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笑えんな。全く

勉強が忙しくなってきました。投稿は週一それ以上遅くなるかも……

申し訳ないですorz

「ククッ、ようやく到着か」


「お疲れさま。1時間も歩いて疲れたでしょ少し休んでから行く?」


「よい。そこまで俺の体は柔では無い。それよりもここが学術系ギルドであっているのか?」


 俺は眼前にある建物を見上げながらそう言った。図書館程大きくはないが一軒家よりは大きい建物だ。


「学術系の中でも異界の力について調べるギルドなんだって」


「ふむ、異界の力か。そんな曖昧な物が俺の役に立つのか?」


「それは入って見てからのお楽しみだよ」


「それもそうだな。では行くか」


 俺は作られてから一度も掃除されていなさそうな扉に手を掛け、開閉音と共に扉を開ける。


 すると、肌に纏わりつくような温風が吹いた。


 肌を撫でる生暖かい風だ。

 それからその風に乗ってなにかが臭ってくる。なにから臭うかは分からない。ただ一つ分かることは、それが取りつく島も無い激臭だということだ。


「うっ」


 思わず呻き声が漏れた。

 匂いだけで眼に薄っすらと涙が浮かんだ。


 開けたドアの光が建物内の薄暗い部屋を露わにする。


 それから感じたのは、ギルド内の数カ所でグループ的に身を寄せ合う男達の視線だった。


 机の上で一心不乱に何かを書いていたり、向き合って議論していたり、書物を読んでいたり。グループ別で様々な事をしていたその男達が一斉にドアの方へ振り向いたのだ。


 その男達の眼光が飢えた者の眼だと直感した。


 何に飢えているのか定かでは無いが、粘つくような視線が俺の身体中を舐め回すように感じたのだ。


 俺はギルド内にいる奴らの視線を一身に受けながら、温風や激臭の正体に気がついた。


 これは圧倒的換気不足だ。


 ギルド内のどこを見ても窓は閉ざされ、密閉された空間に幾人もが何日もいるのだろ。温風の正体は、上昇した体温による外との温度差。

 激臭の正体は、密閉された蒸し暑い空間に長時間いたことによる体臭が原因だった。


 鼠の巣窟に来た気分だ。

 扉を開けて数秒でパタリ、と閉めたくなった。


 だが、ここで踵を返せばまさに負け犬のそれ。俺は身の内から溢れる嫌悪感を押し殺し、ギルド内に一歩踏み入れる。


 無論、扉を閉めるような事はしない。扉を閉め切らずに中だけを伺う。


 ある意味俺にとって大きな一歩を踏み出してから一番近くにいたグループに顔をむける。すると、目が合った男たちが一斉に眼を逸らした。その態度は余りにもあからさまだ。一方、その反対側ではなにやらコソコソと5人の人間が話しているのが見て取れる。


「おい、なんであんな子がこんなところにいるんだ?」


「知るかよ。てかあの子誰? 誰かの知り合い?」


「見るからに高そうな服ですな。貴族の子ですかな? それにしてもあの透き通るような銀髪がワンピースの色合いとマッチして素晴らしいですな」


「そうか? 確かに可愛いが、あのキツそうな眼を見ろ。あれはまさにゴミを見るような眼だぞ」


「わ、わかってねぇな……と、年下のび、美少女に蔑まれるのはご褒美以外のなにものでもな、ないじゃないか……でゅふ、でゅふふ、でゅふふぉふふふぉかぬぽぅおおおお‼」


「俗に言う背伸び幼女だな」


「いや待て、あの成長期特有の可能性を秘めた胸を見ろ。あれはもはや幼女の器ではない。将来はきっと相当な美女になるな。間違いない」


「ようは隠れロリ巨乳と言いたいんだろ。だが俺はもう少し小さい方が……」


「いやいや、あんなにキツめの目をしながら涙ぐんだり、ぬいぐるみを大事そうに抱えたり、ああ言うギャップこそが最強だろ!」


「お前それを言うなら───」


「……おいおい、お前らはなんだって彼女の魅力ついて熱く語ってんだ馬鹿馬鹿しい」


「なに?」


「お、お前は、あ、あの美少女を見て何もか、感じないのか?」


「ふっ、そうだな。ただ一つ俺にとって大事な事を言わせて貰うのなら……」


((((……ごくり))))


「俺にも、あんな妹が欲しかった……」


「「「「お前良く分かってんな」」」」


 今まで何かを話していた人間どもがうんうんと頷き合っている。傍から見てもあの数秒で白熱した論争が繰り広げているのがわかった。恐らくは俺のことだろう。何かまずい事をしたのか?


