最強吸血鬼
【吸血鬼の王】【ロード・オブ・ザ・ヴァンパイア】【ノーライフキング】【魔王】【夜王】【真祖】エトセトラ……
クックックッ──貴様らジャリと等しいカス共がこの俺の名を呼称したければ好きな様に呼ぶがいい。
なに、貴様らのような下等生物が絶対至上の存在であるこの俺に固定の名をつけるなどと、それこそ愚かの一言にすぎるがな。
「陛下、レルガマ卿が東北部侵略の件でお目通りを願っております」
この女の名はチャッキー。俺の忠実なる下部の一人だ。
「許そう。レルガマをここに連れて来い」
「はっ」
しばらくして、ブクブクと醜く肥えたカエルのような男がこの王の間に現れた。
奴の名はレルガマ。魔界から来たこの男、見た目によらず頭がキレる。中々の知恵者だ。
「ご機嫌麗しゅうございます陛下」
「あいさつはよい、して、なにようだレルガマよ」
「はっ、わが軍における東北部進行作戦にて無視できぬ障害に当たりましたために、ご報告をと思い馳せ参じてまいりました」
「ほぉ障害、なるほど障害か。──クックックッよもやまだ俺に逆らう愚かな者がいようとはな。で、何者なのだその愚か者は」
「はっ、人間、にございます陛下」
「なに、人間だと?」
「はい」
人間。
あのグズ共は我軍の血肉となるために繁栄するを矮小な家畜だと思っていたが、まさかまだ俺に逆らおうとはな。しかし、
「ふむ、だが人間如きが我軍の障害になり得るのか? あいつらのか弱さときたら小石の方がまだ頑丈ではないか」
──まぁ、天使も小蝿も同等に屠れる俺からすれば些細な問題だがな。
「はい。陛下のおっしゃる通りにございます。ですが我らを妨害する砦に残った人間共は“聖女”という存在を中心に強固な“対魔の結界”を敷き、我軍の進行を防いでる模様でございます」
「セイジョ……、なんだそいつは我軍の裏切り者か?」
我軍の進行を止める。その程度、この俺ならば容易い。そこにいるチャッキーにもできるだろう。
だが、人間にそれが可能かとなると話は別だ。確かに対魔の結界があればそれも可能だろう。
しかし、対魔の力は“聖天具”なる魔道具が必要なはず、人間にあの聖天具が扱えるとは思えんからな。必然的に、我軍を裏切った者が出てくるわけだが……
「陛下、恐れながら聖女は我が軍の裏切り者ではございません。かの者は聖天具を使いこなす正真正銘の人間にございます」
「なにっ、人間が聖天具を操るというのか?」
バカな、ありえん、俺ですら操れん聖天具をあの人間如きがッ?
「なんでも、聖女とは神に仕える人間。神の助力によって力を手にし聖天具を使いこなす唯一無二の者だそうです」
……ほぉ、神の手先か。
「クックックッ、面白い。ならば俺自らが出よう、そのセイジョとやらが聖天具を操るというのならば不足は無かろう」
言って、俺は玉座から立ち上がる。
この王である俺の絶対の決定に、しかし異を唱えたのは、すぐ横で頭を垂れるチャッキーだった。
「陛下が自らっ!? お、お待ちください! 御身が自ら敵に攻め込まずとも……この、私めが……」
と、慌てて立ち上がるも、語尾になるにつれ声は蚊の鳴くような音だった。
「不服かチャッキーよ? 俺は、俺自らが出ると言っているが、お前はそれに異を唱える気か?」
「も、申し訳ございません。ですが陛下、御身がわざわざ出陣する必要など……」
「グゥェグゥェグゥェ、良いではないですかチャッキー殿。陛下が出陣すれば勝利は確実。聖天具など持ってしても陛下に傷一つ付けることは叶わないでしょうなぁ」
そういって笑い出したレルガマにチャッキーが不快感を出して怒鳴る。
「笑っている場合ですかっ! レルガマ卿、あなたは陛下に対する忠義が足りないのではないか?! 陛下自ら出陣するというのに笑っていられるなどっ!」
「グゥェグゥェグゥェ、忠義が足りないと言うのであればチャッキー殿、それはあなたの方でないですかな? 陛下の御言葉を無下に扱うなど無礼極まりない行為ではないですか」
――ボォオオオオォォォーッッッッ!!
