幻想2
「先輩、料理は
お母さんが作るんですか?」
「そりゃ、そうさ」
「朝食は和食ですか?」
「朝にパンなんて食ったことがねえぜ」
「じゃあ、お母さんが早起きしてんだ」
「いや、ご飯なんて前の晩セット
しときゃすぐ炊けるじゃねえか」
「じゃあ、焼き魚みたいな
おかずがあるんですか」
「いや、生卵にやきのり、
お新香に味噌汁ぐらいだ」
「え、おかずがないのに
早食いなんですか?」
「あったぼうよ、時間がねえからな」
「じゃあ、今日から一口最低
20回は噛んで食べてください」
「なぜだ」
「よく噛むことによって
満腹中枢が刺激されて、
より少ない量で満足する
ようになるんです。
先輩の食事の量をかなり
抑えられるはずです。
ダイエットしている人には
当然ある知識なんですよ」
「バカ野郎、俺にダイエットだと」
「先輩、今はいいけど人間は年を
とると新陳代謝も悪くなるし、
内臓にも負担がかからないように
すれば病気の予防にもなりますよ」
「それが女に相手にされない
のと、どう関係するんだ」
「先輩、食事の食べ方で
どういう暮らしをしているのか、
だいたいわかるんです」
「ガッついてせわしない
ことがなぜ問題なんだ」
「真心を込めて一生懸命に
作ったのに、味わいもしないで
食べられたらどう思いますか」
「どんな問題があるっていうんだ」
「食事をするときは
会話が重要なんですよ」
「なんでだよ、食べてたら
話す必要がないじゃないか」
「先輩の家でも家族が
揃って食事をするでしょう。
団欒の意味がわかりますか?」
「ワイワイ仲良く
やるのと違うんかい」
「親しんで楽しむって
意味があるんですよ。
せっかく一緒に食事をして
楽しめなかったらどう思いますか」
「一緒に食事をしたく
なくなるわけか?」
「自分さえよければいい、
という考えは通じませんよね。
だって毎日のことですから」
「なるほどな」
「人間にとって話すことは
スパイスと同じなんです。
つまり誰と一緒に食べるか、
もとても重要で、料理も人に
よって美味しくもなり、
まずくもなるんです。
食べることの重要性が
わかってもらえましたか?」
「しかし、そういわれても
すぐには直せねえぜ。
今まで育ってきた
歴史があるからな」
「食事をするときに
このことをいつも思い出すだけで
まるっきり変わってきます」
「おめえのいいたいことはよくわかったよ。
だけど直すかどうかは俺が決めるぜ」
「それは構いませんよ、
でも斎藤さんに好かれ
たかったらすぐに直すべきです」
「すぐに一緒に食事が
できるはずないだろ」
「そんなこと心がけ
次第ではわかりませんよ」
「おめえ、本当に高1か?」
「今後のこともある
じゃないですか?
街で偶然会うかもしれない。
だって利用する駅は
わかっているんですから」
「おめえ」
「あとは渡辺さん次第ですよ」