「アクルナあの人間共はなんと言っていた?」


「─── あー、ボクらの為になるような話じゃなかったよ。って言わせて貰うね。キラが耳にする事の程でもないよ……」


 アクルナが何処か遠くを見つめながらそう言った。


「そうなのか? ならば良いのだが」


 アクルナの表情が腑に落ちないが、聖女に害をなさない聖天具が知らなくても良いと言うのならば無駄話は流す事にする。


 しばらくしても俺はまだドアを開けたまま入口に立ち尽くしていた。


 通常ならば俺がこういった施設に出向く際、施設側が感涙に咽び泣きながら歓迎するのが常識だ。だが、王の姿ではない今の俺にそのような資格はない。下っ端に相手をされるのは癪だが、仕方ないと俺だって割り切っている。


 なのにだ。


 ギルド内の奴らは俺をチラチラと見ても話しかける様子はない。

 しかも、その視線の一つ一つが身体の至る所を舐めまわしベッタリとベタつくのだ。


 客を眺めるだけでなにも言って来ない理由はギルドのルールにでもあるのだろうか。本当に話しかけるだけでも気が滅入る人種だ。


 そうして俺が意を決し、ギルドの内部に入ろうとしたところで奥の階段から1人の人間が俺に向かって来るのが見えた。


「行くのかマスター!?」

「マスターで大丈夫か?」

「絶対キモがられるぞマスター!」


 どよどよと周りが騒ぎだす中、その人間が俺の目の前までやって来た。


「ようこそ我がギルドへ。可愛らしいお嬢さん」


 その人間が俺の前で腰を折って軽い挨拶をする。どうやらこの男は他の人間共と比べて身綺麗にしているのがうかがえた。


「貴様は?」


「私はこのギルドのギルドマスターを務めていますマッドマッキーと申します。以後お見知り置きを」


 ふむ、マスターと言う割には普通の人間だ。


 ここの管理人ならばもっと人外なのが出てくるかとも思ったが、そんなことはなかったか。逆に他が人間としての最低に位置している為に、普通の人間が俺の中でかなり映えて見える。


「俺はキラだ。今日は故あってここまで足を運んだ」


「俺、ですか……」


 マッドマッキーが「やはり本物は格が違いますね」などとブツブツ言い始めると、俺との会話を聞いていた他の人間共もざわざわと騒ぎだした。しかも全員漏れなく小声でだ。そんな小声でボソボソと言われても人間の耳では聞きとれる限度がある。もっとシャキッと話して欲しいものだ。


「なんだ貴様ら? ボソボソ話すな。耳障りだ」


 俺がイライラしているのが伝わったのだろう。ピタリと話し声が止まり、ギルド内が静寂に包まれる。


「いえ、申し訳ございません。キラ様のような女性が「俺」と言うのは珍しく、つい反応してしまった次第です」


 は? こいつは遠回しに気に入らんと言っているのか? この人間如きが……


「ふん、貴様が俺を不快に感じようが俺はこれを変えるつもりはない」


「いいえ、そんな不快だなんてとんでもない! 私共の業界では寧ろごほ、んんっ!

 評価されるものです! それほど少女の一人称が「俺」「僕」であることは一定の価値があることなのです!」


 一人称に一定の価値? 意味がわからん。悪意はないようだが、俺とマッドマッキーに大きな認識齟齬がある気がした。


「そうか。ならばまぁ良い。貴様らの評価など気にするべくもない。早いとこ本題に入ろうではないか」


「なるほど。かしこまりました。ではあちらに座っていただいてご用件をうかがっても?」


 俺はゆっくりと顔を振る。


「気にするなここで問題ない。俺の用件は世界中の転移魔法について調べられるだけ調べろ。この一つだけだ」


「転移魔法ですか……それは骨が折れそうです。なにせ間違った伝聞などが数多く存在する魔法ですからね……」


「クックックッ、わざわざ貴様らが情報の分別をする必要などない」


「……と申しますと?」


「言葉通りだ。要求は転移魔法の全て。その報告が嘘か誠か、そんなものは俺が決める。貴様は伝聞を集めるだけで良い。神話、歴史、貴様らが好む異界の力でも構わんぞ。ククッ」


 マッドマッキーは俺の依頼に少し考えた素振りをすると、ゆっくりと顔を上げた。


「わかりました。では、あちらのカウンターで依頼書を書いていただきますので中へお入りいただいても?」


 このギルドのカウンターまで? 戯けが冗談でも笑えんな。


「ふん、二度も言わせるな。こんなゴミだまりのような匂いがする場所に入れるか。依頼書とやらをここまで持って来い」


「そう、ですか。ではこの場で紙とペンをご用意させます。おい!」


 話を聞いていたカウンター付近にいる男が、のっそりと俺のところに紙とペンを持って来た。


「ど、どうぞ」


「……」


 俺は小太りな男から手渡される紙を見て少し困った。人間語の字が読めないことを思い出したからだ。


 ほんの数秒間悩んだが、アクルナに代筆させれば良いか。などと考えている内に、何を思ったか紙とペンを持って来た小太りな男が空いた方の手を俺に差し出して来た。


「あ、あの。で、できれば。お、俺と……あ、握手してください!」


「なに?」


 握手、とは人間同士の挨拶の一環だったか?

