胡散臭いの
「結局のところ出稼ぎとはいつ頃終わるのだ?」
「さぁ、昨日はダンジョンに行ってくるって言っただけだからいつ頃終わるのかはサッパリ」
俺は例によってアクルナを抱えながらクロワのパン屋を目指して街中を歩いていた。
「ダンジョンではなく鉱山に行けば良いでないか。人間もモグラではあるまいし、土の中のミミズ程度……と考えてみると本当にモグラみたいだな」
「ダンジョンのミミズ、じゃなくてモンスターは、地上のモンスターより上質な魔石らしいよ。ブランドもあるし」
アクルナや俺の中でモンスター=魔石だ。
付け加えて、この世界で唯一無二の強さを誇る最も気高き【吸血鬼】であるウルドから言わせれば「……大量の、お肉……ぐへへっ」であろう。
「眷属召喚」であの大漁ぐあい、しかも最強種のドラゴンでさえ「ブラックホール」や「エクスプロージョン」の後ではインパクトにかけるのだから仕方が無い。実際弱かったしな。
「ブランドと質の面で価値が高い魔石を取り行ったのか。気弱で口数が少ないくせに食い意地だけは一端だ。としか思っていなかったが意外にアクティブなことをする」
「止めた方が良かった?」
「ふん、まぁそうだな、ダンジョンなるところでモンスター狩りなど王のする事では無い、狩人にでもやらせておけとも思わんでもないが、ウルドが俺に危害を加えそうになった責任をどうしても取りたい、取りたくて取りたくて仕方が無い、と頑固として譲らぬ主張をすると言うのなら、俺としてもそれ位のことはまぁ、許してやるのも吝かではない」
「お、おう、捲し立てるね。要は出稼ぎはokってことだよね」
「俺の言葉を要するな。だが端的に端折って言えばそうなるな」
「ボクにはわかるよ。キミは尽くされるのが久しぶりで嬉しいんだね」
「バカを言うなぬいぐるみが。これから配下の千人や二千人すぐにできるのだ。これ位で浮き足立つ訳がなかろう」
「キミはいったいなにを目指すつもりなんだい……?」
目指すもなにも、既に俺は世界の王であるのだが、転移魔法と精神の入れ替わりついて調べる過程で俺の配下が否応無く増えてしまう。
ただそれだけのことだ。
「いらっしゃーい。あれ今日はキラ1人?」
クリーム家の実家の扉を開けると、扉の上からは控えめなベルの音が鳴り、音色の後からは店番中のクロワが俺とアクルナを出迎えた。
「うむ。出迎えご苦労であったなクロワよ」
「いいよいいよ。これも仕事だからさ、気にしないで」
今日も客の数は少くない。そしていつもの事ながら、クロワがカウンターの中から俺の所に駆け寄って来た。
「クロワ〜? キラはお一人様じゃなくてこのボクといるんだからね。それを忘れないでよ〜?」
当然、身に付けた武具を一名と換算する輩はいないだろう。そもそもがアクルナを武具と認識できる輩が恐らくはいないだろうが。
「ごめんごめん。今日はアクルナちゃんと2人で来たの? だったね。ウルドさんは?」
アクルナがジトリとした目線をクロワに送るが、クロワは慣れた様子でアクルナの頭を撫で回し微笑むだけだ。
「金貨がなくなってしまってな。ウルドなら今出稼ぎに行っている」
「へ、へぇ、キラって街に来た時無一文だったよね。金貨ってそんな簡単に稼げるお金じゃなかったはずなんだけどな……ウルドさんって何者? 」
「ふむ、そうだな。控えめに言っても世界一だ」
(えっと、ウルドさんってキラのお兄さんだよね……。それを「控えめに言っても世界一」って……)
「そ、そうなんだ……。ああそうか。実はウルドさんってああ見えて世界一のバリバリ仕事人間だったりするのかな?」
ああ見えて、か。
確かに俺の体がどんなに美しくとも堂々とせず、あんなにオドオドとしていれば嫌でもそう見えてしまうだろうな。これは訂正が必要か。
「クロワの言う仕事がなにを指しているのかは知らんが、戦闘だろうが内政だろうが全てにおいて1番だ。
無論、目深にかぶった麦わら帽子で良くは見えなかっただろうが、超の付く美形であり、容姿面でも世界一だ」
「そ、そうなんだ……」
(そっか……薄々そうなんじゃないかな? とは思ってたけど、キラってやっぱりお兄さんが大好きな"ブラコン"って子なんだね)
なんだ……? クロワの俺を見る目が変わった気がするな。対面すると身長差で見下される形になるから俺が卑屈になって見間違えたか?
