胸の大きさは絶対なる戦力差らしいぜ
左を向けば、ぷるん。右を向けば、ぷるるん。
前を向いても、後ろを振り返っても、ぷるるんのるん。
正直、目のやり場に困って仕方がない。毎日毎日、同じ光景を目の当たりにしているが何時まで経ってもなれないのは男の性であろうか。慣れたくないとは思ってはいるが、この時間になる度に前屈みになってしまうのは情けなく思えて仕方がない。
いや、けどね。男ならば目の前の桃源郷を目の当たりにして前屈みになるのは仕方がないんと思うんだ。同じ男として今の光景を目の当たりにして前屈みにならない男はいるのだろうか。いや、いるはずがない反語。
「ちょっと。あんた、また少し大きくなったんじゃないの!?」
「わかる? 前の模擬戦で一つ上のランクの人に勝ったのよ。おかげでFランクにアップだわ」
自慢げに胸を張るツインテール少女。その時に彼女の見事な果実が盛大に上下に揺れたのであった。対してポニーテール少女は自分の双丘を口惜しげに揉みながら、自分と彼女の戦力差に溜息を零すのみ。
貴女も素晴らしいものをお持ちでと励ましたい所であるが、言ったら「そう思うなら手伝って」と伝家の宝刀が返されるのは目に見える。是非とも、と満面な笑みを浮かべて協力したいところであるけど、そうなってしまったら理性がいつ切れるか分からない。
お分かりいただけたであろうか。
左を向けば、形の良い乳房がぷるん、と。
右を向けば、肌白い乳房がぷるるん、と。
前を向いても、後ろを振り返っても上半身裸になって乳房自慢をしている同学年の女性しか目に映らないのだ。決して俺自身が助平野郎と言う訳ではない。妄想でもなければ幻想でもない。文字通り女性が上半身裸になって胸談義をしているのだ。
正直、辛抱たまらない。しかも、この場に男は俺一人。何てエロゲーだよ、と突っ込みたいところであるが残念な事にこの世界では乳房を誇る事は常識だから困ってしまう。
俺こと工藤伸哉はこの世界の住人ではない。ある日、いつもの通りに通学していたら不思議な光に包まれて、目を開けたらこの世界に招かれていた。事実は小説よりも奇なり、と言う言葉があるが自分がその奇を体験するとは思っても見なかった。
「シンヤシンヤ。なにぼおっとしているの。あんたは私のパートナーなんだから、もう少ししゃきっとしなさい」
それもこれも……。
こんな状態に陥った事の元凶は、俺の態度を諌める彼女にあった。てか、キミもさっさと着替えようよ。なんか乳房の先端が主張しているけど、今まで何をしていたわけさ。
「無理言うなよリリス。てか、早く着替えてよ。目のやり場に困るから」
クラスの女性達よりも小振りだけど、それでもれっきとした乳房。見慣れているとは言え、目の前で小刻みに揺らされては鋼の理性も熔解してしまうだろうが。
「あんた、まだそんなこと言っているわけ? 毎日、触って揉んでいるでしょ。少しは慣れたらどうなのよ」
「なれるか!」
確かに色々と理由をつけて触らせたり、マッサージと称して揉ませたりしているけど、誤解を招く事は……。この世界ではそんな誤解は発生しないか、うん。男に己の乳房を揉ませる事なんてこの世界では常識らしいし。
「そんなことより、いつになったら俺は元の世界に戻れるんだよ。かれこれ二ヶ月は経っているぞ」
「言ったでしょ。元の世界に戻るには超乳レベルの魔法を覚えないといけないの。元の世界に返りたいなら、私に協力することね」
「言うに事欠いて、それかよ」
この女、あろう事か自分の胸のサイズを大きくする為に禁術指定されていた召還系統魔法を使ったのだ。何でも乳神様と言う冗談みたいな存在を召還しようとして失敗して、俺がこの世界に呼ばれたらしい。いい迷惑である。
「そんなことより、今日はDランクの子と勝負するのよ」
「お前、何て無謀な事を。自分がこのクラスの中で最低ランクである事を少しは自覚しろよ」
「う、煩いわね。勝てば一気にランクアップできるのよ」
「だからって、お前なぁ」
二つ下のBランクのお前さんがDランクのお嬢さんに勝てる訳ないだろうが。二段上のランカーに勝てた前例はないって言ったのお前だぞ。
「とにかく、あんたは元の世界に帰りたい。私はプティーズになりたい。その為にはランクを上げる必要がある」
「分かった、分かった。分かったからその格好のまま近寄らないで。早く衣装に着替えてきなさい」
さっきから腕に貴女の乳房が触れてどうにかなりそうなんですよ。特に自己主張の激しい突起物が。わざとなの。わざとだよね、これ。
