障壁1
201◯年8月上旬のある日。
この日は朝から最低気温が高く、
午後からかなり蒸し暑くなることが予想されていた。
アブラゼミやツクツクボウシたちの自分勝手な
コーラスがいよいよ佳境を迎え夏本番に差しかかっていた。
今日は新生DEAD PEOPLEのオリジナル曲を
録音するという記念すべき日。
午前10時までに続々とメンバーが松本の家に集結し、
これからどのような手順で進行することになるのか、
バンドのメンバーそれぞれが期待に胸を膨らませて談笑していた。
最後にユキチが部屋に入ると、
一斉に視線の集中を浴びた。そして開口一番、
「なんだよ!」といつも通り彼女の口の悪さが、
かえってみんなの緊張感を一掃することになった。
矢継ぎ早に実が現れて大きな声で切り出した。
「みんな、暑いのによく来てくれた。
冷たい飲み物を用意したから遠慮せずに飲んでくれ。
さっそくだがユキチと大介、作詞は出来上がっただろうな」
その言葉を待っていたかのように表情を硬くしてユキチが答える。
「すまん、どうしても納得のいく作品にはならなかった。
最後の最後まで頑張ってみたけど、とても
デビュー曲にふさわしい代物ではない」と伏し目がちに語った。
大介もセキを切ったように続いた。
「やっぱりもっとコンセプトとか、十分に内容を
煮詰めてからでないと作業が思うようにいかないんだ。
俺の力不足もあるけど、ただまかされても、
今の状態ではとても胸を張って発表できない」
と申し訳なさそうに話す。
それを受けて実は、
はじめから2人の言動を察していたかのように、
「実をいうと、俺はこの1週間、路上ライブの現状を調べていたんだ。
正直いって路上で音楽活動することはとても厳しい状況だ。
もう都内では俺たちの思い通りに演奏する場所がない。
JR川崎駅なら演奏できるという情報を掴んで行ってみたけど、
演奏していた2組は30分もしないうちに
警察官が来て中止を余儀なくされた。
取り締まりがとても強化されているんだ」
と結ぶと、大介が絶望的な顔で、
「そんなに厳しいのか」とポツリとつぶやく。
さらに実は続ける。
「俺たちが相手にするのは音楽を聴いてくれる仲間であって、
警察官ではない。彼らは俺たちを騒音を撒き散らす
ゴミぐらいしか思っていないんだ。
だから、彼らに盾をついても無駄だ。 なんのメリットもない」
そこで小西ユカが唐突に口を挟んだ。
「じゃあ、路上ライブを諦めるしかないんだ」
それを受けて実が、
「うん、千葉の柏駅周辺と
吉祥寺の井の頭公園なら登録すれば演奏できる。
だけど未成年の場合、親の承諾が必要で、
また前もって申請をしなければならず、
俺たちの目指すハードロックは問題外といっていい。
またヘブンアーティストという東京都が認める
大道芸人公認制度もあるにはあるが、
これもまた俺たちの活動は理解してもらえる内容ではない」
「じゃあ、やり方を変えないといけねえな」
とユキチが口を尖らす。
そして、
「路上ライブができないなら曲作りを焦ることはないよな。
実、これからどうするんだ」
それを聞いて実の表情が引き締まった。
「うん、11月にうちの高校でも文化祭があるはずだ。
それに照準を当ててオリジナル曲を作ればいいんじゃないかな」
と打ち出した。




