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出稼ぎに行っちゃった

 ズズズズズッ、詠唱から発動までに誤差がある「ブラックホール」がゆっくりと、だが着実に闇を拡げ。


 詠唱から発生の早い「エクスプロージョン」の発動により、カッ、森の中に爆炎が上がり、辺りに爆音と爆風を巻き起こした。


「この間抜け聖女がぁぁー⁉」


 俺は皮肉と悲痛が入り混じった悲鳴をあげながら、爆風に持て遊ばれるように地面をゴロゴロ転げ回る。


 唯一の僥倖は爆炎との間にウルドが立っていた事だ。おかげで爆炎の直火を浴びずに済んだが、爆風には3秒と耐えられず、手を顔の前で交差したまま、体はすくい取られる様に吹き飛ばされた。


「うおおおおぉぉ⁉」


 体が思い通りに動かない。なんとか立て直そうと四苦八苦するが流れの奔流には逆らえなかった。


 このまま風が収まるまで吹き飛ばされるのか⁉

 木々の生い茂る森で俺の予想は悪い方向にハズレることとなる。


 ドンッ‼ 背中から勢い良く、大木に激突した。


「 ─── カハッ⁉」


 カヒュッ、喉から空気が逆流し、続けて全身に途方もない痛みが駆け回る。


 い……痛い……。視界が涙で霞む。鬱陶しいから袖口でゴシゴシこすると、また涙がジワリと溢れてくる。

 ああ、鬱陶しい。ゴシゴシ、グスン。

 ……だが、おかげ意識は保てている。成り行き、とはいえ吸血鬼で助かった。


 仮にでも気絶していてたら確実に死んでいた。この「ブラックホール」が発動されている状況下では。


(……ぐっ……結界っ)


