異世界二日目の朝は妹ダイブから
ロンダは実は盗賊で、私はお腹を殴られ気絶させられ身ぐるみ剥がれて奴隷商へ売られました。
「ぐはっ!」
突然お腹に衝撃が走る。目の前の毛布を跳ね除けると目の前には可愛らしい女の子が乗っかっていた。
『あれ? 盗賊は? ・・・・・夢か・・・』
「おにぃちゃん、あーさーだよー、早く起きないと、お父さんに怒られるよー」
元気な声と共に私の毛布を剥ぎ取ろうと、手を伸ばしてきたアンナと目が合う。
アンナは驚いたのか目と口を真ん丸く開いて叫んだ。
「おにぃちゃんが、おねぇちゃんになってる!!」
「いやぁ、本当にすみませんでした」
「ごめんなさい」
朝食時に娘の頭と自分の頭を下げつつロンダさんが謝罪をしてくる。
どうやら、アンナちゃんは私がキャラバンに合流していることを聞かされていなかったらしく、寝ていた私を兄だと思って起こそうとしてくれたらしい。 妹ダイブで……
これが特定多数の人に大人気のご褒美「妹ダイブ」か、可愛いがとにかく体格差がない分普通に痛いんだけど……
「いや、大丈夫ですよ。アンナちゃんも起こそうとしてくれただけですしね」
思ったことはおくびにも出さずにそう言って理解を示すが、普段からその技を食らっているらしいハンスは勇者を見る目でみてきている。 妹が居ない私としては多少のお転婆ぐらいは可愛い範囲だと思うのだが、兄としては思うところもあるのだろう。
「食事が終わったら片付けをしてさっそく町へ向かいますが、よろしいですか?」
「はい。宜しくお願いします」
そうしてアンナちゃんと仲良く片付けを手伝い出発の準備をする。そして道中ではモンスターが出ることもなく昼過ぎごろになって町が見えてきた。
その間もロンダさんと世間話をしつつ情報収集に努める。
今後の予定としては、町へ付いたら冒険者ギルドへ登録してギルドでポーションを買い取って貰い、そこで1日の護衛依頼料金を聞いて些少でもロンダさんに支払いをするべきだろうと思っている。
なので、町の情勢やギルドの評判を聞いている。場合によっては魔術師ギルドか商業ギルドに登録したほうが有利に働くかもしれないからだ。
しかし、気になることがいくつか判明した。私の設定である出身地の「エルダーフォレスト」は北方の寒冷地にある森で魔道国家「ファン」の領地にあるのだが、エルダーフォレストどころか、ファンすらも名前を聞いたことも無いと言われ愕然とする。
地図は持っていないとのことで大まかな地方や国の名前を聞いて、もしかしたら似てはいるが違う世界に来ている可能性が出てきた。
これ以上話しの辻褄が合わなくなると、色々と問題が発生しそうなので、この辺の特色とかお勧めの料理とか当たり障り無い話をしていると町に着いた。
町の規模は人口1000人に達するかどうかというところらしいが、貧民街がある為正確な数はわからないそうだ。町には似つかわしくない防壁があり四方に門があるそうだ。南門から徒歩で半日のところに迷宮があるらしく冒険者ギルドは結構な賑わいだそうだ。
迷宮についても色々と聞きたかったのだが、一般常識範囲の知識みたいなので深くは聞かずにおいた。
「エイジア様は身分証明できるものを何かお持ちですか?」
衛兵が検問をしている列に並びつつロンダがそっと聞いてくるが、そんな物は何も持っていないし、出身地すらも怪しくなったため身分証明のしようがないので、首を振って否定の意を示す。
「わかりました。ではキャラバンの徒弟として中に入り、冒険者ギルドで身分証明を作ってしまうのが良いかもしれません。もしくは商業ギルドでも構いませんが商業ギルドの身分証明だと町や都市に入る際の税金がかかるので、冒険者ギルドの身分証明がよろしいかと存じます」
「そうですか、助かります。掛かる費用は必ずお支払いしますので、宜しくお願いします」
ロンダの説明と申し出に何か私の事情を察してくれた感じがするのだが、何をどう誤解してくれたのかはわからないが、助かると思い礼を言って頭をさげる。
そうこうしている間に門を抜けて町に入ると、町の中はお昼過ぎの喧騒に包まれている。
活気のある屋台や地べたに商品を並べただけの露天商も居て、それぞれが声を張り上げて売り込んでいる。
「それではエイジア様、私達はこれで失礼します。このメインストリートをまっすぐ行った南門付近にある「小鹿の面差し」と言う宿にしばらく滞在しておりますので、何かあれ……いえ何もなくても遊びにお越しください」
「何から何まですみません。ありがとうございます。近いうちに寄らせていただきます」
「では商売の神のご加護がありますように」
そう言って馬車は通りを南に進んでいく、荷馬車の後ろからハンスとアンナが元気に手を振ってくれている。
「エイジアさま、またお会いしましょう!」
「おねーちゃん、またねー」
私は手を振り返しながら、アンナの誤解を解くのを忘れていたことに気がついたが、まぁ誰かが訂正してくれるだろうと思ってそのまま手を振るだけにした。
