接触5
大介もこの日はとても忙しかった。
これから当分の間、自分の部屋で
洋子とギターの練習をするため、
部屋を片づけなければならないのだ。
もちろん、目につかないように
エロ本をどこか見つからない場所へ
隠さなくてはならない。
最近は、はたきなど使ったことがないので、
ギターアンプやテレビはホコリまみれだ。
そこへ姉の久美子が大介
の部屋の扉をノックもせずに開けた。
「今日からしばらく洋子ちゃんと
2人きりなんだって。
母さんも私も昼間は仕事
でいないから子供を作っちゃダメよ」
「バカヤロ、バイトだってあるし、
そんなことより音楽が優先だ」
「あら、男の理性なんて金魚すくい
の紙みたいな効力しかないわ」
「姉貴はそうやって
欲望を受け入れるのか」
「バッカじゃない、
そんなわけないでしょ」
「姉貴でもそうなんだから、
洋子はもっとしっかりしてるさ」
「でも心から好き
だったら別じゃない?」
「何がいいたいんだ」
「洋子ちゃん、大馬鹿に一途だからよ」
「俺たちには目指しているものがあるんだ」
「そんなものウインク一つで
いくらでも変えられるわ」
「俺を愛してくれる別の女性もいるんだ」
「なんかいってたわね、
福沢諭吉とかいう女の子だっけ?」
「福沢夕子だ」
「最低ね、二股かけてるの?」
「本当に何度説明すりゃいいのさ。
たまたま俺を気に入ってくれた
女の子が2人いるだけで、
隠して付き合っているわけじゃない。
同じバンドでやっていこう
と思っているのにコソコソ付き合う
わけないじゃないか」
「だったらちゃんと責任を
持った行動をするのよ」
「ああ、いわれなくてもそのつもりだ」
「少しは男らしいじゃない」
「姉貴はどうなんだよ。
女子だけの短大に行って面白いか」
「あら、うちの大学は横のつながりがすごいのよ。
早稲田や慶応に上智、どこのサークル
にでも入れるんだから」
「男漁りか」
「馬鹿ね、男を見る目を鍛えているの。
いろんなタイプの男を見て
おいたほうがいいでしょ」
「向こうが相手にしてくれ
なかったら意味がないじゃないか」
「大介は本当に子供ね。
だからどう付き合うか、
勉強しているんじゃない」
「ふーん、姉貴処女か」
「お前にいうわけないだろ」
「別にどうでもいいけど、
どんな男なら躰を許す気になるんだ」
「知りたいの?」
「ああ」
「変なことに使い
そうだから教えてあげない」
「ケチ!」
「エロ本は本棚の奥にしまっちゃダメよ」
「なんでわかるんだ!」
「あんたとの付き合いは
16年になるんだから」
「もうバイトの時間だろ、
さっさと行けよ」
「健闘を祈る」
「どういう意味だよ」
「誰が必要か、自分の心は
自分だけにしかわからないのよ」
「姉貴はわかるのか?」
「私も勉強の最中かな」
「安心した。今度彼氏を連れて来なよ」
「やだよー、誰がお前なんか
に見せるか。じゃあ行ってくるね」
「気をつけて」




