実験と新事実
私の所持している魔法は神聖魔法の回復と盾の魔法だけ、あとは使用する魔法を強化する魔導学の魔法があるぐらいで、基本的には回復がメインである。
現在のMPは180これを効率よく回復力に変換したとして、エードを45回分450HP回復する計算だが、戦闘中に45回も回復唱えてる間に殺されるのが落ちなので、非効率になろうとも一回の回復力を底上げした魔法をカード化するのが良いだろう。
使用する魔法は、神聖魔法ハイ・エードこれを魔導学で凝縮して1.5倍にすることができる。回復力は自身の追加威力を足して魔導学の倍化を掛けたことによって39になる、消費魔力はカード化までして60MP、3枚作ったら気絶コースなので、これを1枚と、更にこの魔法を範囲化まで掛けて108MPの2枚を作っておこう。これなら気絶しないで作れるはずだ、たぶん……
2枚のカードを作り終えるのに1時間ぐらいかかっただろうか、現在の魔法発動成功率は魔導学が47% 精霊魔法系は32% 神聖魔法が34% つまりは、知能、精神、神気の数値がそのまま発動率になっている。普通に魔法を使っていたのでは成功率が低すぎて発動が困難なのだが、補助動作として精神集中をすることによって発動率が上がる。もしくは魔法発動媒体を使って発動率の底上げをするのが普通だ。俗に言う魔法の杖がこれにあたる。
「発動率が低すぎて集中に時間が掛かりすぎる。戦闘中の回復魔法は無理だな……発動媒体を買うか能力値を上げて成功率を上げるしかないんだけど、どっちにもメリットとデメリットがあるんだよね……とりあえずは発動媒体の値段次第で買うか作るか考えよう」
時計を見ると7時を少し回ったところだ。蛍光灯の明かりに慣れているせいか蝋燭の明かりが風情を感じさせるが、これで生活をするには慣れが必要だと思う。
魔力も尽きたし今日はこの辺にしてご飯を食べて銭湯に行って寝よう。
目が覚めるとまだ暗く、窓を開けると朝の静けさと日が昇る前の薄紫の空が見渡せる。普段からこの時間に起きるため、こんな世界に来ても同じ時間に勝手に目覚める。ステータスを確認してMPが1増えているのを確認した。やはり使うと増えるみたいだが能力値は上昇していない、MPの上限だけがあがっているようだ。
ちょっと使っただけでも増えるのだろうか? この辺は夜にでも検証しよう。
1階に下りると丁度サマンサさんが起きてきたところなのか店の掃除を始めようとしていた。
「おはようございます。顔を洗いたいのですがどこでしたら?」
「そこの扉から出て左に井戸があるからそこでやっとくれ、朝食はもうちょっと後にならないと食べられないから、少し待っとくれね」
井戸に行き桶で水を汲んで顔を洗い、丁度良い広さの庭なので日課の体操を始める。体が資本なので朝の体操とランニングは欠かさず行っている。
昨日は気疲れもあったのか起きられずにできなかったが、朝の運動をしないと体が目覚めた感じがしない。体がほぐれて来た頃になって漸く朝日が昇り日差しの暖かさが体を包む、土地勘も無いので覚える為にもランニングをしつつ観察をするが、体がまだ成長途中なので無理の無い程度で宿にもどり、整理運動をして井戸から水を汲み頭から被る。
「ふぅ、体力がないからすぐにバテるけど、柔らかくて良い体だし頑張って鍛えよう。お腹も減ったし着替えてご飯食べて、ギルドに行ってみよう」
宿の朝食は肉と野菜のごろっとシチューデミグラス味でした。冒険者宿なだけに朝からすごい量で味もまずまずと学食を思い出す。
ギルドまで徒歩30秒すばらしい立地だ。扉を開けて中を見ると5,6組のパーティーが掲示板の依頼書とにらめっこしているので、その横をすり抜けて猫耳受付嬢メルルのもとへ行く。
「おはようございます。スキルとか冒険の基礎知識などの調べ物をしたいんですが、そういった資料や書物はありませんか?」
「おはようございます。そうですね、簡単なものなら2階の受付に行ってもらえれば資料を出してもらえますよ。詳しいものになると書物屋で買うしかないですけどね」
さすがは受付嬢、こんな子供であっても冒険者として一人前に扱ってくれるのか丁寧な口調で教えてくれる。
礼を言って2階の階段を上がって見ると、資料室と図書館をあわせたような部屋でその手前にカウンターがあり、40代ぐらいの細身の男がカウンター内で作業をしている。
