淑女の様には振る舞えん
日が沈み、夜のとばりが降りる頃。俺、ウルド・パートリー、アクルナの三人は「ホワイト・ナイト亭」の一室で腰をかけていた。
「さて、では報告会といくか」
俺達はテーブルを囲み、顔を見合わせる。
会と言っても2人と1匹しかいない。それに、俺が報告する事など特に無いのだが、こういうのは雰囲気が大事だ。
「って言ってもボク達に収穫なんて何もなかったけどね。敷いて言えば学術系ギルドの人間は生きてる"次元"が違うのがわかったよ。キラの中身がキミで本当に良かった〜」
そう言いながらとてとて、とテーブルの上を忙しなく歩き回るアクルナ。
アクルナは椅子に座らずにウルドが買って来た紅茶を人数分のカップに注ぐ。同様のクッキーもせっせと内装から取り出している。
「おい、それはどう言う事だ」
「だってキラにはああ言うのはまだ早いだろ? この歳でキミと同じ思いをさせるわけにはいかないじゃないか」
アクルナは話しながらカップをウルドと俺の前に並べる。
「ふん、お前が過保護過ぎるだけな気もするが……。確かにあれはおぞましいものだった。思い出すだけで不愉快だ。やはり人間などゴミの集まりだ」
俺が断言すると、クッキーを盛っているアクルナの耳があからさまに垂れる。
「あれが人間代表ってわけじゃないんだけど……」
「うるさいぞ、黙れ。俺がそんなこと知るか」
俺は用意された紅茶をグイッと半分ほど飲み干してからバリバリとクッキーを噛み砕く。
「俺たちの話はもう良い。思い出すだけでも虫唾が走る。
次はウルドの方だ。お前は何か収穫でも有ったのか?」
ウルドが3杯目の紅茶をソーサラーに置くと、左右にフルフルと顔を降る
「……なんにも」
「戦闘系もダメかー。やっぱり難しいよ。キミも知らない魔法を一日二日で見つけるなんて」
「しのごの言うな。まだ始めたばかりであろう。もうギルドに頼るのは後だ。明日からは図書館を探すぞ」
「(……)はーい」
俺は調査の前に字を読めるようにならないとな……。
学術系ギルドについてウルドに説明した後、ウルドからも魔術ギルドでの事を聞いた。
結果、有益な情報は無し。
報告会は終了。
そらから明日になるまでの時間は個々で自由に過ごした。
ウルドは金貨一枚でフードエリアに繰り出し、アクルナは俺が今日着たワンピースを念入りに洗濯している。
「ヒール」
「ヒール」
「ヒール」
俺は魔力コントロールの練習のために数度回復魔法を空打ちする。
だんだんと魔力がなくなるにつれ、夜の8時にも関わらず怒涛の眠気が襲ってきた。俺は抗えないそれに無理に逆らうことはせず、ベッドの上であくびを一つした後にさっさと眠りにつくことにした。
しばらくして。
─── アクルナが耳元でギャーギャー騒ぎ始めた。
鬱陶しい。一体なんだというんだ。なに? 寝るならパジャマに着替えてから寝ろ?
俺は今眠いのだ。面倒くさい。後にしろ。
俺が無視してもアクルナは食い下がらない。
……しつこいぞ。いつまでもギャーギャーとうるさい奴だ。
ん? 起きないなら勝手に脱がしてパジャマを着せる?
