幻想4
今度引っ越してきたマンションは
前と同じ5階建てだったが、
エレベーターが設置されていて、
引越しを行う作業効率も良く、
目の前にトラックを止めておいても、
通りの幅に十分な余裕があった。
午前中は降り止まなかった雨も
午後には雲の間から薄日が差し、
空気は見違えるように澄んでいた。
503号室の斎藤さん宅
に着くと、渡辺の表情は明らかに
薄紅色になり、期待に胸を
膨らましているのがわかる。
大介は彼の生真面目さ
に好感を持ったが、
肝心の女性に伝わるか、
といえば、意識されなければ
なかなかわからないはずである。
渡辺がインターフォンを押した。
「はい」
と斎藤の明るい声
が聞こえてくる。
渡辺が、
「引越しサービスです」
と返答すると、
カチャっと扉が開いた。
「もう荷物を運ん
でもかまいませんか」
というと、
「大丈夫です」
と斎藤が笑顔を浮かべている。
渡辺が、
「一様、部屋の中を
拝見してもかまいませんか?」
と確認すると、
「かまいませんよ」
という問答が
あったところで、
大介も部屋の中へ入って行った。
玄関に入るとすぐ横に
大きな下駄箱があり、
靴を脱いで部屋に上がると、
すぐにキッチンがあり、
奥には縦長の6畳の部屋。
そして傍に備え付けの大きな
クローゼットが配置されていた。
「おい、新人。
クローゼットの横に
洋服タンスを置くぞ」
「はい、わかりました」
と2人は下から次々と
荷物を運んで来る。
渡辺は意気軒昂
で活気に溢れ、
大介は余りにも
速いペースに圧倒されて、
「先輩、少しスロー
ダウンしてください」
といっても、
「何も聞こえないぞ」
とますますスピードが速くなる。
「急いでどうするんですか、
そんなに早く彼女と
別れたいんですか」
とクギを刺すと、
ピタッと足が止まって。
そして、
「今度余計なことをいったら
ただじゃおかないぞ」
と脅しても、
大介は、
「先輩、大切なのはKYですよ」
「馬鹿やろ!俺に
必要なのはYK(勇気)だ」
と叫ぶが、
意味がわからない大介は、
「空気を読むの反対
の意味って何ですかね」
と投げ返す。
渡辺は、
「本当にデリカシーのない奴だ。
彼女に聞こえちまうから
もう少し声を抑えろ」
「はいはい、わかりました」
といったとき、大介の手が
滑って冷蔵庫を床に落としてしまった。
渡辺は目尻を釣り上げ
怖い形相で大介を睨む。
「お前、甘くみるんじゃねえ。
どんな荷物であっても、最新の注意
を払って運ぶことが俺たちの仕事だ。
傷つけたり壊したら2度と
元に戻らないんだからな」
と激しい言葉でいい放つ。
「すいませんでした」
と大介は謝るが、殺気立つ
ほど渡辺の表情が怖かった。