屋台から良い匂いがしてきてお昼ご飯がまだなのに気づくが、まったくの持ち合わせがないので、取り急ぎ冒険者ギルドの場所を聞いて足早に向かう。
冒険者ギルドはかなりの大きさで酒場が併設されているのか、ギルドの外壁に座り込んでいる酔っ払いも居る。
ギルドの扉を開き堂々と中に入り一番近くにある窓口に向かう。
昼過ぎの為なのかギルド内は数人の冒険者しか居らず、併設されている酒場には遅めの昼食を食べているパーティーが何組か見える。目の前の窓口には20代前半ぐらいの猫耳の女性がこちらを怪訝そうな目でみている。
「冒険者登録はこちらでできますか?」
窓口に立ち受付け台の高さから一歩後ろに下がって、にこやかに声を掛ける。
「は?……は、はい。こちらでできますが、失礼ですがお歳はおいくつですか?」
怪訝そうな顔がさらに困惑を追加した妙齢の女性としては残念な顔になって聞いてくる。
「私は7才ですが、冒険者登録に年齢制限は無いと伺っていますが、何か問題でもありますか?」
純朴な少年が不思議そうな顔で小首を傾げて受付嬢を見る。と言う感じの演技をする。某金融会社CMの犬のように。
「あ、いえ、大丈夫ですよ。じゃぁ、ちょっと横の扉から中に入ってくれるかな? そこだと書類が書きにくいでしょ?」
受付嬢は慌てて子供あいての態度に変わってにこやかに手招きしてくれる。 案外ちょろいな。
中に入り奥の応接室で必要書類を記入していく、出身地などは面倒なのでそのまま書いて、聞かれたら私達の集落ではそう呼んでいるとでも言っておこう。
最後に魔力適合をするために、発行されたギルドカードに血を一滴たらして完了らしい。
「これで登録は完了です。ギルドカードを持ってステータスと念じれば自分のステータスが見られます。ステータスは他者からも見えるので任意でステータスの一部を非表示にすることができますが、衛兵やギルドなど公的機関からの提示の場合は「名前」「レベル」「所属」「ランク」「ジョブ」は開示する義務が発生します。 「所属」はここでの登録なので「ファルタ支部」となります。 「ランク」はS~FまでありFランクからスタートとなります。依頼を失敗なく10回こなすとランクアップ試験を受けることができます。あと細かなことはギルド会則に書かれていますので熟読してください」
「ここまで大まかに説明しましたけど、なにかわからないことはありますか?」
受付嬢はにっこりと微笑んで聞いてくる。私の今知りたいことはありきたりな冒険者の話しではなく、そのピコピコと動く耳の感触だけなのだが初対面で触らせてとは言いづらく、解りましたと言ってうなずくのであった。
「あと、ポーションを買い取っていただきたいのですが大丈夫ですか?」
上着のポケットからポーションを5本取り出して受付嬢に聞いてみると、受付嬢は私じゃ鑑定は出来ないんで1本借りますねと言って応接室から出て行く。
「さてと、今のうちに確認しておこう」
私はギルドカードを手に持ってステータスと念じると、そこにステータスが表示される。
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名前 :エイジア・アーガス
種族 :人間
性別 :男
年齢 :7才
レベル:3
ジョブ:学生
所属 :冒険者協会ファルタ支部
ランク:F
賞罰 なし
能力値 ≪
スキル ≪
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どうやら偽装スキルは効果を発揮してくれているようで種族が人間と表示されている。あとはジョブが何故か1個しか表示されていない、まして学生の専攻も表示されてない。
何でか分からないけど表示されないならそれでいいか……
次に「能力値」と書かれている横に「≪」があるが、触れると能力値が表示された。
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HP :41
MP :180
体力 :17
強さ :24
器用 :22
知能 :47
精神 :32
神気 :34
魅力 :42
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どうやら触れる事で表示を切り替えることができるようだ、さっきの≪≫は一覧を表示するかどうかの記号で、隠したい箇所を触れて念じると半透明になる、この状態だと他の人から見えないようになっているようだ。
あと、MPが1増えている? 昨日ギリギリまで使ったから成長したのだろうか? これは後で実験してみよう。
お読みいただきありがとうございます。
書けるときに書き溜めて、、、と思いつつも投稿しちゃいます。
もっと流れを早くしたほうがいい気がしてるんですが、どう端折っていいか悩み中。