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ギルドの濃ゆい人たち


 色々と試していたらどたどたと騒がしい足音が聞こえてくる。懐中時計を見てみると1時間ほど試行錯誤していたようだ。


 ばたんっと言う音を立てて応接室の扉が蹴破られる勢いで開くと数人の男女が入ってくる、髭面のドワーフ、ザ筋肉な体の壮年の男性、黒いローブでも隠しきれないほど胸部に母性が宿ったエルフの女性、そして受付嬢が続いてそっと扉を閉める。


「オヌシがこのポーションを持ち込んだのか?」


 髭ドワーフが掴みかからんばかりの勢いでテーブルのポーションと私の顔を交互に見て凄んでくる。


「は、はい。そうですが、なにかありましたか?」


 チキンな私は軽くキョドりながらソファーを横にあとずさる。


「まぁまぁ、落ち着けよウィルキン、子供を脅してどうするんだ」

「そうですよ、泣かせたらあなたの髭を切り落とすわよ?」


 そう言ってエルフと筋肉さんが止めるとドワーフは落ち着いたのか、ソファーにどっかりと座り込むとニヤリと凄み笑いをして謝ってくる。私は唖然として視線を彷徨わせる。


「いや、すまなんだ。脅すつもりはないのじゃが、どうにも押さえが利かんでのぉ」

「ほらボウヤ、もう怖いお爺さんはあっちに行ったから教えてくれる? このポーションはどこで手に入れたのか、お姉さんに教えてくれる?」


 そう言って私の横に座って、私の頭を胸に抱くようにして囁いて聞いてくる。頬に触れる暖かな胸と鼓動が聞こえる……しぐさが女らしい筋肉さん……


 あー、この世界にもやっぱり居るんだなー……頬が触れている大胸筋をぴくぴくするのは止めてほしいなー……


「おいエルディエット、少年が固まってるじゃないか、お前も離れてやれ」


 そして、妙に男らしいエルフのお姉さん。カオスだ冒険者ギルドに来たのは間違いだったんだ。帰って魔術師ギルドか商業ギルドに行こう……


「まぁ、なんじゃな挨拶もまだじゃったな、ワシはこの町の商業ギルドの長、ウィルキンじゃ」

「同じく魔術師ギルドの長、フランだ」

「ワタシはこの冒険者ギルドのギルド長兼酒場のウエイトレス、エルディエットよっ」


 ごっついと形容したい笑顔の髭爺ドワーフのウィルキン、おとこらしいエルフのフラン、最後にぶちゅっと音がしそうなウィンクと投げキッスを贈ってくるエルディエット。


 うん。今すぐ適当な商店にポーションを売り払って違う町へ移動しよう。そう思って立ち上がる。


「あ、それじゃ私はこの辺で……」


 そう言って立ち上がり、扉の方を見ると目線を下に落としてプルプル震えて扉をガードしている受付嬢、どうやら詰んでいるようです。

 私は座りなおし深呼吸して覚悟を決めて話す。


「ポーションに何かありましたか? 出所を知って何をするのか教えていただければ答えなくはないのですが?」


「定例会議があって集まっとったんじゃが、昼過ぎでアイテム鑑定ができる職員が出払っていて、オロオロしているのを会議が終わって出てきたワシらがみかけたんじゃ。それで話しを聞いてワシがアイテム鑑定を行ったら高品質ポーションなんで買えるだけ欲しいと思ったんじゃよ」


 ウィルキンが言っていることはもっともな話ではあるが、おかしな点がある高品質ポーションとはいえ8級程度で三大ギルドの長が駆け込んで来るなんて何かありそうだ。どうしよう作った事は黙っていたほうがいいだろうか、しかし、うまく話しを持っていければギルドからの庇護が得られないだろうか……


「製作者を知っています。教えても構いませんが製作者は私にとっても重要な人物なので、危害を加えたりその人の不利になるようなことをしないと念書を書いていただけるならお教えしても構いませんが?」


「おお、そうか、そんなことで良いなら用意しよう。メルルさんや、ちぃっと契約書を取ってきてくれんかの」


 そう言って戸口でプルプル震えている受付嬢に声をかける。どうやらメルルという名前のようだ。


「は、はい、すぐにっ」


 この場の雰囲気に耐えられなかったのか逃げるように扉を開けて出て行くと、少ししてから1枚の羊皮紙を持ってきた。


「お持ちしました」

 

 メルルは羊皮紙と小さいナイフとペンを机の上に置き上司であるエルディエットの方を窺うが、エルディエットはそっぽを向いて目線を合わせないようにしている。


「それじゃ契約の魔法を頼む。条件はさっき坊主が言った通りで構わんよ」


「はい、では私、冒険者ギルド・ファルタ支部ギルド員として契約の魔法を行使します。内容は先ほどエイジアさんの言っていた通りで宜しいのですね?」


 その言葉にウィルキンは大仰にうなずく。

 メルルは羊皮紙に先ほどの文言を書き、それをエイジアに見せて確認をとる。


 内容は 「エイジア・アーガスの指定するポーション製作者に対して、危害を加えたり不利になる行為をしないことを誓う」 というものでウィルキンにもその内容を見せ、自分の血で署名をしてもらう。


