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 あの後、わたしたちは駅で解散となった。

 家に帰って、全身鏡に映った自分をみた。

真っ白なスカートに顔面蒼白の顔に不自然に浮かぶ赤い口紅。

 …ひどく滑稽なピエロだと思った。

 そのまま洋服がしわになるのもいとわずにベッドに飛び込む。

 隆太が好きかもしれないと思った。

 了のことは吹っ切れたと思った。

 隆太に気持ちが向いているかもしれないと思った。

 だけど、それは了が目の前に現れたとたんにそんな思いは吹き飛んだ。

「ほんと、わたしって中途半端…」

 自嘲するような乾いた笑いが漏れる。

 了に、隆太と付き合っていると誤解されたとき、否定しなくてはと思った。

(なんで思ったんだろう)

 だけど、それより疑問に思ったことは

(なんであの時、隆太の顔、見れなかったんだろう)

 隆太が息をのんだ時、隆太が傷ついた顔をしていると思った。

「わたしと隆太は付き合ってないのに」

 グルグルといろんな疑問と後悔がわたしの心を渦巻く。

 いやになって枕に顔をうずめた時だった。

 ピロリン、とメールを知らせる音が響く。

 正直、見る気にはなれなかったが、仕事の事かもしれないと思いノロノロと携帯を見る。

 見るのを拒む目がとらえた文字は了。

 ガバッ、と跳ね起きる。

 ドキドキしながらメールを読んだ。


「沙良へ

 

 さっきは空気を悪くしてごめんな。

 でもさ、沙良が「違う」って言ったとき、なんか気になって。

 幼馴染の勘だから気にしなくていいけど、沙良の中では、あれは義務感みたいなやつで出た言葉なんじゃないかなーと」


「義務感…?」

 眉をしかめ、先を読む。


「 沙良と俺が付き合っていたころの感覚みたいなのがまだ抜けてないんじゃないか?付き合ってた頃は俺が結構嫉妬深かったのもあったし。

 沙良は昔からそういう所があったから。

 たぶん、はっきりさせた方がいいんだ。

 沙良は、俺の大事な幼馴染だ。あんな別れ方で本当にごめん。沙良は俺の事ずっと好きでいてくれたのに。

 俺は、ずっと女性として桃花を大事にするよ。

 あと1つだけ。

 隆太といるときの沙良はたぶん俺といるより、楽しそうで、幸せそうだったよ。

 今まで沙良が俺の背中を押してくれたけど、今度は俺が背中を押すよ。沙良の今大事にしたい人が沙良の好きな人だ。

 今までありがとう。これからもよろしくな!


                     了」


「どこまで、お人よしなのよ…」

 わたしの頬を涙が伝う。

 了のメールでわたしの気持ちに整理がついた。

 わたしは了が好きだった。

 その捨てたはずの気持ちがいまだ小さく、根強くわたしの心にいて。

 隆太への気持ちで気付けなかった。でも、小さいころからのわたしのヒーローが、わたしの小さな気持ちに気付いて、わたしの背中を押した。そしてわたしの心から了への気持ちを捨ててくれた。

「わたしの背中を押してくれるのはいつだって了だったけど、もう違う。わたしのヒーローは隆太になる」

 涙を拭う。

 そのまま隆太に電話をかけた。

「10分後に駅。約束を果たすわ」

 それだけ言って電話を切った。

 そして軽く身支度を整えて家を出た。

 気付かずに走っていた。

 会いたい。隆太に会いたい!


 隆太はすでに駅にいた。

 待ち合わせのときはいつも隆太が声を掛けてくれるけど、今日はわたしがあなたを呼ぶ。

「隆太」

「沙良ちゃん」

 隆太は弱弱しく微笑む。

 ツキンと痛む胸。

 ごめんね。そんな顔させて。

 今、言うよ。

「約束を、果たしに来たの」

 顔に熱が集まるのに気づきながらも、口を開く。あれ。気持ちを言うのってこんな緊張する事だっけ。わたしがわたしじゃない。こんなの、知らない。

 でも、言え。言え。目の前の人は、わたしを見つけてくれたんだ。

「わたし「待って」

 一世一代の告白を隆太によってさえぎられた。

「了が好き、っていうヤツなら、今は聞けない」

「ちがう!」

「違くないでしょ?俺、ちょっと調子に乗ってた。沙良ちゃんが俺を好きかもって。白いスカート履いてきてくれて。俺のために洋服を選んでくれて。笑ってくれて。…でも、了に重ねてたんだよね?」

 隆太が力なく笑う。

「ごめん。明日からはちゃんとするから」

「やめて…」

「明日もちゃんと誘うよ」

「やめて!」

 大声をあげたわたしに目を見開く隆太。

 かまってられるか。

 わたしは精一杯気持ちを叫ぶ。

「調子に乗ってていいよ!好きなの!隆太が!待っててくれた隆太が!今日だって、本当は白いスカートは気付いたら持ってて、隆太の洋服選ぶの楽しくて、洋服選んでくれたことがすごい嬉しくて!昨日メール貰った時から、すごく楽しみだった!わたしは、隆太が好き…」

 そして、隆太がわたしを包んだ。隆太の心臓がバクバク言っている。

「俺、本当に沙良ちゃんの事が好きだから。だから了が現れたときすごくドキドキした。沙良ちゃんがまだ了のこと好きだったらどうしようって。でも、言ってくれてうれしい。一生かけて幸せにするから。…結婚してください」

 今までにない幸福感がわたしを満たした。

 ああ、幸せってこういうことを言うのか。

「はい…。大好きです!」

 隆太の腕がいっそう強くわたしを抱きしめる。

 わたしの頬を涙が伝った。

 今なら心から言えるよ。

 了、川崎さんとお幸せに。

 わたしは、あなた以上に愛する人を見つけました。

 ありがとう。さようなら。


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