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僕らの箱庭

共に見上げた青空は、

作者: 東亭和子
掲載日:2016/06/04

 初めて彼女を見たのは入学式のときだった。

 一心に桜を見上げているその姿に惹かれた。

 一体彼女は何を見つめているのだろう?

 それから気になって仕方なかった。

 だから彼女と同じクラスと分かった時は、すごく嬉しかった。

 友達になってもらおう、そう思ったのだった。


 高校に入って初めての夏休みが来た。

 今日は登校日だ。

 特に授業をするでもなく、ただ登校するだけ。

 休みモードになっている体には辛い。

 それでも友達に会えると思うと、体は自然と学校へ向かう。

 歌歩に会うのは二週間ぶりだ。

 八月に入っても歌歩とは遊んでいない。

 教室で歌歩の姿を見つけ、木下チカは手を振った。

 歌歩が柔らかく微笑む。

「おはよう、歌歩」

「おはよう、チカ。少し黒くなったね」

 そう言って歌歩はまた笑った。

「たくさんプールに行ったからね!」

 チカは黒くなった自分の腕を指差し笑った。

 ああ、やっぱり歌歩といると楽しいな。

 チカは歌歩の顔を見て思った。

 思えばこんなに会わないのは初めてなのだ。

 少し寂しく思っていたから、歌歩に会えて余計に嬉しかった。

「さあ、席について」

 担任の小泉先生が教室へ入ってきて告げた。

 ホームルームだけの授業はあっという間に終わり、生徒達は次々と教室を出て行く。

 チカは歌歩と一緒に帰ることにした。

 普段、歌歩とは帰らないからワクワクした。

「ねえ、どこかへ寄って行かない?」

 チカは歌歩を振り返り聞いた。

 いいよ、と歌歩は頷いた。

「どこへ行きたい?」

 チカが尋ねると歌歩は少し考えて答えた。

 海へ行きたい、と。


 二人は平塚の海へ来ていた。

 泳ぐつもりはない。

 歌歩はただ、海を見たかったのだ。

 歌歩は浜辺で空を見ていた。

 青く、澄んだ空。

 穢れのない美しい空。

 そんな空を見ていると自分の罪の重さを知らされる。

 歌歩は自然とため息をついていた。

「どうしたの?

 何か元気ないね。

 聖先輩と喧嘩でもしたの?」

 チカが首をかしげて歌歩を見た。

 違うよ、と歌歩は首を横に振った。

 そうして唐突に思った。

 チカは聖をどう思っているのだろう?と。

「チカはひーちゃんのこと、どう思う?」

「どう思うって、特になんとも。

 私が好きなのは歌歩だよ」

 エヘヘ、とチカは照れくさそうに笑った。

 チカのそんなところに救われる。

 真っ直ぐに私を好きだと言ってくれるところ。

 こんなに穢れた自分を好んでくれる。

 チカは初めての友達と言ってもいい。

 こんなに仲良くしてくれた友達は今までいなかった。


「初めて歌歩を見たのは入学式だったよ。

 私、歌歩と友達になりたいと思った。

 だから歌歩が笑ってくれたときはすごく嬉しかったんだよ」

 チカの笑顔が歌歩は好きだ。

「私も嬉しかったよ」

 聖に抱きかかえられたシーンを目撃された歌歩は、一目置かれた存在になっていた。

 そんな歌歩に迷いもなく声をかけてくれたチカ。

 どんなに嬉しかっただろう。

 どんなに救われただろう。

 チカが靴と靴下を脱いで海に向かって歩き出した。

「気持ちいいよ~」

 そう言って歌歩に手を振る。

 歌歩も靴と靴下を脱いで海へと歩き出した。

 冷たい海の水が歌歩の足を濡らす。

 寄せては返る波がサラサラとして気持ちいい。

 水しぶきを上げて楽しそうにしているチカ。

「空が青くて綺麗だね!」

 そう言って二人は空を見上げた。

 青く澄んだ空は、前よりも歌歩を落ち込ませることはなかった。

「何か悩みがあったら相談にのるよ?」

 何気ないことの様にチカが告げる。

 ずっと空を見て、何か考えているでしょう?とチカが言った。

 好きだから力になりたいのだ。

 一緒に考えるから、一人で苦しまないで欲しい。

 チカの言葉に歌歩は微笑んだ。

 そうして告げる。


「私が人を殺したと言ったら、チカはどうする?」

 チカはまばたきを数回した。

「私はね、とても罪深い女なんだよ。

 それでもチカは私を好きと言える?」

「…言えるよ」

 静かなチカの声。

 チカはまっすぐに歌歩を見た。

 そうしてもう一度言った。

「それでも好きだよ」

 まっすぐなチカの心に涙が出そうになった。

「冗談だよ。冗談。

 本気にしたの?」

 歌歩はごまかすように明るく告げた。

 チカは驚いた顔をして、びっくりしたと言って笑った。

 全てが冗談だったらいいのに。

 あの罪も消えてしまえばいいのに。

 そうすれば後ろめたいこの気持ちをチカに隠さなくてすむのだから。

 歌歩は青空を見上げた。

 どこまでも続く青空は、まるでチカのようだった。


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