障壁5
今回はストーリーを離れ、
少し真面目な話をしよう。
音楽というのは不思議なもので、
人間同士の付き合いが深ければ深いほど、
サウンドの厚みに格段の変化を生む。
あなたも異性に興味がある人との付き合い方と、
関心すらない人との付き合い方では、
心の持ちようが全然違うことが理解できるだろう。
相手のことを好きになればなるほど、
もっと知りたいと願うはずだし、
相手に興味が湧かなければ、
どうでもいいだろう。
この感情の違いはとても重要で、
音楽家で成功したいと思ったら、
どうしても関心を持ってもらわなければならない。
足がかりは、音楽性からでも、
アーティスティックな面からでも構わない。
個性を強調し、セールスポイントを引き出して、
魅力につなげていくなどの努力が必要だ。
これは音楽に限った話ではない。
例えば的に照準を当てて銃を撃つときと
何も的を絞らないで銃を撃つ場合を比較してみよう。
照準を当てている場合は、
少ない球数で、的確に的に当たる確率が高くなるが、
それに比べ的を想定していなければ、
無駄玉ばかりで、 あてずっぽうにしか当たらない。
これは音楽を作る上でも重要な考えだし、
文章を書く場合も必須で、
また、ビジネスで無駄を省き
いかに利益を上げるか、というプロセスでも
とても重要な考え方である。
つまり、誰に聞かせ。誰に読ませ。
どういうビジネスをするか、という対象が明確でなければ、
無駄が多く、価値が上がらず、効果も上がらないということだ。
相手を明確にすることの重要性。
この考えをよく覚えておいてほしい。
そしてここからが問題なのだ。
一つ質問をしてみたい。
あなたは今お金を払ってまで音楽を聴きたい、
と思っているだろうか?
レコードプレーヤーからカセットテープ、
CDプレーヤー、そしてスマートフォン。
音楽をめぐる生活環境は随分様変わりした。
今までは音源に対し、
その対価としてお金を払うことが当然だった。
しかし、今は無料で手に入る環境がある上、
音楽自体にさほど興味を持たない若者が増えてきた。
これは非常に由々しき問題で、
元々興味がないのだから手のつけようがない。
一生懸命いい曲を作っても商売にならない。
CDを売るために握手会やサイン会などの
特典をつけなければセールスに
結びつかない世の中になってしまった。
信じられないことだが、
タレントと一緒に写真を撮ることや、
サインをもらう対価として同じCDを
複数枚買わせることが堂々とまかり通っているのだ。
同じCDを4枚も5枚も買ってどうしろというのだ。
したがってランキングに上がってくるのは、
なになに48グループみたいなアイドルという悲惨な状況である。
総選挙で得票を上げるために
同じCDを何百枚買ったとしても、
彼らは被害者ではない。
好きなアイドル(女性)のために、
自分の情熱を表しているに過ぎない。
今、テレビも見ないし、ラジオも聞かない、
そんな新人類が増殖し始めている。
したがってメディアの影響力が落ち、
広告が広告でなくなり、
媒体としての価値も下がり、
ものを買いたいという意欲も薄れていく。
私がいいたいのは、人間として生まれてきたら
音楽は水みたいなものだ。
必要不可欠でなくてはならないし、
空気と同じくらい重要である。
もし、スパイスがなかったら、
美味しい料理は作れない。
これは人間も同じで、音楽がなければ、
恋愛も味がないし、心の平安も保てない。
傷ついた心を癒すには、信頼の厚い人の助言も効果があるが、
何より自分の好きな音楽だけが最良の薬となる。
私が音楽を舞台にした小説を書くのは、
どうしてもみんなに気づいてほしいこと
がたくさんあるからだ。