 揺れる意識の中でなんとか結界を発動する。


「げほげほっげほっ ─── 」


 今の俺が人間以下の脆弱な吸血鬼とは言え、生命力だけは無駄に高い。聖女の病の治癒に全力が注がれた結果なんだが。


「キラ! 大丈夫!?」


 顔を上げ、気が付くとアクルナが結界の中で俺の背中をベタベタ触っていた。相変わらず聖女の体の事となるとどこまでも必死なやつだ。


「背中を強く打ったみたいだけど大丈夫⁉ 咳が止まらないの? なら早く病院に行かなきゃ!」


 今はそれに答えている余裕は無い。状況的にも体力的にもだ。


 ズズズズッ、ズオォォォォ‼


 とうとうきたか。覚醒した「ブラックホール」がその猛威を存分に振るう。


 大きさは最小と言っても「ブラックホール」は「ブラックホール」。侮れ難い。この中心に取り込まれれば絶命は確実だ。


「くっあぁ!」


 一瞬だ。一瞬にして結界を維持する魔力が底を尽きかけた。


 魔力が尽きれば昏倒し、後はあの闇の中に吸い込まれる。ここで魔力枯渇は死と同義。


「キラ! ボクの魔力を使って!」


「最初からそのつもりだっ!」


 だが、俺にはまだ聖天具という魔力の貯蔵庫がある。アクルナから魔力をちょうだいしてなんとか結界を保っていた。


「キミの魔法まだ終らないの? このままじゃキラが吸い込まれちゃうよ!」


「わかっている! だまって耐えろ鬱陶しい!」


 地面は抉れ、引力に負けた木々は次々と闇に引きずりこまれる。


「お金がぁ……」


 それなりの時間を掛けて(苦労はしてない)飼ったモンスターや魔石、一撃で屠ったドラゴンまでもが闇に吸い込まれ、アクルナが残念そうにそれを見送った。


 時間にして40秒。 ─── ズズズズ……。


「見て、黒いのが縮んでるよ!」


「後少しだ」


 ありったけを吸いつくした闇の入口が徐々にしぼんでいく。


「あっ! 閉じた!」


 呆気なく、最後大きく吸ってからフッ、と消え去った。


「終わったか……」


「魔力使い過ぎ。今日はもう結界使えないよ」


「そうか……」


「……お……お疲れ様……」


 お疲れじゃねぇだろうが……。

 おずおずと現れたウルドに思わず悪態をつきそうになる。あの「エクスプロージョン」と「ブラックホール」をウルドは始終ハラハラしなが見ていただけなのだから。


「……お……怒ってる……?」


 怒っているか? そんな事聞かれるまでもない。そう、俺は怒っている。激怒と言っても良い位に。


「当たり前だ!」


「……ぴっ! ……ご、ごめんな───」


「いったいなんだあの魔法は! 美しさのかけらもない‼」


「……さい? ん、美しさ?……えっ?……あ……あれぇ……?」


「あれぇ?」ではないは。

 俺という幼子が少し声を荒げただけで直ぐこれだ。いつものように気が弱いからと言い訳を並べようが、粗雑な魔法の発動は目に余る。こと魔法美においてこのまま放っておくなど言語道断だ。


「キラ、今は魔法の美しさより言うことがあるんじゃ……?」


「いいか、そもそも魔法の行使においてもっとも大切なのは比率だ。美しい魔法に対して消費すべき魔力の比率は常に決まっている。すなわちその黄金比はだなぁ」


(【魔王】様の教え……ちゃんと聞かないと……ゴクリッ)


 アクルナは良いとしてウルドは聞く気まんまんのようだな。


「いいか、その黄金比はだなぁ……」


(ゴクリッ……)


「なんか始まったよ……」


 せっかくの機会だ。魔法の真髄というものを叩き込んでやるか。そうして口を開こうとした瞬間、言いようのない眩暈に襲われた。


「お……? お、おう、ごん……びっ……?」

くらぁ〜


 ………あ?


「……びっ?」


「え?」


 ドサッ。


 …………………。



「「……わあああああ!!??」」



「キラが倒れた⁉」


( オロオロ(゜ロ゜;))((;゜ロ゜)オロオロ )


「教会じゃないから魔力切れしたんだ。は、早く安静にしないと!」


( ((((;´゜Д゜)))アワワワワ )


「ウルドッ!」


「 ─── ハッ……‼」


「早く街へ戻ろう、このままじゃ治るものも治らないよ」


「……うん!

  ところで……」


「どうしたの?」


「……おうごんひ……って、なに……?」


 †


 なんだか、ずいぶんと長く深い眠りについていた気がする。


「どこだここは……」


「あっ、おはようキラ。調子はどう?」


「……アクルナか」


 ベッドが等間隔で並ぶ大部屋、その内にの一つに俺は寝転がされていた。


 見た限りここは医療施設。と言うことは……。


「俺は魔力切れで倒れたのか?」


「うん。ボクは使う魔力の肩代わりはできるけど、魔力切れはどうしようもないんだ。ごめんね」


「そうか……」


 寝ていると頭の上からアクルナの声が聞こえる。ここは森とは違ってメルメリッサ、人間の都市であるから、今は腹話人形に徹しているのだろう。


「魔力切れで倒れるとはみっともない。これではウルドに強く言えんではないか」


「いいや、ちゃんと言ってあげてよ。まだまだ精神的には子供なんだから。キミが倒れた時のあわてぶりは凄かったよ」


「ククッ、そうか……

 ん? そう言えばウルドの姿が見えんがどこにいる?」


「あー、ウルドなら今ね、ダンジョンって所に出稼ぎに行ってるよ」


「で……出稼ぎ……?」


 ダンジョン? たしか本に記されてあった洞窟のことだったか?


「やはり金が足りないのか?」


「あはは、ちょっとね。もう病院にも2泊しかいられないくらいかな」


「別に金なら前回のように森で調達すればよかろう。わざわざ洞窟に行く必要があるのか?」


「なんか、冒険者って人たちは森で稼ぐよりダンジョンで稼いでブランドをつけるんだって、それに森のほとんどの収入源があれ(・・)に飲まれちゃったからダンジョンの方が稼ぎになるって昨日飛び出して行っちゃった」


「……」


 行っちゃった、とはずいぶんと軽いな……それで本当に大丈夫なのか?


