訳ありドラゴンと物欲聖女
三月まで隙間時間に書くことになります。投稿スペースは亀の如しです。申し訳ありません(._.)
ドラゴン。それは、この世界をも股に掛け、数多の種族から最強の生物と呼ばれ、これまでにも数有る伝説を残した生き物だ。
「GYAAAAAAAA!!」
暴力的な咆哮と共に噴出されたブレスが直撃し、俺の貼った結界からビシリ、と嫌な音が鳴った。
「……あ、ヒビが」
結界の中から迫り来るブレスを真近に見たウルドは、現状を全く理解できずにポカーンと惚けている。
「だから言ったじゃん! だから言ったじゃん! 早く逃げないとヤバイよ! ドラゴンには対魔が聞かないから結界がいつまで持つか分からないんだよ!」
半狂乱になったアクルナがパニックに陥っているが、そう慌てることでもない。俺はドラゴンのブレスをどこ吹く風のごとく見送ると、俺達に敵対するドラゴンを睨みつける。
「意思の疎通もできぬドラゴンなど対したことは無い。突出した知能も無く、サイズも小さい所から見てただの下っ端だ。奴らは組織的に動く。重要なのはこいつに命令した上位固体だ。一体、どんな命令が飛んで来た?」
「GYAAAAAAAA!」
「ふん、答える頭も持たぬか」
ガツン! ガツン! とドラゴンの鋭利な爪が結界を破壊せんと攻撃している。このまま防戦一方では結界が壊されるのも時間の問題だろう。
「もー! バカー! どこが小さいんだよ! 話してる暇が有ったらなんとかしてよ!」
一軒家ほどあるドラゴンは、アクルナが言うように決して小さくはないが、種族的に見れば小さい部類なのだ。
「……どするの、逃げる?」
「そうだな。まだまだ小さくともドラゴンはドラゴンだ。美術価値の高い鱗でも土産にしよかと思ったが、お前に戦う意思が無いのなら諦める他はない」
「……わかった」
ドラゴンにビビっているのはアクルナだけでは無いようだ。ウルドは俺の決定にホッと安堵した表情を見せると、そそくさと逃げ出すために、俺をいつもの様に横抱きにしようとする。
「……ただ、ドラゴンの肉はどんな生物にも勝る美味なる物だと聞いたことがある。しかし残念だが、お前が戦わないとなると、同時にこれも諦めるしかなさそうだな」
「……」
俺の一言に、ピクリとウルドが反応した。
「クックックッ、どうした? まさかやる気か? 相手はあのドラゴンだぞ」
チラリと視線を動かすと、ウルドの怯えと欲望の混ざった視線が交差する。
「ククッ、戦うか、尻尾を巻いて逃げるか。それはお前が決めろ。神をも超える力を持つお前にだけ、その権利が与えられているぞ?」
クックックッと笑う俺に同調して、ウルドの頬がニヤリと上がるのが見えた。
†
この日、俺はとても興奮していた。
「おい、見ろ、なんだこの石は、見た事ないぞ! 店主! この石は如何程か? 今すぐに俺が買い取ろう!」
俺がこのメルメリッサの街を散策していると、宝石とはまた違う味の有る石を扱っている店を偶然見つけた。少し寂れた雰囲気だったが、俺は遠慮もせずにズカズカと中に入った結果、とんでもない物を見つけてしまった。
「なんでぇ、嬢ちゃん。この石の価値を見抜くたぁお目がたけぇ。こいつはかの有名な賢者様が込めた魔法がぁ」
店の石を扱っている店主は、決して身なりが良いわけでは無かったが、俺を見て子供だと侮らなかった点には好感が持てる男だった。
「前置きなどどうでも良い、俺はこの石の値段を知りたいのだ!」
「あいや、人の話を聞き流すたぁせかっちな嬢ちゃんだ。だけどよぉ、あんたのその慧眼には気に入ったぜ」
そう言った店主が石を手に取ると、ヘラヘラとした先程の態度が一変し、上から下までギラギラと撫でる様に見回した。
「よっしゃ! 良いぜ。おじちゃんのチョー大サービスだ! この石、金貨60枚で売ってやらぁ!」
なに、金貨60枚? 安い!