「では、契約の魔法を「いや、待ってください、署名があとお二方足りてませんよ?」


 私は、メルルの言葉をさえぎりエルディエットとフランの方を見ると、エルディエットは気づかれたかと舌打ちし、フランはニヤリと笑っている。


「ボウヤは中々抜け目ないわね、まぁ、しょうがないわねアタシもサインしましょ」

「賢いなうちのギルドに来ないか? その若さでその注意力、鍛えればかなりの使い手になるだろう。どうだ、俺の後継者として鍛えてやるぞ?」

「ちょっと、フラン! このコはうちのギルドに登録したのよ。引き抜きはヤメテちょーだいっ」


 しばらくして落ち着いた二人は契約書に署名をして羊皮紙をメルルに渡す。


「では、これで契約をしますね 「メルルの名を礎にして告げる、汝は契約の楔、戒めと断罪の意を示す物、古の理に従いここに契約の誓いを結ばん」」


 メルルは羊皮紙に魔力を込め魔法を発動させると、羊皮紙が輝きだし光の中に解けるように消えて唐突に光が消える。


「はい、これで完了です。契約の詳細が見たい場合はギルドカードから見れるようになっていますのでそちらを参照してください」


 メルルは大きく息を吐き出し、私の仕事は終わったとばかりに後ろに下がる。


「よし、契約は結ばれたな。それじゃこの製作者を教えてくれ!」


 ウィルキンは待ってましたとばかりににじり寄って来る。後ろの二人も興味津々でこちらをじっと見てくる。


「このポーションを作ったのは私ですが、何かおかしなところがありましたか?」


「「「はっ?」」」


 3人は信じられないことを聞いたと驚きの表情だ。そしてウィルキンがいち早く正気にもどり頼み込んでくる。


「こ、これを坊主が作ったと言うのか? 製法を聞かせてもらえんかの? 場合によっては対価も支払おう」


「その前に何かおかしなところがあるのかという質問には答えてくれないのですか? 高品質とはいえ8級ポーションなんて作れる人間も代用品になるものもあるでしょう?」


「いや、すまなんだ。このポーションが高品質であることが問題じゃないのじゃよ。属性が付いていることも1つではあるのじゃが、品質保持期間が2年など初めてみるんじゃよ」

「そうよね、ギルドで売っている物でもせいぜい2ヶ月が良いところだわ。それが2年とかまるで伝説の時空間魔法でも使ってないと説明が付かないのよねぇ」


 なるほど、品質保持期間か確かに上級職の錬金術師でないかぎりこんなことにはならないのかもしれないけど、見たこともないってほどじゃないはずなんだが、それに時空間魔法だって上級職ではあるが使い手がまったく居ないわけじゃないのに伝説扱いってのは何なんだろう。やっぱり似てるだけで違う世界なんだろうか……


「時空間魔法ってのは何ですか?」


「んー、時空間魔法っていうのはね、まぁ、そのままの意味で時間や空間を操作する魔法なんだけど、大昔にそんな魔法を使ってた人がいたらしいのよ。もう文献も魔法自体がどんなものがあったのかすら分からないんだけど、その魔法を使って作ったとされる物品がいまでもアーティファクトとして残っているのよ」

「聞いたことはないか? アイテムボックスってマジックアイテムを。外側は鞄だったり箱だったりするんだが、中はとても広く作られていて中に入れたものは時間が経過しないんだ」

「アイテムボックスはレアなものではあるのじゃが、当時には多く作られていたのか未だに結構な数が出回っておるし、遺跡とかにはその効果のある箱や鞄が多く残されておるため国の研究者が解析して時空間魔法が存在したと証明されたのじゃよ」


 まるで自分の功績かのように誇らしげに語る3人。しかし、時空間魔法が大昔に存在していたということは、別世界じゃなく知っている時代よりかなり時間が経っているって事なのだろうか。これも後で調べてみよう、とりあえずはこの場をどうにかして切り抜けて一人になろう、色々と調べたり考えたりする時間が必要だ。


 あとは錬金術についてもとりあえず秘密にしよう。年齢的に上級職を手に入れているのはまずいと思っていたが、それ以上にまずい事態になりそうだ。


「へぇ、そんな物があるんですねー。あ、そうそう、ポーションの製法に関しては秘密ですが、売ったものをどのようにしようと自由ですよ? いくらで買っていただけますか?」


 私は言外に自分で解析する分には構わないと含み、いくらで買ってもらえるかを聞く。


「そうじゃのぉ、メルルさんや、いまは8級買取はいくらじゃったかいの?」

「えっと、そうですね。8級は売値5銀貨なので、買取は3銀貨です」

「だそうじゃ、15銀貨じゃの」


 ウィルキンはそう言ってポーションに手を伸ばそうとするが、私はさっさと回収してにっこりと笑って言う。


「そうなんですか、じゃぁ、1本3金貨、15金貨でしたら売って差し上げてもいいですよ?」


「な、何を聞いとったんじゃ。銀貨じゃよ、金貨じゃなくて」

「はは、子供だと思って足元を見ようとするだなんて、ギルド長のすることじゃないですよね? たとえ商人だったとしてもです」


 青い顔をするウィルキンと後ろでニヤニヤと笑っている2人が対照的だが、どうやらウィルキンがやり込められてるのが楽しいのか、私の交渉がどうなるのか興味があるのか傍観体制だ。


「いや、悪かった。ちぃっと試してみようと思っただけなんじゃよ。な、頼むからもうちょっと負けてくれんかのぉ?」

「そうですね先日知り合った、ファーレン商業組合のロンダさんに買ってもらえないか聞いて見ましょう。研究資料として良いお値段をつけてくれるでしょう」


 そううそぶいてポーションを持って立ち上がろうとするのを、更に青い顔になって慌ててとめる。


「ぼ、坊主、ロンダの知り合いなのか、わ、分かった15金貨払う。じゃから売ってくれ!」

「毎度ありぃ」


 にっこりと笑いポーションをテーブルに戻して手を差し出す私を見て、4人が青い顔をしている。




 お読みいただきありがとうございます。

 週1投稿予定ではありますが、お休みがシフト制なので不定期投稿です。

 できるだけがんばります。


 

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