 加えてたしか、圧倒的上位者の者は下々から憧れの意味を持って握手をせがまられるという。

 この男の雰囲気から挨拶の意味合いは薄いのがわかる。ならば握手をせがんで来たのは俺への憧れからと言うことか。


  ─── クックックッ、悪くない。


「良いだろう」


「あ、ありがとうごさいまふ!」


 ヘンテコな礼を聞いた後、俺が小太りな男の差し出された手を握り返そうとして。


 コツン。


 見えない壁にぶつかった。


 当然、犯人はアクルナだ。

 ギルド員たちはまだ結界に気づいている様子は無かった。


「どういうつもりだアクルナ?」


「キラ、あれ」


 そう言ってアクルナが指差したのは小太り男の手だ。


「あの男の手か。あれがどうした?」


「違うんだ。その少し奥……具体的には股間のあたり……」


 言葉通りに視線を少し奥に移動させると、俺(聖女)の体にぶわりと鳥肌がたった。アクルナの言葉の意図に気がついたのだ。


「な……! ありえんだろ! いやありえるのか!? 人間というのは幼くても関係ないのか!?」


 勢い良く疑問を投げかけたところで答えは小太り男の盛り上がった部分が雄弁に語っている。


 そう。


 目の前で俺に握手をせがんできた小太り男は、俺(聖女)の体に興奮していたのだ。


 脂ぎった顔に、始終動き回る視点。ていれもされずにベタつく髪。何日間も風呂に入らず臭う体臭。汗まみれでだらしない贅肉。服だって何日前の服なのか分かりもしない。


 しかも俺にとってこの人間は同性だ。今までに感じた事のない嫌悪感を抱いても不思議はないだろう。


 極め付けは、聖女の体が俺以上にこの男を気持ち悪がっていることだ。


 以前の俺がこみ上げて来る涙を我慢できなかったように、身体の震えと鳥肌がおさまらない。


 この扉を開けた時から、マッドマッキー含むギルドの全員にこんな欲情を向けられていたのかと思うと……


「……」


 ゾッとした。


 それから俺がくるりと踵を返すのにそう時間はかからなかった。


「良いかアクルナ。これは逃げではない。当然の行いだ。臭い物には蓋をする。強者だからと言って汚物を扱うのに長けているか? 当然そんなものは否に決まっている。最強である俺が言うのだから間違いない。そもそも汚物の掃除は俺の管轄外だ。王が部下や使用人の仕事をちまちまやるか? やる訳がない。故にこれは逃げではない。2度言おう。これは逃げではないのだ。分かっているのか! アクルナ‼」


「分かったよ! 分かったからボクに当たらないでよ。走りながら話すと舌噛んじゃうよ。ただでさえ息切れも早いのに」


「そうか。分かっているならそれで良い。勝手に勘違いされても困るからな」


 俺はアクルナが貼った結界をそのままに、聖女の出せる最速で走った。


 結界は俺から一定距離以上離れると自然消滅する。それを知っているにもかかわらずひた走る。あの場を直ぐさま離れたかった。それ程までにあの人間共が俺にとって危険な存在だと認識できたのだ。


「……ハァ、ハァ」


「キラ、大丈夫かい?」


「くそ、まだほんの少ししか走ってないぞ。なんて脆弱な身体なんだ」


 おまけに走るスピードも遅すぎる。


「ハァ、ハァ、クソ……もう走れんか。ここの路地にでも入れば身を隠せるか?」


「えっと、大丈夫。ここの奥まで行ったら結界は消滅するけど、隠れる場所ならありそうだ」


「ハァ、そうか。まったく便利な耳だ。─── さぁ、アクルナ。俺をさっさとそこまで連れて行け」


「OKまずは真っ直ぐ進んで二番目の角を左」


 俺はアクルナの先導通り裏路地歩いた。それにしても、狼、夜盗、盗人、それにあの気味の悪いギルド。この体になってからは散々な目にしか会わないな取り分け、トラブルメイカーと言ったことろか。


  ─── ククッ、笑えんな。全く。

マッドマッキーさん含む学術ギルドの方達にキラさんはもうタジタジです。


次回は自分達の身の振り方について考える予定です

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