 †


 ひ〜、ひ〜、ひ〜〜。つ、疲れた。

 お……おっす、オラヒライ。

 しんど。女神さんマジかんべん。

 ちょっと悪口言っただけでこれとか、アールマゾフィーちゃんSなの? 落とすならもうちっと考えて欲しかったは。


 お空から山脈に落下してかれこれ歩いて3日、ようやっと人里に到着。マジ死ぬかと思いました。


「マジで助かった。あのままじゃ確実に死んでた」


「お互いさまですよ。私としても打算で動いた訳ですから」


 まさに旅は道連れ世は情け。たまたまこのイケメンが現れなきゃまたお空に登るとこだった。


「本当にこんなんで手打ちでいいのか? 俺としてはありがたいんだけど……」


「ええ、構いませんよ。はい、確かに受け取りました」


 俺を助けてくれたイケメンの名前はナンナン。カレーの付けも物で出るあのインドインドしたパンや動物園にいそうなパンダみたいな名前だがイケメンは命の恩人だ。こんなのしか返せないのがマジで悔やまれる。


「いいのかホントに、それってその……あれ、なんだろ?」


「ハハッ、大丈夫ですよ。僕にとっては必要なあれなんです。媒体として使うんで」


 丘を超え山を超え、えっちらおっちらただただ歩き通しの異世界召喚、という名の素人下山という無茶振り1日目。

 川に沿って歩いたら人に出会うんじゃねぇのかよ(ゲキ怒


 そうやって怒怒(おこおこ)してた時に偶然洞窟を発見。中はクソでかい巣穴みたいだったけどなんにもいなかった。

 あわよくば<超調教(スーパートレーナー)>でちょこっと調教してやろかと1晩貼ってみたけどなにも現れず、巣穴のい草がいい感じでグースカ寝てしまったよ。パンと牛乳がないのが悪かったね。


 で、一晩経って、腹減ったー! って荒れていた時に見つけたのがこの石。朝日に反射して虹色に光る不思議な石だった。


 俺的感でこいつは強い。そう思って拾ってみたらこの石、手の平サイズなのに見た目より軽かった。


 けったいに七光りする割に中身スカスカ疑惑でこれ「飛○石」とかなんじゃね? とか思いながら珍しいからポケットに閉まった。


 んで、リアルにバルスされてから2回目の昼時。これ下手したら腹減って飢えて死ぬんじゃね? って思ってたところにナンナンと鉢合わせたわけ。


 イケメンはイケメンで探し物しに山まで来たらしいんだけど、飯と人里までの道を教えてもらった礼に七光りをあげた。


 そしたら偶然それがイケメンの探し物らしくてね。ナンナンに七光り見せたら両手をブンブンされた後に肩をバンバンされたよ。


 おいちちちっ、とか言いながら目的達成したイケメンと一緒に下山しましょうかってなってな。

 まあ、礼として七光りを渡して今にいたると。


 ちなみ、この石ってなんなんナンナン? ってナンナンに聞いてみたら。


「ああ、それはドラゴンの糞ですよ」


 ってさ。

 なんなん? 俺は命の危機にウンコ持って山散策してたんかいって、思わず1人ツッコミ出たはビシッとね。

 あーはいはいクソつまんないですよウンコだけにね。


 イケメンはこれからメルメリッサって街に行くらしい。そこに妹と2人暮ししてるらしくて、イケメンは街の冒険者ギルドでせかせかと冒険して金を貯めてんだってね。


 で、俺は思ったよ。

 冒険者ギルドいいじゃん! テンション上がる〜!ってさ。


 ここからメルメリッサはそんなに離れてないらしいから、俺もそこに行くことに決めた。イケメンも旅仲間が増えるのは嬉しいって言ってくれたし、意外なことにナンナンはぜんぜん女っけがないから男2人旅で気も楽だしな。


 事実は小説よりも奇なり。

 ウンコと引き換えに友達ゲットでいい感じ〜っていったいどこのわらしべさん?

 ああ、これじゃ絵本よりも生成りか〜。うんクソどうでもいいね。


 よっしゃー! 気を取り直して

 いざゆかん! メルメリッサ!


 あぁ^〜冒険者暮しとかロマンかよ〜夢が広がるんじゃぁ^〜。


 こうして俺はナンナンと2人でメルメリッサを目指すのであった。


 続く▼

遅くなりました。


できれば両極端にならないように頑張るぞい。

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