障壁2
「実、それは一体どういうことだ」
ユキチが声を荒げる。
「いやなに、たいしたことじゃないんだユキチ。
俺たちのバンドのレベルで所詮CDを出したとしても
たいして売れないだろう。
今回は路上ライブという前提があったから
CDを作る意味があった。まあ、ライブで演奏を繰り返せば、
たとえ、どんなに野暮な曲でも10枚ぐらいはさばけただろう。
だけど、俺たちもコピーから脱却して
どういう音楽性で行くのか、
煮詰める必要があるんじゃないかと思ったんだ。
路上ライブをしないなら、
夏休みの間にみんなでよく話し合えるだろうからさ」
実は、このときバンドの将来を見つめていた。
特にユキチの魅力をどうやって引き出し、
どのようなプランにのっとって、
これから売り出していくかが、
新生DEAD PEOPLEの躍進に繋がると考えていたのだ。
しかし、反対にユキチは
他のバンドメンバーのことを考えていた。
確かに好きなハードロックだけでは
今の時流に乗っていくことは難しかった。
今さらディープ・パープルだけ演奏していては、
ついてくるファンも限られてくるのは当然であった。
彼らに不足していたことはビジネスという視点である。
無理もない中学時代から音楽をやってきたとはいえ、
年齢も15歳そこそこの若者たちが、
プロデューサー的思考や
プロモーション感覚を身につける
こと自体無理があった。
お金もおこずかいでの金銭感覚しかなく、
10000円以上はほとんど持ったことがないから、
しかたないといえば仕方がなかった。
部屋の中のメンバーたちは、
これから先どう活動して行けばいいのか、
ヒントすら思いつかなかった。
やがて実が沈黙を破る。
「みんな、パソコンを持っている奴はいるかい」
この問いに首を縦に降るものは1人もいなかった。
さらに、
「携帯のインターネットで
検索はみんなもよくするだろう。
これからの音楽業界はyoutubeの
プロモーションが避けて通れない。
無料であれだけのコンテンツが
見放題なのに活用しないなんてバカだぜ。
それにユキチの容姿を最大に生かせると思うんだ」
と語気を荒げた。
するとユキチが不服そうに口を開いた。
「実、あたいたちの音楽性はどうでもいいのか。
顔やスタイルが少しぐらいいい女なんて、
この世の中に掃いて捨てるほどいるじゃないか。
そんなもん一時は気をひくかもしれないが、
これから5年や10年活動を
続けられる要素とは到底思えねえ」
同じ女の立場になって小西ユカが話に割って入った。
「男の立場だったら女の子は
かわいいに越したことがないかもしれないけど、
女の立場からいわせてもらうと、
外見だけで判断する男なんて最低よ。
だって私たちは人形じゃなくて、悩んだり、
傷ついたりして、生きているのよ。
女の武器は顔や肉体じゃなくて、
ハートなのよ。
今の男はみんな不甲斐ないから
女はなかなか心を開くことができないの。
この人だと決めたら命を賭けることができるわ。
だから外見だけで寄ってくる
男なんてどうでもいい、価値がないわ。
ユキチは誰からも愛されるキャラクターだから
ビジュアルじゃなく、魂で売ってほしい」
「ユカ」
とユキチは表情を少し赤くしながら、
うなずいているように見えた。




