さざなみ3
指定席の新幹線は
乗り心地もとても快適で、
1時間ちょっとの時間は
瞬く間に過ぎていった。
広げたお菓子類も
まだまだ相当残っていが、
軽井沢駅に到着しますの
アナウンスとともに荷物の
片づけをしなければならなかった。
謙二だけは自前の
パーカッションを持ち込んだ
ため、カバンが膨れ上がっていたが、
他のメンバーたちは大体リュック
ひとつという身軽さであった。
みんな荷物を担いで扉付近まで
移動して、流れる風景を見ながら
ホームに新幹線が着くのを待っていた。
停車して扉が開くと、心地よい
風がみんなの頬を撫でる。
そしてロッジ風の駅の改札
を抜けると、道路に面して
広々とした街並み
が飛び込んできた。
洋子が周りを気にして
キョロキョロ見回しながら、
「コテージ共栄という
マイクロバスが止まっている
はずなんだけど、
みんな探してくれる?」
というと。
一点に注目したユキチが、
「あそこに止まって
いる白い車じゃねえか?」
と叫ぶ。
洋子が確かめて、
「うん、アレよ!
さすがはユキチさんね。
みんな急ぎましょう、
お昼ご飯が遅くなるわ」
と、一同がゾロゾロ毛虫のように
一団で歩いて運転手に声をかける。
「すいません、コテージを
予約した霧島ですけど…」
「あっ、はい。お待ちして
いました。どうぞお乗りください」
と少しハゲかけた頭の
おじさんが頭を下げる。
続けて洋子が、
「すいません、コテージのそばで
昼食をとりたいんですが、
いい店はありませんか?」
それを聞いた運転手は、
「ああ、ありますよ。
信州そばなんかどうですか?」
「いいですねー、
どれくらいで着きますか?」
「20分ほどです」
「わかりました、
みんな乗りましょう。
ではお願いします」
それを見届けた運転手が、
「みなさん東京の方ですか」
「はい、品川区
って知ってますか?」
「僕は福島出身
なんでよくわかりません」
「大井競馬場なんて
知りませんか?」
「その競馬場だったら
聞いたことがありますね」
「最近は場内が広くて綺麗だから、
デートスポットとしてカップルが
競馬を楽しんでいるみたいですね」
それを聞いた大介が、
「洋子、競馬場なんて
行ったことがあるのか?」
「うん、小学生の頃お父さん
に連れて行ってもらったの。
パドックで初めてお馬さんを
近くで見たとき、あまりにも
綺麗な毛並みだったから、
すごく驚いた記憶があるの」
「みなさん、軽井沢にも
競馬場の跡地があるんですよ。
最終日にお連れしましょうか?」
「そうですね、17時過ぎの帰りの
新幹線に間に合うならいいですよ」
「いいな!」と突然
ユキチが横やりを入れると、実も、
「賛成、へえ~昔
軽井沢にも競馬場があったんだ」
「はい、とても緑が
綺麗なんでいいと思いますよ」
「ありがてえー」
とユキチが少し
興奮気味に話すと。
大介が、
「洋子に幹事をやって
もらって本当によかったよ」
とにこやかにねぎらうと。
洋子は、
「少しは見直してもらえるかしら」
と自慢顔。
そのあと
「はは~」と大介は
ひれ伏しながら頭を下げ、
「お見それいたしやした」
と続けてみんなの笑いを誘っていた。




