったよ」


 結界を貼りながら現れたのは、俺がボコボコにした寸胴短足聖天具のウサギだった。


「よかったーキラに怪我は無いみたいだ。

 ふふふっ、少しは見直してくれるかな? ボクはキラのお世話だけじゃなくて、護衛だってこなせるんだって」


「ふんす!」と胸をはるウサギ。


 キラ。つまり俺に話しかけている感じでは無く、独り言のように言っていたが助けられた事に変わりない。


 少女フィルターの掛かった瞳に写るラブリーチャーミーな忌々しいウサギは、ピンチを助けた王子レベルまでに美化されて俺には映った。


 そして、一度死地から生還を果たした少女()がポロポロと泣き出したのは言うまでもない。


 まぁ、弱者から見た強者の恐怖を知れたのだ。今日の所は漏らさなかっただけでも良しと割り切ることにしてやろう。ぐすんっ。

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