チャッキーのシルクのような髪がメラメラと重力に逆らって逆上した。
怒髪天とはまさにこのこと。
レルガマの一言が相当腹に来たようだ。
チャッキーの美貌がレルガマに対しての憤怒の色で真っ赤に燃え上がる。
「レルガマァァッ! 貴様、陛下の眼前で私の忠義を愚弄したなッ!!」
憤慨したチャッキーの影がみるみるうちに膨れ上がった。
「おやおや、あなたには言われたくありませんね。先に愚弄されたのはこちらの方ですが?」
なおも涼しい顔のレルガマ。
しかし、目だけはスッと細めながらチャッキーに備える。
俺はその相対する二人を見下ろしながらため息をついた。
「――くだらん、いい加減にしろ。チャッキー、レルガマ、俺は今から東北の砦に出撃する。チャッキーは城に残り警護を固めろ。レルガマは俺と共に来い」
「……っ、承知いたしました」
「御意に」
バチバチと睨み合っていた両者だが俺の命令で少しは血の気が引いたらしい。
大人しく俺に頭を垂れる。
「ふむ、では行くぞレルガマよ」
「御意に」
「チャッキー。俺の留守は貴様に任せたぞ」
「はっ! 城の守りはお任せください陛下! その、おきおつけて!」
「ふっ、貴様誰にそれを言っているのだ?」
「はいっ! 陛下にはいらぬ一言でございますね」
チャッキーの髪も影も元に戻り、いつもの美貌と冷静さを取り戻している。
これならば城を任せても大丈夫であろう。
それにしても──クックックッ、神の下僕にして未知の力を扱う者か。
セイジョ。いや、聖女とやらよ。せいぜいこの俺を楽しませてくれよ?
†
――東北・人類最後の砦
……あれが街を守る砦か?
いやはや、なんと脆い。
この完成度ならば俺が見に纏う服の方がよっぽど砦としての役目をはたせよう。
「陛下、これより先が対魔の領域にございます」
「ふむ、これが対魔の結界か。確かに強力だ。これではレルガマの兵力で押し切れんのも無理はない」
俺の目の前には世界を断絶するかのような分厚い膜が張っているのが見える、これがこの砦全体を覆っているわけか。
「――エクスプロージョン」
最上級魔法、広範囲を高威力で吹き飛ばすのだが……ふむ、かなり魔力を練りこんだのだがまだ壊れないとは、中々に頑丈ではないか。
ならば、
「ブラックホール。常闇よ全てを吸い込め」
俺の手の平にできた黒い塊を結界に放った。
その塊は、一瞬にして俺と我軍以外の物を全て吸い尽くす。
むろん、対魔の結界も例外ではない。
「ふむ、結界を吸い込むのに俺の魔力を二割か。さすがは聖天具と言ったところだな」
「お見事です陛下」
頭を垂れるレルガマと兵士たち。その顔には「人間共を早く蹂躙したい」そんな欲望の色がありありと垣間見える。
「俺は今から聖女の所へ行く。お前たちは俺が戻り次第、砦を好きな様に蹂躙しろ。
……いいかレルガマよ、貴様、俺の愉悦の邪魔はしてくれるなよ?」
こいつは俺もが認める知恵者だ。わざわざ俺を呼びつけてなにを企んでいるのかは知らんが、ここで釘を刺すことは無駄にはならないだろう。
「――御意に……」
そう頷いたレルガマは黙って頭を垂れ続けた。




