葛藤1
大介の言葉を受けて謙二がすかさず、
「じゃあ、2人加わると合宿の費用も7で割ることになるのかい」
と確かめると。
「そうだな、大介どうすべきかな」と実も慎重な言葉を選んで応える。
「うん、そこはきちんと仲間意識を高める上でも
みんなと一緒にすべきじゃないかな。
むしろ女同士の方がうまくいくかどうかが問題だと思う」
そんなことはどうでもいいだろといった表情のユキチは、
「初めから現場に立ち会わせることはとても意義があると思う。
さらにコーラスで参加させたり、ミキシングのやり方とか、
あたいたちが教えられることは出し惜しみしないでやろうじゃないか。
そうすれば彼女たちだって意欲が湧くし、新しい発見もあるはずさ。
ユカ、おまえはどう思う」
「そうね、どうせ加わるなら対等な立場が一番だし、
よそ者みたいな感じたと私たちにとっても負担になるわ。
こちらから心を開いていけば
すんなりと輪の中に入っていけるんじゃないかしら」
一通り意見が出そろったところで実が話をまとめに入った。
「そうだな、10万円を7で割ったら15000円弱くらいだ。
これなら俺たちも親のスネをかじらないで済むと思うんだ。
どうだろう、みんなでアルバイトをしてみないか。
引越しのアルバイトをしている先輩がいるんだけど、
彼の話だと男ばかりじゃなく、
女性たちも活躍できるフィールドがあるそうだ。
ちょっと体がきついかもしれないが、
バイト代も結構高いし、
3日から4日もやれば15000円ぐらい十分稼げるんだ。
夏休み期間は特に需要が多くて、
人がいくらいても足りないそうだ」
「女は何をするんだ」
「ユキチ、食器や小物などの梱包とか、後かたずけや掃除ってところかな」
「じゃあ、洋子たちに連絡しなければいけないな。実、いつから働けるんだ」
「そうだな大介、早速先輩を捕まえてみる。
だから今日中に彼女たちの都合を聞いておいてくれ」
「わかった、じゃあ今から電話してみるよ」
と部屋を出ようとする大介とユキチの視線が交錯した。
とっさに彼女は軽くウインクをして、
優しい表情を浮かべていた。
頑張って、という合図だったのかもしれない。
自分のわがままを受け入れてくれたユキチの大きさに、
大介は感謝してもしきれないくらいの気持ちだった。
本当にこれでよかったのか、
という判断もつかないまま
洋子と説子の話を切り出してしまった。
だが、大介に後悔はなかった。
ユキチと洋子にはこそこそするより
正々堂々と向き合っていくと決めたのだ。
彼女たちのひたむきさや溢れる想いが
大介のハートに火を点けた。
日々の生活こそが彼らドラマであり、
これから先のシナリオはまだまっさらなままである。
つまずいたり、ときには行き場もない試練に
立ち向かわなければならないかもしれない。
しかし、どうせ転ぶなら前を向いて転びたい、
というのが大介の本心だった。
嘘偽りのない自分、未完成で頼りない部分もあるだろう。
だけど、どんな状況に陥っても
自分からは決して逃げたりしない、と誓ったのだ。
そんな決意を固めて洋子のアドレスを大介は呼び出した。




