障壁4
「みんな、合宿をやってみないか」
と実が唐突に話し出した。
居合わせた者たちは、
冗談でもいってるかのように
ぽかんと口を開けていたが、
彼の顔は真剣そのものだった。
実がこんな発言を
したのもちゃんと理由があった。
まずはメンバー全員の
やりたい音楽を知ること。
そこからどういう方向で
やっていくのか、を探ること。
そして付き合いを密にすることで、
連帯感を生むことである。
高校生になってから4ヶ月、
これからずっとこのバンドで活動するには、
不満を持たないことが重要である。
だから実はコミュニケーションを深めたかったのだ。
そして、
「合宿先も調べてみたんだ、
山中湖の施設ならみんなで雑魚寝して
一部屋素泊まりで5000円ぐらいだし、
昼間スタジオを使い倒しても
20000円あれば十分お釣りがくる。
飯を自炊すれば全員分で
1日5000円以内には収まるだろう。
2泊3日で3倍にしても
10万円以内の予算で済むんだ」
「みんなで一部屋なのか」とユキチが確かめると、
それに対して実は、
「たまにはみんなで雑魚寝もいいだろう」
ユカは不満な表情をあらわにして、
「女には男に見られたくないことがたくさんあるんだから」
というと、
実は笑って、
「着替えなら男はみんな部屋を出るし、
仕切りを頼んでできるだけ区別するさ」
それでもどうしても収まらない顔のユキチは、
「寝顔やパジャマ姿なんてお前らに見せたくねえよ」
「いいじゃないか、
気になるのははじめだけですぐに慣れるからさ」
と実はあくまでも1部屋にしたい方針である。
ここで大介が切り出した。
「男3人に女2人だから問題になるのさ。
俺の中学時代の同級生に
霧島洋子と大島説子というのがいて、
何か俺たちの手伝いをしたいといってるんだ。
どうだろうそうすれば女が4人になって、主導権を握ったらやりやすいだろ」
「大介、いったい何よその2人」
とユカが何かを察知して大介に問い詰める。
「隠してもしょうがないから正直にいうよ。
霧島洋子は中学時代に俺と付き合っていた女の子で、
もう1人は彼女の仲のいい友人だ」
「ユキチ、そんな人たちと仲良くするの」
と大介の言葉が信じられないといった表情のユカ。
大介はそれでも平然と語り始める。
「みんなも知っている通り俺はユキチと付き合っている。
彼女ことが大好きだし、波風を立てるのは本意じゃない。
だけど迷っているんだ。
洋子は俺のことをとても信頼してくれているし、
ユキチの存在もわかっている。
それでも俺と一緒にいたいという彼女の気持ちを、
どうしても無下にできないんだ。
確かにハタから見ればバカみたいだけど、
正直今どちらかを選べといわれても、
選ぶことができないんだ。
みんなに迷惑をかけるかもしれないが、
サポートメンバーとして迎えてもらえないか」
「大介、楽器はできるのか」
実がキツイ表情になって確かめる。
「いや、全く出来ない」
「それじゃ、どうしようもないじゃないか」
「例えば楽器を運ぶ手配をしたり、
今回のように合宿の運営に当たったり、
プロフィールとかバンドの活動報告
みたいなフリーペーパーを
作ってもらうのはどうかな」
「なるほど、マネージャーみたいなものか」と実。
ユキチは悟ったように、
「いいじゃないか、みんな。あたいからも頼む。
大介だってやりずらいのを承知で頼んでいるんだ。
それに女が増えるのはいいことだろう。謙二、違うか?」
「はい、おっしゃる通り」
「よし、実はどうだ!」
「みんながいいなら俺が反対する理由がないさ」
「決まりだな、大介。じゃあ、合宿のプランと手配を早速頼もうか」
「みんなありがとう」
大介は深々と頭を下げた。