「分かれば宜しい。なら、戦前にいつものあれ、頼むわね」
「……やっぱり、やるわけね」
不敵な笑みを浮かべる彼女の言葉に項垂れる。これから行う桃色試練に打ち勝つ事が出来るのか、再び鋼鉄の精神が試されるのであった。暴発するのだけは絶対に避けなくては。
――***――
この世界では魔法を使えるのは女性だけらしい。何でも魔法の源である魔力は女性の乳房に秘められており、乳房が大きければ大きいほど魔力は比例して膨れると言われている。その理論で言うならば使えば使うほど乳房が小さくなるのでは、とツッコミを入れたくなるのだが、魔力を使っても乳房が小さくなる前例は今までないとのこと。
俺のように魔力を持つ男性もいる事はいるのだが、前例を含めても三人しか発見されておらず、希少な存在であるらしい。そもそも、この世界では男性の出生率は少ないようなので一夫多妻になるのも珍しくないとの事だ。
話しはそれたが、この世界では胸の大きさが絶対なる戦力の差。ランク一つならば勝てる可能性もあるらしいのだが、二つも違うと圧倒的な戦力差が生じてしまう。現に我が相棒ことリリスはDランクの少女に終始押されている。
「一気に挽回してやるわ!」
このまま続ければジリ貧になる事はリリスも理解していたのだろう。一気に勝負に出たようだ。対戦者と距離を開けて、切り札の羽根扇子を取り出す。
対戦者もリリスが大勝負に出たことを察して、受けて絶つ為に奥の手を取り出したようだ。彼女の奥の手はハープだよな、あれ? 楽器を使用するのもありなんだ。知らなかったな。
舞い踊るリリスとハープを奏でる対戦者。一見すればただの発表会にしか見えないのだが、踊るリリスの周りには白い羽根が生み出され、奏でる対戦者には無数の音符が現れる。
「行くわよ、これが私のとって置き。【フェザー・アロー】」
羽根扇子を突き出すと同時に数多の白い羽根が対戦者に飛来する。対する対戦者もハープを奏でて、無数の音符をリリスに目掛けて飛ばしたのだった。
飛び交う羽根と音符。衝突する度に小さな火花を散らしていく様は目を引くものがあったが、リリスが生み出した【フェザー・アロー】は対戦者の音符攻撃によって飲み込まれていく。
直後、試合終了の合図がなる。結果はリリスが23点。対戦者が77点とリリスの惨敗で終わった。
――***――
「なあ、リリス。元気出せよ」
帰宅途中、試合に惨敗した事を未だに尾を引いていた。俯いたまま、一度も返事をする事無くただただ歩くのみ。普段ならば、寄り道して買い食いの一つや二つするはずなのに、お馴染みの甘味処すら目線に入れる事無く通り過ぎるのみ。
「やっぱりさ、もう少し地道に研鑽しようぜ。ちゃんと協力するからさ」
「……どうやってよ」
やっと、返事をしてくれた。
「胸を大きくするなら、俺が毎日揉めばいいだけの話だろ。数十分揉めば、一ミリ大きくなる魔力が俺の腕にあるみたいだしさ」
どうにも、リリスに召還された影響からか、俺の両腕には女性の胸を規定時間以上揉めば一ミリ大きくなる微妙な能力が宿されているらしい。それでもリリス達からしてみれば希少な力らしく、この力目的で自身の胸を差し出した女性は数知れない。もちろん、リリスにも朝昼晩に加えて試合前などに揉ませてもらっている。その時の漏れ出す彼女の声がエロくて中々クるものがあるのだが、今は関係ないな、うん。
「それじゃあ、ワンランク上げるまでに最低一ヶ月以上はかかるわよ。それだと、何時まで経っても帰れないわよ、あんた」
「千里の道も一歩からってね。着実に歩を進めようよ。って、もしかして俺の事を気にして、あんな無茶なまねしたの?」
「わ、悪い。一応、私のせいで無関係のあんたをこの世界に引きずり込んだんだし。そりゃあ、責任感じないわけないでしょ」
「いや。嬉しいけど、俺のせいであまり無茶はしないで欲しいかな。何かあったら、心配するし」
「し、心配してくれるんだ」
「当たり前だろ。俺はお前のパートナーなんだろ?」
「そ、そうね。それじゃあ、パートナーらしく帰ったら早速ケアしてもらおうかな。後、お風呂と寝る時もお願いするわね」
「えっ!? お風呂と寝る時って……。まさか、一緒に?」
「当たり前でしょ。あんたは私のパートナーなんでしょ、シンヤ」
こ、こんな時にそんな笑顔を見せるのは卑怯だな。
「お、俺だって男なんだから、何かあっても知らないぞ」
「それって子作りしちゃうって事? そうなったら、責任とって貰うからね」
……俺、我慢できるよね。