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デート Ⅰ

「沙良へ

 

 明日は花の日曜日ですね!

 沙良の事だからどうせ暇でしょ?

 てことでどう?一緒に買い物でも行かない?

 俺の為に洋服見繕ってよ

 じゃぁ明日駅前に10時ね

 ちなみに俺白いスカートが好みだよ!

          

                隆太」


 こんなバカみたいなメールを貰ったのは、

 明日は日曜日!何をしよう!よーし、寝よう!明日ぐらいはあの出版社勤めのくせにボキャブラリーが少ないうるさいハゲの課長のことなんか忘れよう!

 とガラにもなくテンションを上げて布団にもぐりこんだ時だった。

 こんな時間になんだろ、とメールを開き、隆太からということに少しワクワクしながら読んだ。

 だが、隆太らしいと言ったら隆太らしい若干失礼な内容に小さく舌打ちが出る。

 どうせ暇って。

 わたしには友だちがいないように見えるのか。いや多いわけではないけど。見透かされてる所もすごく腹が立つ。

(でも、隆太からお出かけの誘いって初めてだ)

 そう思って、初めてのお誘いにまたほんの少しだけ、ワクワクしていた。


「隆太へ

 

 しょうがないから行ってあげる。

 遅れても文句いわないように!

         

               沙良」


 とかわいくないメールを打ち、待ち合わせには8時に起きれば十分に間に合うのに、知らず知らずのうちにわたしは目覚ましを6時にセットしていた。


 次の日。

 わたしは目覚ましが鳴る前に起きて、そのままアラームを切った。

 いつもは寝起きが悪いわたしだが、今日はなぜか頭がすっきりしている。

 隆太と待ち合わせが楽しみなわけではない!

 と、言い訳をしながら迷うことなくクローゼットに直行した。

 今日は何を着ていこう、とガサゴソとクローゼットを漁り、取り出したのは白い純白のスカートだった。

 そのスカートを見つめること数十秒。

「もうっ!なんなのよ!」

 わたしは昨日の隆太からのメールに書かれていた「白いスカート」を無意識のうちに探していた自分が恥ずかしくなって手に持ったスカートを床にたたきつけた。

 異性からお出かけに誘われたのなんて初めてじゃないのに。すごく早起きしている。相手の好みの洋服を探している。メイクだって頑張ろうとしている。

「違う…。こんなの、わたしじゃない…」

 わたしはノロノロと立ち上がった。

 いつものわたしに戻らなきゃ。

 気持ちをシャキッとさせるためにまずは着替えよう。

 床から拾い上げた白いスカートを見る。

「別に、今日はたまたま白いスカートの気分なだけ。わたしだってスカートくらいはくわ」

 本日2度目の言い訳をしてトップスを見繕って、白いスカートにおそるおそる足を通した。

 そして、メイクも

「仕事用のメイクばっかじゃ飽きちゃうから」

 と、よくわからない言い訳をして派手に見えないくらい、だけどいつもより入念にメイクをして、お気に入りの靴をわざわざ箱から出して足を入れた。


 待ち合わせ場所についたのは9時50分だった。

 隆太より早くつく自信があったのに、駅にはすでに隆太の姿があった。

「あ、おはよう沙良!」

 朝だというのに元気に手を振ってくる隆太。

 それが何故だか嬉しくて。

 わたしも小さく手を振り返した。

「早いわね」

「はは。楽しみでね!沙良、今日その白いスカート、似合ってるよ!」

 どこか少年の面影を残す無邪気な笑顔でわたしが喜ぶことを言う。

 こんなところにいろんな女性がハートを鷲掴みされたのだろう。

「もしかして、昨日の俺のメール?」

「違うわよ。クローゼットの1番前にあったのが白いスカートだったの」

 期待を込めた目でわたしを見るが、わたしはふい、と顔をそらして意地を張ってしまった。

「なーんだ」

「残念でした。それで、今日はどこ行くの?」

「洋服欲しいからさ、ちょっと付き合ってよ」

「わかったわ」

「ありがと」

 私服に結構お金を使うらしい隆太が入るお店は入るだけでも結構勇気がいるようなすごくお洒落な店がほとんどだった。値段も結構する。

 そんなお店で、

「これはどう?あっ、こっちもかっこいいな。ねぇ、沙良はどっちがいい?」

 とか聞かれても正直、困る。

 わたし自身、人よりセンスはある方だが、こんなお店でしょっちゅう買わない。

 だから、

「どっちでも…」

 と答えるしかない。

 わたしの答えに隆太は不満げに顔をしかめる。

「真面目に答えてよ」

「だ、だって、こんなお店で買い物したことないもの。どれも素敵だし、両方似合ってるわよ?」

 すると隆太は、とたんに笑顔になり、

「本当?じゃあ、これ両方買っちゃおーっと」

 とその場にいた店員に持っていた洋服を預けてしまった。

「え?いいの?」

「うん。沙良が両方似合ってるっていうから両方欲しくなった。俺、どっちにしよっかな、どっちも欲しいなって思ったら両方買っちゃう人間だから」

 このときわたしが危機感を持ったのは言うまでもないだろう。

 この男はわたしが「似合う」と言ったらルビーの指輪も買いかねない…!

 その後も隆太は2,3軒の店をまわり、女子並みの荷物を抱えることになった。

「郵送にしてもらえば良かったかも」

 洋服自体は重くないが、かさばるのが洋服。

 隆太も重そうではないが、邪魔くさそうに洋服を見た。

「コインロッカーにでも預ける?」

 というわたしの提案で近くのコインロッカーに預ける。

 1つでは入りきらなかったので2つのコインロッカーを隆太の洋服で占領してしまった。

「あー、楽!」

 解放感に腕をグリングリン回す隆太。そのさまがおかしくてクスクス笑ってしまった。それに気づいた隆太が口をとがらせる。

「なに笑ってるんだよー」

「別に笑ってないわ」

「嘘つけ!」

「嘘じゃないわ」

 2人でクスクスと笑う。

 隆太はわたしにも洋服を買いたかったようで、わたしにいろいろな洋服を試着させた。ただ、隆太が選ぶのがワンピースと白いスカートがほとんどだったのが気に食わない所だったが。

 隆太が、

「俺、こんな洋服も好み!」

 とキラキラした顔で白い超ミニのワンピースを持ってきたときは、無言で平手打ちをくらわした。どこから持ってきたんだか。

 隆太の欲望で私にプレゼンとされたのは綺麗な白いワンピースだった。なんでも、わたしに1番似合っていたらしい。

「次のお出かけはそれ着てきて!」

 グッ、と親指を突き立てて、達成感でいっぱいの隆太の言葉に

「次があったらね」

 と、テレも隠れた言葉を返す。

 そして

「…ありがとう」

 隆太は少し顔を赤くして

「どういたしまして」

 と、笑った。


 でも、事件は起きた。



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