「買った! 買ったぞ! その石はこの俺がいただいた!」
俺はこの時、この店主のノリにまんまと乗せられていたのかも知れないが、この美しい石の前では些細な事だと思うのも仕方が無いのだ。うむ。
「ちょ、キラ勝手に決めな、モガガッ、モガモガモガモガッ!」
アクルナの口の中から、金貨が大量に入っている袋を取り出して、店主の前に叩きつける。
「おいおい嬢ちょん、まだ査定は済んでねぇだろ。落ち着けって、えーと、1、2、3……」
店主が金額を数え出したが、おそらくは足りているはずだ。俺は店に並ぶ目当ての石を遠慮無く手に取ると、石の中心に垣間見える形容し難い美しさに見ほれ、頭から湯気が出そうなほど自分の顔が上気しているのがわかった。
近くでアクルナがギャンギャンとわめき散らしているが、そんな物は自然と右から左に流れて行く。
「くぅ〜ずるいぞ。キミが本当はキラじゃないってわかってるのに。ああ、キラにそんな幸せそうな顔されたら、もうもう」
「……もう、返品は不可」
「はぁ〜、帰って来たのが金貨3枚。あの宿に後3泊しか泊まれないじゃないか」
「……どうする……働く?」
「それしかないね。これっぽっちじゃ、図書館の入場料でも苦労するよ。何か良い働き口は……」
「……あれ、やってみる?」
「……ああ、ウルドが話してたあれね、確かに凄く良い稼ぎ口だと思うけど、あんまり危険な事はしたくないんだけどな」
「……大丈夫、任せて」
「そうか。ん〜、そうだね。ボクも居るしひとまずは大丈夫かな?」
「……きまり」
「よし、じゃあ行こうか。
ほら、キラ移動するよ。いつまで石見てるの? ……って、全然聞こえてないし、もー、仕方ないなー」
俺が夢中で宝石を見つめているうちに、いつの間に誘導されたのか気がつくとメルメリッサを守る城壁の外にいた。
†
狼を狩る。
スライムを狩る。
ゴブリンを狩る。
オークを狩る。
オーガを狩る。
トロールを狩る。
名も知らぬ大仰なモンスターを狩る。
鳥型のモンスターも狩る。
ウルドの召喚した赤黒い狼と蝙蝠が次々と森のモンスターを狩っていく。
モンスターの死骸から取れる魔石なる石と、モンスターの素材だけが森に残り、それすらも眷属達によって一つの場所に集められる。
ボトリ、ボトリ、とモンスターの死骸が積まれて山となり、その隣では魔石も盛り盛りと積まれていく。
「ふむ、これが話に聞いた魔石か? 全く美しくない。こんな粗末な物が売れるのか?」
「……ギルドが、買ってくれる……らしい」
「はっやーい。これを売ってお金が稼ぎるなんてギルドの人達も中々楽な商売を考えるね」
地に降り立ったアクルナが魔石の山から魔石を一つ手に取ると、しげしげと眺めながらへー、と感心した声をあげた。
「お、また魔石が増えたな。眷属達がモンスターの群れでも見つけたか」
「……眷属ちゃん、よしよし」
ウルドは気が向いた狼の事を労っている。額をウルドに撫でられた狼は「くぅ〜ん」と鳴きながら尻尾をパタパタと降っている。それを他の眷属達が羨ましそうに見るが、ウルドは空気を読む気がないようだ。いや、前の病気の弊害のせいで、極めて鈍感に育ってしまったとアクルナから聞いた。
「あいつは本当に自分しか見えないな。ゴーイング・マイ・ウェイここに極まりけりか」
「いや、キミにだけは言われたくないと思うよ」
「ふっ、まぁ、俺は王だからなそれが当然なのだ」ドヤァ
「うわぁ! ドヤ顔……だけどキラが可愛いからセーフ!」
それからは待っていれば時間は掛かるが、多くの死骸と魔石を集める事ができた。
さて、今日はこれに位にしてさっさと目当てのギルドヘ行こうか。というところで、俺は眷属達の異変に気が付いた。
眷属達はモンスターを狩って死骸と魔石をここまで運ぶのが仕事だ。しかし、その流れ作業が最初より明らかに遅くなっている。つまり、眷属の数が減っているのだ。
「アクルナ、近くに俺達以外の気配はあるか?」
「無いけど、なんで?」
どうやら敵は、アクルナの耳に引っかからずに眷属達を消しているようだ……
ククッ……面白い。
「眷属の数が減っている。おそらくは敵だ。奇襲に備えろ」
「えっ⁉ 敵、うそっ!」
俺達が辺りを警戒しても、森の中での視覚頼りでは敵の正体が掴めない。
おそらくは「サイレント」の魔法で自ら発せられる全ての音を遮断しながら眷属を屠る難敵か、生粋のアサシンかのどちらかだ。
後者ならばかなり厄介だ。生粋のアサシンならば極力魔法は使わない。魔法探知に引っかかる可能性を考慮し、全ての補助魔法を己が身一つでこなしてしまうからだ。俺の部下で言うチャッキーがその筆頭だった。
だが、どうやら今回の相手は前者。それでも安心はできない。人間にとっては最悪と言っても良い程の化物なのだから。
「gyaaaaaa」
突然遠くから何かの咆哮が聞こえた。
「そんな、嘘だろ……」
まだ俺には遠すぎてモンスターの判別はできない。ただ、アクルナの怯えた反応を見れば大方の判別ができる。
「gyaaaaaa!!」
今度はハッキリと聞こえた。馬鹿でも分かる強敵だ。
「クックックッ、丁寧に「サイレント」を解除してからの登場とは、もはや勝ったつもりか?面白い」
「GYAAAAAAAA!!!」
咆哮と共に空から姿を現した化物が、木々をバキバキ、と押し倒し、俺達の目の前へ着陸した。
「GYAAAAAAAA!!」
現れたドラゴンの咆哮の余波で、アクルナお手製の髪留めがブチッ、とちげれ、同時に放たれたブレス攻撃によって俺の視界は真っ赤に染まった。
今回はキラ様のドヤァでした。
前回との脈絡をすっ飛ばしましたが、次はドラゴン退治です。
注意:金貨60枚はかなりの大金です。




