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東京鎖国  作者: 憂木冷
9/13

09(龍)



 櫻田篤希は嗤った。

「あは。あはは。あははははははははははははははは」

 口の端からは血液がこぼれだしている。

 カナタお姉さんの蹴りは、脚が三割も伸びていなかった。本当に当てただけの様に見えたけど。それこそ拳銃を持つ相手に圧勝してしまうような二人が全速力でぶつかれば、無事なはずがない。

「やはり、適いませんね」

 篤希は手から刀をこぼし、ごろんと仰向けに転がった。少しだけ捲れたシャツの裾からは、内出血で赤黒く滲んだ腹部が見えていた。おそらく、いくつか臓器が破裂したのだろう。見る見る内に肌の色は濃く広がっていた。

「篤希……」

 つい、声が漏れてしまった。自分を苦しめた強敵が意図もあっさりと終わりを迎えようとしている姿に、私の情は寂しさに似たものを感じていた。

「あらあらあら、囮さん。そんな同情したような声をだして。介錯かいしゃくでもしてくださるんですか」

「馬鹿言わないでよ」

「ふふっ。残念ですわ。あなたのこと、殺してあげられなくて。本当に、愛して……いましたのに」

 その篤希の本心は今までも聞いてきた。「愛している」と言うとき、彼女は本当に幸せそうな顔をする。彼女はヒトが好きなんだ。哀札会の人間は、そんな彼女の心を犯した。

 篤希に何があって、今こうしているのかは知らないけれど。私は、彼女のことを救いたかったのかも知れない。

 本来。博愛主義を謳う櫻田篤希に、ヒトを切るどおりなんてなかったはずだ。

 愛するヒトを殺すことが幸せ。そんな呪いの様な思想から、救いたかったのかもしれない。

「……篤希。あんたは間違えたんだよ。私はあんたのことなんて大っ嫌いだったけど」

 腕のなくなった右肩を押さえながら、篤希に寄る。

 同情で憎しみが消える訳じゃない。今までしてきたことは、死んだからって帳消しにはならないし。私がされたことも忘れはしない。この右肩の痛みはなくなりはしない。

 それでも、篤希の持っている愛情を。

 私は、確かに感じ取って来てしまった。

 憎しみで愛情が消える訳じゃない。この、篤希に対する思いは、憎しみ一つでは語れないんだ。

 だから、彼女は間違えた。信じる人間を間違えた。

 横たわる篤希の横に膝を着く。必死に呼吸しようと開く唇からは、真っ赤に染まった歯が覗いた。

「それでも。死んだら悲しいよ」

「あはは。なんですかそれ」

 顔を横に伏せて血を吐き出した。また上を向くと、頬を流れる赤い粒が顎から頸動脈を逆流するように下って行き、鎖骨に触れた。

「教祖様の居場所を教えることは、できませんわ」

 目をつむり。篤希は言った。



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