資料を探していることを言うと冒険者専用らしく、ギルドカードの提示を求められたのだがカードを見せると驚かれはしたが必要な資料を出してくれた。資料はこのフロアからの持ち出しは禁止されているが、書き写すのは良いらしく紙は1枚5銅貨で、わら半紙のような物を売ってくれた。
1時間ほど資料と格闘して色々と分かったのだが、どうやら違う世界ではなく私がゲームしていた時代よりも何百年か時が過ぎているようだ。ようだ、と言うのはこの世界の文明は1度滅んでいるのだ。
詳しいことはここの資料では書いてないが当時の1国家が武力によって他国を侵略し、その際に北西に位置していた宗教国家を滅ぼした。しかし、その国は古くから魔物を封じた結界をはっていたのだが、その戦いで結界は解け封じられていた魔物が大陸になだれ込み、世界は滅亡寸前まで追い込まれたのだ。
当時の英雄と呼ばれる者達によって再度結界を張ることに成功したが、すでに大陸には多くの魔物が跋扈し混沌とした世界になってしまっていた。
それからどれほどの時が経ったのか記されては居ないが、結界維持のために英雄は命を散らしていったが、魔物から取れる魔核に魔力が大量に含まれていることに気がついた研究者が、結界維持に必要な魔力を魔核から捻出できるように改良し、これを応用して街道の要所に同様の結界装置を設置して人類(知性有る種族全て)は滅亡から救われたのだった。
だが、支払った代償は大きく人口は当時の1割ほどに落ち込み、人類の支配する土地は宗教国家と中央国家と呼ばれる都市の一部までに激減した。
そして時は経ち、徐々にではあるが人類はその版図を広げ中央都市を奪還した時に、そこを新たなる国として立ち上げた。その国の名は「ファーレン」生刻と年号を改め文明は歩き出した。
その後、宗教国家は再び国としての体裁を整え「トリニジア」と名前を変えて北西に法王庁を築いた。
月日の数えは1年は365日で、61日間で1季節として6季節に分かれている。 最初の季節だけが60日計算らしい、この辺は現実と変えてしまうと管理が面倒だったのかゲーム作家がそのようにしていたおかげで、現実から持ってきた懐中時計は時刻を狂わせることなく役にたっている。
スキルに関しては多くのスキル系統が失伝したらしく、戦士系、魔法系ともに少なくなり現在は
戦士系:戦技・剣術・魔剣術・防御法・気功術・格闘技・射撃
魔法系:古代魔法・属性魔法・神聖魔法・付与魔法・獣魔術・龍魔術・時空魔法
46あった系統はこの14系統まで減ってしまっている。獣魔術や龍魔術は種族魔法としてそれぞれの種族しか伝承していないようだ。時空魔法に関してはアイテムが存在しているから、過去に有ったとされていて現状では使えるものが居ない。
そのほかの失伝した系統は、現存の系統にスキルのいくつかが融合されたものもあるが、多くの奥伝とされた技は失われてしまったようだ。
個々のスキルに関しては、それぞれの専門書を買うかその職業を持っている人から習うしかない。
一般スキルに至っては100以上あったはずだが、どれほど残っているかはここの資料には載っていないようだ。
このゲームは厨二感あふれるTueeeするためのもので、各種スキルや特殊能力を選択して取得することによって、手を叩いて物を等価交換したり、禁呪を使って武器を取り出してみたり、全身装甲の鎧を作って戦ってみたり、色々な戦闘スタイルを作り出すことができるシステムだったのだが、普通の剣と魔法の世界になってしまっている。
まるで世界が自分を守る為に多くの系統やスキルを、この世界から消したかのような作為的なものを感じる。アリエナイと思える系統やスキルが無くなって普通の世界が出来上がっている。
言い知れぬ不安感に襲われる。もしこの世界がそのような意思を持っているとしたら、私のようなアリエナイ系統とスキルを持った異物をどうするだろうか、それともこの世界の意思がその系統とスキルを持つ私を呼び込んだのか、どちらにしても今この世界にない系統のスキルは隠しておくべきだろう、出る杭打たれる碌なことは起きないのが世の常だ。
さて、問題はハンス君だな、錬金術を見せちゃったし説明もしちゃったな、もう一度口止めしておくぐらいしかしようは無いんだけどね……
GWはがっつり仕事なので、次はGW明けです。