「……ウルドさんの事はもう分かった。キラの方は今日図書館には行かないの?」
「ああ、今日は図書館ではなく戦闘系ギルドに行く予定だからな。どうだ? 共に来るか?」
金が無いからまたぞろギルド巡りだ。地元民のクロワであればこの前の様な偏屈な場所には行かないだろう。
「いいね。クロワが道案内してくれたらボクたちも助かるよ」
「いやいや、戦闘系ギルドは物騒な人が多いからクロワには荷が重いかなぁ」
「ふん、その物騒な輩が襲って来ようとも俺がお前を守ってやるぞ。まぁ守る事位しかできないがな」
情けないが、この体では屈強な人間共を追い払う力がないのだ。魔法を使っても対象を癒すだけだしな。
「んー、キラに守るって言われてもなー……」
頬をぽりぽりとかきながら不安がるクロワ。
そうだな、これが当然か、クロワの内心は理解している。俺はこんななりなのだから。
前の俺であればどうだろな。
俺の誘いを遠慮するクロワに激高していただろう「この俺の誘いがのめんと言うのか!」とな。
だが、今の俺。この体は絶対の存在、全世界の王では無い。街に来て数日、それが痛いほどわかったのだ……。
─── しかし、だからと言ってそれとこれとは話が別だ。
先も言ったが、またもやあの様な偏屈なギルドを訪れたらかなわん、クロワの同行は必須だ。ここは譲れんぞ。
と、俺が意気込んでた所で、クロワやアクルナとは全く見当違いの場所から話の横ヤリが入った。
「突然で失礼ですが、あなた方のお話は聞かせてもらいましたわ」
声のする方へ振り返ると、店の扉が音も無く開いており、視線の先にいたのは人間としては圧倒的。よもやチャッキーにも迫る美貌の持ち主なのでは? と勘ぐるほどの人間の大人の女がいた。
「あなた方はこの後戦闘系のギルドに行くのでしょう? でしたら私のギルドへと来るつもりはございませんか?」
桃色の髪をした美姫で、金持ちが良さそうな服を着た、どうにも胡散臭いのがやって来た。
「キラはクリームパンでアクルナちゃんがクロワッサンでいいんだよね。直ぐに持って来るから」
「追加で私にもクリームパンをお一つ」
俺とアクルナの注文を取ったクロワに、突然横から現れた女が追加注文をした。
「は、はいぃ! 毎度ありがとうございますぅ!」
ぺこぺこ頭を下げるクロワはこの女のオーラに気圧されながら注文のパンを取りに行った。
「で、あなたは何者なの?」
俺の相席に「よいしょっと」と腰を掛けた名も知らぬその女に、アクルナはかなり警戒している様だった。
「私はロン。今はただのスカウトマンですわ。あなた方、と言うよりはあなたのスカウトですの。どうかしら? 私のギルドに入るつもりはありませんか?」
女がクスクス笑いながらそう言うと、鮮やかに光る桃色の長髪が上下に揺れ、辺りには艶かしい香が漂った。
「貴様のギルドに俺をスカウト?」
「はい。私のギルドは戦闘系ですが、あなたでしたらギルドでも優秀な戦力となるはずですわ。そこを私が買いたいのです」
ギルドに所属するか。ギルドなど情報源程度にしか考えていなかったからな。そんなこと考えもしなかった。
「ダメ! 絶対にダメ! キラがわざわざ危ないことする必要なんてない! お金にだって困ってないんだ!」
さらっと嘘を付くウサギだ。まぁ金欠の原因の一端……いや、ほとんどが俺に有るのだが。
「まぁ、待てアクルナ」
もしかしたらデカイ魚かもしれん。であれば逃すのは惜しい。
「この俺をギルドにスカウトとは、随分耳心地の良いことを言う。その根拠とはなんだ?」
「勘。ですわ」
ロンは待ってましたとばかりに、得意顔でバッサリと答えた。
「勘か」
「勘ですの」
「ふざけてる! やっぱりダメだよキラ。断ろう!」
「なっ⁉ ふ、ふざけてなどおりませんわ! 私は至って本気ですわ!」
ロンがズイッ、と俺に顔を寄せながら声を強めて俺に言い放つ。
俺に言うな。文句があるならアクルナに言え。
と言い返せば、頭の可笑しな女は俺の方になる。アクルナは腹話術で動かしている設定だからな。いくらなんでもそれはごめんだ。
それからはアクルナとロンが平行線で押し問答だ。両者が譲らないことで、激論はヒートアップしていく。
今まで力で蹂躙して来た俺にとって、この手の争論は疲れるだけだ。そして疲れた時は好きでも無いのに甘味が欲しくなる。
あぁ、この脆弱な身体はなんて不便なんだ。クリームパンよ、早く来い。
そして、間が良いのか悪いのか。クロワが注文のパンを持ってきた。遠目から2人の言い合いを見て若干引いているが、給仕の仕事ゆえにテーブルまで運ばない選択はないだろう。
「え、え〜と、お待たせしました〜。ご注文のパンです……」
二人の言い合いにクロワの営業スマイルがヒクヒクと崩れ、目が泳いでいる。
そのか細い声にグリンッ、と首を回して振り返った2人は声を揃えて同時に吠えた。
「今はそれどころじゃない‼」
「今はそれどころではありませんわ‼」
「ふ、ふえぇ〜」
こうしてクロワ・クリームは慄いた。
ヒライさんとウルドさんはひとまずお休み、キラ様視点が続きます




