接触4
次の日、洋子は朝から機嫌がよかった。
半袖のパジャマのまま洗面所で顔を洗い、
その足でキッチンに向かった。
そこでは母の早苗がアジの開きを
ガスレンジで焼きながら、
大根をおろし金で
必死になってすっていた。
その姿を見て私が何事
にも手を抜かないのは、
きっと母の子供だから
と1人で納得しながら
彼女は母親に声をかけた。
「今日の味噌汁の具はなに?」
すると、
「あなたの好きな大根よ」
「あーー、手を抜いてる。大根おろしと併用!」
「いいじゃないの、大根は肌にいいし、
新陳代謝も上がるからダイエットにも効果があるのよ」
「さすが栄養士の免許があるだけに
ウンチクではかなわないわ」
「ほら、いつまでも立ってないで席に座るんだったら、
さっさと座ったら。そうだ生卵、ご飯にかける?」
「うん、もちろん焼き海苔もあるわよね」
「和食しか受けつけないお父さんが
食べるんだからないはずないでしょ」
「そうよね〜、私も結婚したら旦那さんに毎朝和食
を食べさせる。バランスが絶対いいもの」
「洋子、そろそろお父さんを起こしてきてちょうだい」
「えーー、朝ものすごく不機嫌なんだから。
昨日も帰りが遅かったんでしょう」
「そういわずに、洋子なら
私が起こすよりマシだもの」
「でもお母さん、父さんのどこに惚れたの?」
「誠実で真面目なとこかな」
「えーーー、そうなの。
そういうタイプつまらないと思うんだけど」
「ラブレター50通くらいもらったし」
「私はゴメンだわ。ストーカーじゃない」
「でも、今と違って昔は携帯なんかないでしょ。
だからデートの待ち合わせをしていたときに
用事が出来てどうしても2時間遅れたことがあったの。
そのとき怒られるのを覚悟をしてたんだけど…。
そしたら何かあったんじゃないかって
逆に心配してたみたいで、
顔を合わせたとたん目が真っ赤だったの」
「それで」
「早苗無事だったかって、抱きついてきたの」
「それで抱きしめあったんだ」
「ううん、とっさに逃げたら
お父さん、前のめりになって転んだの」
「あら!」
「鼻血は出すし、膝は擦りむくし」
「一体どこがよかったのよ」
「でも、いつも私のことを
第一に考えてくれたから」
「それいつ頃?」
「高3だったかな」
「もっとカッコいい人
たくさんいたんじゃない」
「うん、私は高校を卒業してから
秘書になるための専門学校に行って、
お父さんは2流だったけど
大学に進んで一旦は別れたの。
でも社会人になってみて
お父さんみたいに
誠実な人はどこにもいなかった。
みんなカッコつけて
外面ばかり良くて
いい加減な男ばかり。だから
人間不信になってしまったの」
「それでそれでどうなったの」
「ある日、会社の帰りに
電車の中で偶然再会したの」
「へ〜、運命感じちゃったんだ」
「うん、私涙が出てきちゃって
何もしゃべれなかった。
お父さんバカだから、
それを見てハンカチ渡してくれたけど
汚ったないの。
思わず鼻かんじゃった」
「最悪じゃない。
どうしてそこから結婚するの?」
「そのとき、家まで送ってくれたのよ」
「じゃあ、そこでプロポーズされたんだ」
「うん、君以外の女性を好きになれないって」
「それにしちゃ、お父さん。
お母さんに対して威張ってるわよね」
「それでいいのよ。
さあ、起こしてきて」
「はーい」
そのときの食卓は、色とりどりの
料理が並び、とても華やいでいた。