はっ、それこそ勝手にしろ。俺はもう眠るからな。
それからウルドとアクルナに服を脱がされた様な無い様な。微睡みの中にいる俺にそれを判別できる思考は残っていなかった。
†
人間の皆様、おはようございます。キラです。
「ホワイト・ナイト亭」7日目の朝ですわ。外はとっても良い天気、雲一つ無い快晴ですわ。ニコッ。
「キラ、どうしたの? いきなりそんは邪悪な笑みを浮かべて」
「ん? ああ、人間の女とは斯くあるものかと思ってな。少しイメージしただけだったんだが。
はっ、邪悪か。俺は淑女の様には振る舞えんな」
「ふーん。キミが淑女ね〜。ボクは元から無理だと思うけど。
……はい、できた。今日はキラのリクエストでサイドテールだ。どうかな? 頭きつくない?」
鏡に写る少女が邪悪に微笑みながら、髪を縛ってもらっていた。まぁ、その少女というのは俺なんだが。
「……【魔王】様。似合ってる」
「これが今日のお前のリクエストか ─── 」
服はまたも黒を強調とした色合いだ。
この一週間、聖女やアクルナの選択で毎日違った服を着た。その中に修道服は一切はいっていない。
「悪くはないが、お前は修道服を勧めたりはしないのか?」
教会のルールなど俺は知らんが。愚かな神の信者共に黒い服を進んで着る印象はない。質素な格好でひたすら祈り続けている印象だ。俺が初めて見た時の聖女のようにな。
「……別に。……もう、関係ないし」
「クックックッ。そうか、それは懸命だな。神なんぞを信仰したところでなんの意味もない。人間最後の希望を取り零すとは神というのも存外対した事はない」
「全くその通りだ【魔王】様。キラは小さい頃からやりたい事がいっぱいあったのに、人間と神が不甲斐ないせいでいつも結界を貼ってたんだ。そんな神にキラが毎日祈ってたのも病気を治すためだけだからね。けど今は目も見えるし、耳も聞こえる。吸血鬼になっちゃったけど、自由なんだから色んな事をやりたいざかりなんだ」
と熱弁するアクルナ。
俺も事情は知っているからな。特に咎めるつもりもないのだが。
「それがこの髪と服か」
「……うん。だめ?」
「そう言う事ではない。女物の服や髪は分からんからな。むしろお前達に全て任せる。他の人間に舐められない格好を心掛けよ」
「……任せて」
「ただなぁ、お前が選ぶ服は黒ばかりだ。味気ない。まるで根暗のようではないか」
「……ね、根暗⁉」
「そう言えば前に【吸血鬼】だからとか言っていたな。この身体ではそんな事気にする必要もないぞ?」
「……う、ん。頑張る」
確か、人間はセンスとか言っていたか。ウルドが選ぶ服はどうも黒い服やワンピース、ドレスなんかに偏る節がある。これがウルドのセンスと言う事か。
「終わったよー。ちゃんとサイズに合わせたからこれで動いても苦しくないはずだ」
先程は変な熱が入ったがアクルナはきちんと仕事を終えた様だ。
聖女の成長を見越して作られたアクルナ製の服は、全て若干のサイズ変更ができる。
半年前や一年前に作られた服ならば、息苦しく無い様に服のサイズを緩めるのが毎朝の恒例になっていた。
「毎回思うのだが、この脂肪は動きの邪魔でしかない。しかもまだ大きく重くなるのだろ? 邪魔過ぎやしないか? ウルドよ。もいでも良いか?」
「ダメ。絶対」
ウルドがこれまで見せたこともない真剣な表情で顔をズイッと寄せてくる。
「─── ククッ。ほんの冗談だ。真に受けるな」
「本当かな? キミならYESって言ったら即実行に移しそうだけど。キミから見れば所詮は人間の身体だし」
「確かにそうだな。だが半分は本当だともアクルナよ。この脆弱な身体は敗北の戒めとして俺の身体の様に丁重に扱おうと決めているからな」
まぁ、アクルナが言う様にYESと言われれば実行に移す。そういう意味での半分だ。
「……半分? ……【魔王】様‼
半分って……まさか、片方はもぐの⁉」
「「……」」
俺がアクルナを抱きかかえる。
「そろそろ行くか。今日は図書館ではなく、久々にギルドでの聞き込みにするつもりだ。どうだ?」
「意義なしかな。この前みたいな変なギルドなんてそう安々とはないと思うし」
「……半分ってなに⁉ まさか……横に半分⁉」
「前と同様二手になるか。今回ウルドには学術系に行ってもらう」
「それが良いね。もしかしたら彼らとも息が合うかも」
「ふっ、人形のくせに言いよる」
「まぁ、それほどでも」
こうして戦闘系ギルドには俺とアクルナ。
学術系ギルドにはウルドが向かう手はずとなった。
「……え⁉ 2人ともどこに行くの⁉ ……ちょっ、それ、私の身体なのにぃぃーー‼」
バトルしたい。けど、中々進まない>_<




